第26話

「……亀だ……」

 カイラギは茫然とした声を出した。

 平型艦橋の四角い窓ガラス越しに、視界すべてを埋める巨大な海亀。

 背中の甲羅には赤く塗られた門と高床式の神殿。

 その周りを日本の城のような塀が囲む。

 ワイバーン飛行団の攻撃を何とかくぐり抜け、大河ナールを越えた。

 

「はい、ニャンドロスの飛行要塞ですね~」

 エメラルドグリーン色の瞳、肩までの銀髪。

 スノーオーガーらしく180センチの高身長だが、均整がとれて大きく見えない。

 白い普段着用のドレス。

 アルテだ。


「アーケロン級(クラス)の神社ですね」

 紅い瞳に黒縁眼鏡。丸く束ねた黒髪にはホワイトプリム。

 少し尖った耳。

 背中が大きく開いたメイド服。

 身長は170センチくらいか。

 リリスである。


 艦橋にいたアルテとリリスが答える。


「え~と」

 カイラギが二人にふり返った。

「ニャンドロスの猫妖精ケットシー達は優秀なフィッシュテイマーですよ~」

 アルテがのほほんと言う。

「”飛行性海洋生物”を使役するのです」

 リリスが人差し指を立てて小さく振りながら言った。


「警戒態勢をとらせた方がいいのでしょうか」

猫妖精ケットシーさん達は穏やかですよ~」

「お気楽で能天気な種族ですね」


「艦長、巨大な亀?から手旗信号」

 神社を囲む城壁の一画にある、櫓の上に旗を振る人影が見える。


 シュタッ


 と突然、褐色の肌のハーフエルフが現れた。

 黒い瞳に黒髪。長い髪は頭の真ん中でまとめて後ろに流している。

 少し耳が尖っていた。

 太腿ふとももが広がった洋袴ようはかま。クノイチらしく肌は露出気味だ。


 「コッキョウヲシンパンシテイル」

 「ハナシヲキコウ、だ」


 褐色のクノイチ、”イーズナ”第二王女が手旗信号を読み上げた。



 いま、三段空母、”朧月おぼろつき”の三段目の飛竜舎は大所帯だ。


 まずは、竜騎士、”ギルモア”の飛竜、”ピーテッド”。

 アルテのグレーターワイバーン、”マカロン”。 

 そして、先の戦いで味方についた三騎のファイヤーワイバーン。

 合流した、クファルカンの三羽の大鴉レイブンである。


 合計、八騎。本来は六騎の飛竜の運用を想定しているので手狭になっている。


「あ、アルテ王女」

「イーズナ王女も」

「カイラギ艦長」

 ガイル、マーク、オリビア、ファイヤーワイバーンの第四小隊の三人だ。

 暫定的にアルテ王女の指揮下に入っている。


「アーケロンまで話し合いに行ってくるわ~」

 アルテが、グレーターワイバーンに二人乗り(タンデムシート)の鞍を乗せながら言った。リリスが手伝う。

「うん、行ってくる」

 カイラギだ。

 イーズナも自分の大鴉レイブンに鞍をつけた。

 アーケロンに行くのは、アルテとカイラギ、イーズナと護衛にリリスの四人である。


「マカロン出ますわ~」

 アルテの後ろにはカイラギが座る。


 タンタンタン、バッ


 空母の一番下の滑走路から二人を乗せたグレーターワイバーンが少し助走をつけて飛び立つ。

 その後ろを、翼と尻尾、頭にはヤギの角を生やしたリリスが追う。

 イーズナを乗せた黒い大きなからすが続いた。 


 青い空の下、大きな海亀の横に、前後の長さがおなじくらいの三段空母が並んで浮かんでいる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る