第25話

 アルンダ―ル王国の北には、瘴気(マジワリ)の森が広がっている。

 その森の中に、中型の見るからに古い飛行船が着陸していた。


 全体の塗装は色あせ、船体の所々に赤茶けたさびが流れた後がついている。

 四方に上を向いた固定式のプロペラ。

 後ろに推進用のプロペラ二枚。


 船底の荷物庫カーゴの扉が開いていた。

 入口の周りには複数の檻。

 ガラの悪い男たちが檻の周りに立っている。


「今回の狩りは大量だな」

「ああ、アルンダ―ルの王が変わるかもしれないんだろう」

「亜人たちを奴隷化するらしいじゃないか」

「ちょっとは(奴隷狩りが)やりやすくなるかなあ」


「ふにゃあ」

「にゃにゃあ」

「にゃふ~~ん」


 男たちの腰くらいの高さの檻の中には、三人(匹?)の猫妖精ケットシーが入れられている。 


「……なんか落ち着いてるなあ」

 ガラの悪い男の一人が伸びをしている猫妖精ケットシーを見ながら言った。


 檻の中に入れられても危機感のかけらもない猫妖精ケットシーたち。


「ああ、猫妖精ケットシーは元々、国や家を持たない流浪の民なんすよ」

「旅先の家に居候して、簡単な家事を手伝いながら、種族特性スキルである、”マネキネコ”で小さな幸運をもたらすんです」

 若い男が愛おし気に猫妖精ケットシーを見ながら言った。


「へええ、良く知ってるなあ新入り」

「里はこっち(アルンダ―ル)なんだろ」


「へえ、やんごとない方から紹介されまして」


 ――アルンダ―ルの騎士団長からの監視役か?


「それよりもこっちを見てみろよ」

 言った男の前には、布のかかった檻がある。

「おお」

「これは、これは」

「ほほう」

 檻を覗き込んだ男たちの顔がにやけ下がる。



 檻の中には、ネコミミと二股のネコシッポを持った巫女服の美少女が、膝を両手で抱えて座っていた。

 トラジマの耳を寝かして、ツーンと顔をそむける。

 手が少し震えていた。



「くっ」

 ――猫巫女様までっ

 新入りの男が檻の中身を見た瞬間、ギラリとした殺気を出した。


「これが、高位猫妖精ハイケットシーていうんだろ」

「可愛いじゃねえか」

「うへへへ」

「味見したいねえ」

「ねこにゃ~~~ん」


「いやいや、商品に手を出しちゃあやばいでしょう」

 新入りが慌てて言った。


「はっ、わかってるよっ」

「俺らが、一生稼いでも買えないんだろうなあ」


「おいっ、さっさと積み込めえ」

 奴隷頭が言った。


「へいへい」


 男たちが檻を飛行船に乗せ始める。


「……これを……」

 新入りの男が、檻の中の猫巫女に紙のようなものをかくれて渡す。

 文字の書かれた人型の紙だ。


「……これは、ヒミャコ様の式神の依り代……」

 はっと新入りの男を見た。

「肌身離さずお持ちになって下さい」

 小さな声で言う。

「……はい」

 猫巫女は、人型の紙を胸にギュッと抱いた。


 新入りの男は、ニャンドロスの密偵。

 猫のために命を懸けられるおとこである。


 奴隷商船は、瘴気(マジワリ)の森を超え、ハナゾノ帝国西方の辺境伯領に飛ぶ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る