第21話

「大隊長、前方、グレーターワイバーン一騎、旗は雪の結晶」

「アルテ王女ですっ」


 白い飛行服にポールアックス。

 その柄には旗がくくりつけられている。


 アルテ王女のグレーターワイバーンの後ろには、重装甲の飛竜と鉄の鳥の様なモノ(飛行艇)。

 さらにその後ろには鉄の巨大な船が空に浮かんでいた。


「くっ」

 先頭を飛んでいる大隊長だ。 

 Ⅰ―Ⅰと肩に書かれている。

 

 ワイバーンライダーは、戦闘機のパイロットと同じようにエリートである。

 高い倫理観を持っている。

 

「王陛下をハーレム入りさせた亜人っ」

 雪大鬼スノーオーガであるアルテを見ながら言う。


 現在、マジ―ン王は、”マユキハーレム”のハーレムマスターだ。

 氷穴洞コキュートスで、マユキを含めた五人の雪大鬼スノーオーガとユキメの女性がはべる。


「さらにっ」

 先日、飛行艦、朧月おぼろつきはリリスによってサキュバスの愛のテリトリーになっていた。

 魔力が見える人魔族には、艦全体にピンク色のハートが舞っているように見える。


「う、うわあ」

 Ⅳ―Ⅲの女性騎士も少し引き気味である。


淫祀邪教いんしじゃきょうの館がああ」(←酒池肉林でも可)

「全騎攻撃開始っ」

 大隊長が叫びながら、真っ先に突撃していく。

 リリスがやってしまったようだ。



「待ってください~」

 アルテは、氷の結晶の旗のついたポールアックスを必死に振った。

 後ろには、飛行艇と飛竜がホバリングで待機。

 が、Ⅰ―Ⅰと書かれたワイバーン騎士が、アルテを横目でにらみながら飛び過ぎていく。

 

 ファイヤワイバーンが三角形。

 その後ろに、ブラックワイバーン。

 ひしダイヤモンド隊形で朧月おぼろつきに飛び込んでいった。 


「艦長、左舷からワイバーンの急降下爆撃、来ますっ」

「全艦対ショック姿勢っ」

 カイラギが指示を出す。


 イイイイヤアアアアアア


 急降下爆撃中のブラックワイバーンの翼端は、”ワイバーンの鳴き声”という独特の風切り音を出すのだ。


 進入角度、約三十度。


 ゴオオオオ


 ファイアワイバーン三騎のブレスが艦の表面をあぶる。

 ブラックワイバーンの口の周りに複雑な魔法陣が回る。

 開いた口の前にはかぼちゃ大の火炎の弾。

 

 ボッ

 ドオオオオン


 着弾後爆発。

 ガガガガガガ

 艦が大きく揺れた。


「くう、艦の損傷軽微っ」

 被害報告が来た。

 第Ⅰ小隊は艦の下に飛び去る。



 アルテの横を第Ⅱ小隊が、斜めに騎体をひるがえし降下。


「ああああ」

「ま、まってくださ~い」

 グレーターワイバーンはブレスは吐けないが、体は大きく俊敏である。

 バッ

 アルテが追いかけ、すぐ追いついた。 

「させませんよ~」

 右手はワイバーンの手綱。

 開いた左手に可愛らしいを作成。


 ブラックワイバーンにぶん投げた。


 ドゴオッ

 鈍い命中音。

 アギャアアア

 

 ブラックワイバーンがきりもみ状態で落ちていく。


◆ 


 第Ⅲ小隊が降下。


「今行くっ」

 サクラギの駆る飛行艇、”ネコジャラシ”が第Ⅲ小隊の後をついていく。

 機体の左側につけられた、”ニードルスプレッド機関銃マシンガン”。

 圧縮空気で金属の杭を連続で撃ち出すものだ。

 セーフティを解除。

 

 十字のレティクルの前には、ファイヤワイバーン。

 さらに、その先には艦の外部通路で小銃を撃っている艦のクルー。

 ファイヤワイバーンが、クルーにブレスを浴びせようとしている。

「させないっ」

 

 シュパパパ


 連続で撃ち出された杭がファイヤワイバーンの翼をズタズタにした。

 しかし、


 ズドオオン


「艦長、左前方のティルトローターに直撃」

「プロペラ破損っ」

 ブラックワイバーンのブレスが直撃したのである。



「小隊長っ」

 Ⅳ―Ⅲをつけた女性騎士だ。

 次は、第Ⅳ小隊の攻撃降下の番である。


「くうう、アルテ王女……」

「……待機だっ、この場で待機っ」

 第Ⅳ小隊の隊長が叫ぶっ。


「了解っ」

 少しうれしそうな女性騎士の声。

「「了解」」

 他の小隊員も待機した。



「ああっ」

 カイラギが艦橋ブリッジの正面に黒いワイバーンが飛んでいるのに気づいた。

 第Ⅰ小隊のブラックワイバーンだ。

 口には火炎の球。

 このままでは艦橋ブリッジに直撃。

 無事では済まない。


 バッ


 黒い影が間に入った。


「スキル、”大楯”っ」

 竜騎士の”ギルモア”と飛竜、”ピーテッド”だ。

 前にかかげた畳のような大盾に光の壁が出る。


 ドオン


 ブレスの爆発を盾で受けた。


「墜ちなさいっ、雷球ライトニングスフィアっ」


 ゴオオオオ


 飛行艇、ネコジャラシが飛んでくる。

 ネコジャラシの後席からリリスの魔法が飛んだ。


 アギャギャ


 雷に打たれて、ブラックワイバーンが墜ちていく。



「艦長、艦に火災発生っ」

「ダメージコントロール、火を消せっ」

 艦の周りは複数のワイバーン。

 ――どうすればっ

 カイラギが歯をかみしめた。


 眼下には黒い煙を出しながら燃えている鉄の船。

 その周りでアルテ王女も何度か攻撃を受けていた。


「隊長っっ」

 第Ⅳ小隊の女性騎士である。

 

「ええいっ、これより第Ⅳ小隊は軍より離れる」

「降下っ、アルテ王女を援護せよっ」

 第Ⅳ小隊長が叫んだ。


「はいっっ」

「はは、了解」

 少し投げやりなⅣ―Ⅱの隊員の声。

「私は離脱させてもらう」

 第Ⅳ小隊のブラックワイバーンが離れて行った。


「第Ⅳ小隊、命令違反だ、軍法会議だぞっ」

 大隊長が叫ぶ。

 

「艦長、消火に成功しましたっ」

 第Ⅳ小隊の援護でワイバーンの攻撃が緩んだからだ。


 その時である。


「義姉上っ、ご無事でしたかっ」

 広域無線から少女の声がした。

 黒い三羽の大鴉おおからす

 イーズナとクファルカンの里のシノビ二名が到着したのである。



 

 

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