第15話
『る~ル~、る~ル~』
『ア~あ~、ア~あ~』
歌が聞こえる。
頭の中に直接響いてくるような歌だ。
ぼうっとしてきた時に首筋に黒い紋様が浮かび上がった。
「はっ」
サクラギは首筋に手を伸ばした。
リリスがつけた、”所有紋”である。
目の前には、木製の車輪のついた台車に乗った飛行艇、”ネコジャラシ”。
周りの整備士たちが気の抜けた顔で棒立ちしていた。
「サクラギッ」
背名に羽を生やしたリリスが飛んでくる。
「レイクセイレーンの魅了の歌よっ」
「こ、ここまで人族に耐性がないなんてっ」
基本、人族の魔力に対する耐性は低い。
サクラギは、リリスの所有紋が魅了を弾いたのだ。
「湖まで飛んでっ」
グラリ
その時、艦が傾いた。
「わ、わかった」
サクラギがまず、第二格納庫から上部甲板につながる大型エレベーターのレバーを操作。
ヴィー、ヴィー
警告音と共に飛行艇用のエレベーターが下りてくる。
サクラギが、”ネコジャラシ”のコックピットに飛び乗った。
「エンジン緊急始動っ」
キュウウ
後席にリリスが座る。
前部、フロートにつけられたVトール用の小型ジェット。
スリットが開いた。
後部、縦置き二連のメインジェットが後ろにせり出し下を向く。
可変翼は全閉の格納状態だ。
ゴオオオオオウ
「発進っ」
”ネコジャラシ”が、
後席にリリスを乗せた、”ネコジャラシ”が大空へ飛び出す。
「湖だっ」
艦は傾きながら大きな湖に向かっている。
セイレーンの歌声に引き寄せられているのだ。
「飛びなさいっ」
「了解っ」
ズドオオオン
”ネコジャラシ”を通常飛行モードに。
上部甲板を追い越し、湖に向けて加速。
「下級妖魔の分際で、私(上位サキュバス)の持ち物に手を出すなんて」
”セイレーン”は、”マーメイド”とおなじ人魚族だが知能は低い。
”マーメイド”は人、”セイレーン”はチン〇ンジーという感じである。
湖が近づいて来た。
小さな小島に上半身は女性、下半身は魚の姿のセイレーンが複数座り歌っている。
「オープン、ザ、ブック、”終わりのない
リリスが
「光り、駆けるもの、つどいて球をなせ」
パリパリパリ
飛行艇の機首の上に、スパークする光の玉が出る。
セイレーンたちがいる小島は目の前だ。
「
ドオオオン
セイレーンたちがいた所に雷が落ちた。
◆
『る~ル~、る~ル~』
『ア~あ~、ア~あ~』
三段飛行艇空母、”
「カイラギ様っ」
「はっ」
アルテが、魅了状態のカイラギを起こした。
「自分は一体」
「セイレーンの魅了にかかってました」
グラリ
前を見ると操舵士が艦首を湖に向けている。
魅了されて引き寄せられているのだ。
「艦を水平に戻せっ」
操舵士の反応がない。
カイラギは大慌てで操舵士を押しのけ、転舵輪をつかむ。
艦首を元に戻す為、手前にひいた。
しかし、これは四方のティルトローターの根元についた、小さな翼を上に向けるだけだ。
上げるには、チルトローターのプロペラの推力と前部気嚢のヘリウムガスの浮力が必要である。
ゴオオオオオウ
「あっ」
”ネコジャラシ”が湖に飛んでいくのがブリッジの四角い窓ごしに見えた。
「リリスが行きました」
ドオオン
落雷。
セイレーンの歌が止まる。
クルーが正気に戻った。
「機関室っ、前部プロペラ全速っ、前部ヘリウムガス緊急注入、後部ガスを出せっ」
カイラギが伝声管に叫んだ。
バアアア
前部左右のプロペラが回りだした。
バシュウウウウ
後部から白い煙が噴き出す。
ヘリウムガスの緊急排出だ。
しかし、大きな艦がすぐには止まれない。
艦が水平を取り戻した時には湖面は目の前だった。
「全艦っ、対ショック姿勢っ」
「着水するっ」
全館放送で叫んだ。
ドッパアアアアン
白い波の壁を左右に作りながら、巨大な飛行艦が湖に着水した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます