第12話

 魔術学園のある都市、”フラワーポッド。

 そこにある飛行艦港のプラットホーム。

 背後には改修を終えた、飛竜三段空母、”朧月おぼろつき”が停泊している。


「これより、第五次”マジワリの森”調査隊、出発します」

 カイラギが大きな声で言った。

 小脇に艦長帽。

 カイラギの隣にはアルテが立つ。

 その斜め後ろのリリス。

 その後ろに、”朧月おぼろつき”の乗組員約300名が並んでいた。


 バッ


 一斉に敬礼をした。


「わああ」

「気をつけて」

「元気でなあ」

「がんばれえ」

  

 学園長であるアマリリスの他、先生や空軍の関係者、整備士たちが歓声を上げる。


「すまない、調査隊としてしか送り出せない」

 アマリリスがカイラギに言った。

 西方の貴族や竜教会の反対で、正規の外交艦として認められなかったのである。


「……いえ、行ってきます」

 カイラギだ。

「総員乗艦っ」

「駆け足っ」


 ザッザッザッ


 乗組員たちが腰の横に手を置き、駆け足で乗りこむ。

 プラットホームから飛行艦へかけられたタラップを登った。


 二段目前部の平型艦橋ブリッジ(フェリーみたいな感じ)の艦長席にカイラギが座る。

 少し草臥くたびれた艦長帽を被った。

 艦長席の隣には椅子が置かれ、貴賓席となる。

 アルテが座った。

 リリスはその後ろに立つ。


「総員配置につけ」


 カイラギの前には、点舵輪と操舵士。

 左に、航法士の机と椅子。

 右に、魔法を使った通信士席だ。

 その前を四角い窓ガラスが並ぶ。

 ガラスの先には、第一飛行甲板の裏と第三飛行甲板の表が上下に見えていた。


「もやい《ロープ》を外せ」

アンカー収納」

 艦の前後にあるアンカーが巻き上げられる。


「収納完了」

 伝声管からくぐもった声が聞こえた。



「ティルトローター角、45度」

「物理術式モーター始動」


 操舵士がレバーを操作。


 艦の四方にある可動式のプロペラ。

 プロペラの軸の周りに銀色の術式陣が輝き、回る。


 バアアアアア


 その回転を追うようにプロペラが回り始めた。 


「微速上昇」

朧月おぼろつき出港」


 青い空に白い雲。

 眼下に、”フラワーポット”の街並み。


 その上を巨大な三段飛行艦空母がゆっくりと上昇していった。



「針路を、マジワリの森へ取れ」

「了解」

「速力22ノット(時速40 キロメートル)」


 艦尾の下の左右に飛び出たシャフト。

 一つのシャフトにそれぞれ二つずつ、プロペラが回っていた。

 ちなみに最高速は40ノット(時速80キロメートル)くらいである。


 マジワリの森を目指して、しばらく飛んでいると、


「艦長、左舷ひだりげんを見てくださいっ」

 見張りからの報告である。


「どうした」

 艦長席から立ち左の外部通路へ。


「どうしたの~」

 アルテもついて来た。


 バサリ、バサリ


 白い雲の影から黒と赤の飛竜が下りてくる。

 その後をゆっくりと赤い飛行艦が下りて来た。

 

「テンドロキラムだあっ」

 ローズ皇帝の座乗艦である。


「手の空いているものは左舷ひだりげんへ」

 カイラギが艦内放送をした。


 ティアドロップ状の気嚢ふうせん

 その横には、年季の入った赤色に銀色で百合と薔薇の紋章。

 百合はハナゾノ帝国、薔薇はローズを表す。

 後部は海賊船のキャプテンルームのようになっている

 左右の翼に二重反転プロペラ。

 マッコウクジラの頭のような艦橋が前に飛び出ていた。

 艦橋上部の手すりのついた甲板に紅いドレスの女性が立った。


「ローズ皇帝だっ」

「見送りに来てくれたんだっ」

 外部通路に並んだ乗組員が叫ぶ。


「テンドロキラムより光信号」

 チカチカとライトが点滅する。


 ――ブジノキカンヲノゾム――

 ――コウカイニサチアランコトヲ――


「ですっ」


 ローズ皇帝が甲板から大きく手を振る。


「わあああああ」

 乗り組員たちが歓声を上げた。


 カイラギが最敬礼、アルテがカーテシーで答える。


 しばらく、テンドロキラムと朧月おぼろつきが並んで飛ぶ。


 最後に、テンドロキラムが左右に艦体をバンクり離れて行った。

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