第13話

 ハナゾノ帝国の北にある、白眉山脈。

 これを超えると、レンマ王国がある。

 レンマ王国には二つの飛行船工房があった。

 ”カティサーク工廠”と、”王立工廠”である。


 ”カティサーク工廠”は、”テンドロディウム級”飛行艦の製造元だ。

 テンドロディウム級一番艦ネームシップ、”テンドロディウム”は魔術学園と共同開発で作られた。

 ローズ皇帝の座乗艦である、”テンドロキラム”は、テンドロディウム級二番艦。

 ”テンドロディウム”の姉妹艦に当たることから、レンマ王国とハナゾノ帝国の良好な関係がわかるだろう。

 ちなみに、”カティサーク工廠”は元は帆船を作っていた。

 その技術は、”テンドロキラム”の後部艦長室キャプテンルームや船内に存分に使われているのである。

 さらに、魔術式ジェットを用いた、飛行艇も魔術学園との共同開発だ。

 可変翼飛行艇、”ネコジャラシ”もその内の一機である。

 可変翼の技術は、西の隣国でハーフエルフの国、”シルルート王国”の技術ではあるが。


 では、三段飛竜飛行艦空母、朧月おぼろつきは、”王立工廠”製だった。

 レンマ王国より払い下げられて、ハナゾノ空軍で運用しているのである。


 話は変わるがレンマ王国には、大きな浴槽に湯を貯めて体をつける習慣があった。

 ONSENもしくは、SENTOと呼ばれるものだ。

 レンマ王国人のONSENおよび、SENTO好きは有名である。


 というわけで……



 カッポオオオオン


「姫様……ここは何ですか?」

 リリスの前には引き戸の扉が二つ。


 扉の半分くらいの長さのカーテンが掛けられている。

 NORENというらしい。

 上の切れた楕円に3本の波打った棒。

 異世界の文字で、”おとこ”、”おんな”と染め抜かれていた。


「カイラギ様?」

 アルテが隣にいるカイラギに声を掛けた。


「これは、SENTOというものです」

「いうなれば大きなお風呂ですね」


「お風呂……ですか」

 アルンダールの主流はバスタブに泡ぶろだ。

 湯舟に湯を貯める習慣は無いのである。


 そう、レンマ製の大型艦には、”SENTO”がもれなく完備されているのである。


 三人は、”SENTO”に入った。


 入ったすぐの部屋は、たなに籐製のかごがたくさん置かれている。


「ここで服を脱ぐのですね~」

「脱衣所というのですよ、姫様」


 服を脱いで浴室に入る。

 壁からシャワーと蛇口。

 たくさんの椅子と黄色くて透明なおけがたくさん並んでいた。


「ケロヨン……」


 とおけには書かれている。


「だいじょうぶですか?」


 カイラギのくぐもった声。

 壁は、上の部分が切れて男湯とつながっていた。


「ありがとうございます~」

「大丈夫」


 壁には、山頂に白い雪の積もった三角の山。

 その近くを鷹と、紫色の野菜?が一面に書かれている。


「……イチフジニタカサンナスビ……」

 リリスが小さくつぶやいた。


「ん、なんですかそれは~」

 アルテが聞いた。

 

「異世界から伝わるラッキーアイテム、だと聞いております」


 ちなみに、”レンマ王国”と、”ハナゾノ帝国”の初代王と皇帝は異世界人である。


「ささ、先に体を流して湯につかるのが礼儀だそうですよ」

 二人は体を流し湯船に入る。


「うっ、はあ~~」

「むむっ」 

 バスタブに泡ぶろがメインのアルンダ―ル王国。

 アルテの母の里である、極寒の、”氷穴洞コキュートス”にも当然熱い湯につかるという習慣は無い。

 熱い湯につかるのは二人とも始めてだ。

 アルテの白い肌が薄く桃色に染まる。


「混浴……ではないのですね」

 リリスが少し残念そうに言った。

 リリスの胸部装甲が湯に浮く。

 ちなみにアルテは標準的な大きさ、リリスは着やせするタイプである。


「窓の外もきれいよ~」

 眼下に穏やかな田園地帯が見える。

 壁の一面はガラス張りで飛行中の外の景色が見えるようになっているのだ。

 

「湯あたりしない様に気をつけてくださいね」

 カイラギが男湯から声を掛けた。


「は~い」

「はい」


 人生初の、”SENTO”を二人は楽しんだ。


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