第6話

カイラギとアルテ達を乗せた、補給艦、”朧月おぼろつき”は、魔術学園のある都市、”フラワーポット”に到着した。

 魔族の姫という、”アルテ”とそのメイドである、”リリス”について話し合うためだ。


 魔術学園の飛行艦の発着場だ。

「紅い飛行艦が止まってるな」

「あれは、ハナゾノ帝国皇帝、”ローズ”様の座乗艦、”テンドロキラム”だ」

「ローズ様が先に来られているなあ」

 カイラギが小さくつぶやいた。



 ハナゾノ帝国皇帝座乗飛行艦、”テンドロキラム”。


 ティアドロップ型の大きな気嚢(風船部分)。

 その下にある一体型の船体。

 左右の翼の先に二重反転プロペラ。

 ティルトローター式で翼ごと上を向いている。

 マッコウクジラの頭のようなブリッジが艦の先に貼り出ている。

 後ろは、昔の帆船のような、艦長室キャプテンルーム

 ここには、皇帝の執務室がある。

 また、簡単な迎賓館にもなっているのだ。

 ローズは、黒と赤の二騎の竜騎士を直掩に、大空から舞い下りる姿から、”空飛ぶ皇帝”と呼ばれている。



 女皇帝ローズのフットワークは軽い。


 リリスのメイド服はともかく、アルテの飛行服では皇帝に会うのは不適切だ。

 湯あみの後にドレスを渡された。

 アルテは180センチくらいの長身だが、体の各パーツのバランスが良いので大きく見えない。

 白銀の髪に翠色の瞳。

 少し茶色かかった白いドレスだ。


「良く似合っていますよ」

 カイラギがアルテのドレス姿を見て言う。

 軍の礼服に身を包んだ、カイラギが、アルテとリリスを迎えに来ていた。


「まあっ」

 ポッ

「ありがとうございますっ」

 アルテが、頬を染めながらうれしそうに答えた。


「行きましょう」

 カイラギがすっと手を出す。


「はいっ」

 アルテが彼の手に自分の手を重ねた。

 カイラギのエスコートで、皇帝の待つ会議室に向かった。



 魔術学園にある少し広めの会議室。


「こんなところですまない」

 部屋にいた赤毛の二十代後半の女性が言った。

 動きやすそうな質の良い赤いドレス。

 頭を下げずに言う。

 左右には護衛である騎士が二人。

 鎧の形から竜騎士だろう。

 

 普通、他国の王族を迎えるには迎賓館が使われる。

 しかし、アルテが王族と確認できず、しかも魔族であるためこのような部屋になった。


「ハナゾノ帝国皇帝、ローズ・ロンリコだ」 


 スッとアルテが優美な礼をする。

「アルンダール王国第一王女、アルテアレ・アルンダールです」 

「こちらは、侍女のリリスです」

 リリスの翻訳の魔法が二人に掛かっているため、会話は可能である。


 ローズ皇帝の横にもう一人小柄な女性が立っていた。

 顔立ちがローズに似ている。


「魔術学園学長、アマリリスです」

「元第一皇女、ローズ皇帝の姉になります」

 小柄だが豊かな胸。

 ゆっくりと頭を下げた。


 目の前に机と椅子がある。

「座りましょうか」

 ローズの声に、アルテとアマリリスが椅子に座った。

 カイラギがそっと会議室から出ようとする。


「カイラギ少佐も座って欲しい」

 ローズ皇帝が声を掛けた。


「了解しました」

 カイラギが、アルテの横の椅子に座った。

 

 リリスが、アルテを護衛するように後ろに立っている。



「では、アルテ殿下はマジワリの森の向こうから来られたのかな」

 ローズが聞いた。

 会議室の机の上には簡単な地図が置かれている。

 帝国の南には、魔の領域である、”マジワリの森”。

 地図を見ると、森の真ん中くらいの湖があった。

 ”マの湖”だ。


「私たちは、この森を”瘴気の森”と呼んでいます」

 アルテが地図の森を指差した。 

「そして、これが、”セイレンの湖”……」

「ここが私たちの国、”アルンダール”になります」

 湖を指差し、さらに、その下に指を動かす。


「魔族の方、でよろしいのでしょうか?」

 学園長であるアマリリスが聞いた。

 リリスの紅い瞳は人族には滅多に見られない。


「はい、私は、”スノーオーガー”、リリスは、”サキュバス”です」

「私たち二人は、魔族というか、亜人デミヒューマンになりますね」

 アルテがリリスをちらりと見た後言った。


「というと?」

 アマリリスが聞いた。


「我々亜人の他に魔法を使う人族、”人魔族”がいます」

 アルテが答える。


「”人魔族”……ですか」

 ローズだ。


「魔法を使う以外、皆様人族と見分けはつかないと思いますよ」

 アルテが周りの人の顔を見ながら言った。


「……何故ここに来たのですか」

 ローズが聞いた。

 大きなワイバーンに乗っていたという。

 

「それは……」

「姫様……」

 アルテとリリスが言いよどむ。

 二人が顔を見合わせた後、

「隠しても仕方ありませんわね……」

「そうですね、姫様」

 アルテが軽くうなずいた。


「実は、”人魔族”と、”亜人”の間には確執があるのです」


「確執ですか?」

 ローズが聞く。


「はい、一部の、”人魔族”は一方的に、”亜人”を下に見ています」

「魔をつかさどる幼女神、”ルルイエ”」

「その姿かたちのままの人魔族が、亜人より上であると……」

 アルテの深刻な声。


「そうですか」

 一部の人族が魔族を下に見るのと同じようなものか

 ローズが考えこんだ。


「我が父王は、”人魔至上主義”ではありません…が」

 王は人魔族だが、第一王妃は、ダークのハーフエルフ。

 第二王妃は、アルテの母である、スノーオーガーだ。

「王弟殿下は、亜人を下に見られているのです」

 しかも、”人魔族”全体で、”亜人”を下に見る傾向がある。


「王弟殿下に、罠にはめられた可能性が高いと思っています」


 アルテがローズの目を真っすぐに見つめながら言った。


「ふむ、ではどうやってこちらに?」

 アマリリスだ。

 同じように帰れるのでは?


「発言の許可を」

 リリスが聞いた


「許可します」

 ローズだ。


「多分ですが、”瘴気魔力だまり”に、”転移の魔法”を仕組んだのだと思われます」

 こちらに来たときに微かな魔力の残滓があった。


「転移の魔法っ!?」

 アマリリスが驚きの声を出した。


「高度な魔法ですが、転移する先を考えなければ、発動自体は簡単です」

 最悪、岩の中に転移する場合もある。

 その場合は、即死だ。

 リリスが答える。


「その結果がここにいる、ということですね」

 アマリリスだ。


「たぶん、はい」

 アルテが言う。


「そうですか」

「とりあえず、この街の中にいてください」

「他の者とも話しあいますので」

 皇都で他の貴族と会議が開かれるだろう。

 ローズの言葉で一旦話は終わりになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る