第14話

 カイラギは艦長席のひじ掛けの横に吊るされた、艦内無線用のマイクを取った。

 平型艦橋の四角い窓の先には、三段目の飛行甲板の先と、うっそうとした森が広がっている。


 ”マジワリの森”だ。


 カイラギが四角いマイクの横のボタンを押した。


 ブツッ


「告げる、こちら艦長」

「あと少しで、”マジワリの森”の上空に進入する」


 艦の後部にある機関室。

 太いシャフトが物理術式陣を光らせながら回る。

 機関士たちが屋根のスピーカーを見ていた。


「マジワリの森は魔の領域だ」

「我々が初めて入ることになるだろう」


 三段目の飛竜舎。

 グレーターワイバーンが身じろぐ。

 竜騎士が相棒の竜の鼻先を黙って撫でた。 


「様々な困難に遭遇するかもしれない」

「しかし、魔族の貴人を送り届ける使命がある」


 二段目後部、飛行艇格納庫。

 整備士たちが手を止めて放送を聞く。

 サクラギが愛機である、”ネコジャラシ”を見上げた。

 リリスが側にいた。


「皆が無事祖国に帰って来れることを願う」


 カイラギが隣に座るアルテに振り向いた。

 アルテが小さくうなずく。

 

「……”マジワリの森”に突入せよ」


「「「「了解」」」」


 ズズズズズズ


 重低音を響かせながら、巨大な飛行艦が森の上空に突入した。



 飛竜飛行艇三段空母、朧月おぼろつきは、”マジワリの森”上空を飛行中である。

 森の所々に黒いもやのようなものがある。

 瘴気もしくは魔力だまりと呼ばれるものだ。

 魔力とは魔の幼女神、”ルルイエ”が竜の女神、”龍華”の世界を書き換えようとする力である。

 瘴気を浴びることで普通の獣が魔獣になるのだ。

 これは人にも影響は大きい。

 瞳孔が羊のようになったり、下半身が蛇になる例もある。


「魔力だまりは回避だ」

「木よりも高い所を飛行せよ」

 カイラギが指示を出した。

 木よりも高く瘴気は上がらないようだからだ。


「何か森の中に目印のようなものはありますか?」

 カイラギがアルテに聞く。


「そうですね~、まずは森の中の湖を目指してください~」

 アルテが答えた。


「湖ですか?」


「はい~、セイレン湖です、その湖から流れる川があります~」

「その川は、アルンダールまで流れて~」

「隣国のニャンドロス神聖王国との国境になっていますね~」


「ニャンドロス……?」


「強力なケットシー《ネコ型獣人》の国です~」

「川沿いに飛ぶとアルンダ―ルにつきますよ~」


「分かりました、見張りに伝えます」


 とりあえず森の中の湖を探すことになった。

 セイレン湖の名の通り、そこにすむ生物が事件を起こすことになるのである。




 

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