第46話

 飛行艦、”朧月おぼろつきから降りたカイトたちは、王弟マジ―ンがいる謁見の間に向かっている。


 ズガンッ


 カイトの大口径リボルバーが火を噴いた。

 フルプレートの騎士が胸の装甲を丸くへこませながら吹き飛んだ。


 ガチリ


 リロードのためにハンマーをハーフコッキング。

 弾倉を回し一つずつ空薬莢を床に落とす。

 その後、四発新しい弾を込めた。


「あら~」


 ズドンッ


 アルテが騎士にボディブローを叩き込んだ。

 騎士が重い音を出して吹き飛んでいく。

 同じように腹部の装甲がへこんでいた。


 ズババババン


「オープン・ザ・ブック、7ページ」

「火炎連弾」


 魔導書グリモワール、終わりのない物語ネバーエンディングストーリーを開いたリリスが炎の弾を複数発射する。

 近づいて来た騎士たちを蹴散らした。

 城門を破られた城兵の士気は上がらない。

 手向かう兵士は少なく、後ろに続くユキメや妖魔兵団を見ると、逃げるか降伏していった。



 ズンッ、ズンッ


 烏帽子のような兜。

 たたみのような盾。 

 手には、先が扇のように広がった実用一点張りの肉厚の剣。

 ハナゾノ帝国陸戦隊の正式採用剣だ。

 重装甲の鎧に身を包んだ、竜騎士、”ギルモア”が進む。

 

 シュッ


 クナイが騎士に飛んだ。

 肩とお腹を出した軽装のクノイチ、”イーズナ”だ。

 華やかなハーフエルフの女性を先頭に、その後ろに眼帯と銃、カトラスを持ったシルルートの海賊騎士団が続く。

 どこか城の騎士とは違い実用重視な装備の辺境騎士団だ。

 やはり城兵の士気は低く、逃げるか降伏していった。



 カイトたちとイーズナたちは、謁見の間の手前で合流した。

 謁見の間の扉を開ける。


「来たか……」


 一段上の王座に座るマジ―ン王弟。

 その右前にスカーリ騎士団長。

 周りには五十人くらいの近衛騎士。

 全員が豪華な飾りのついた装備をつけていた。


 薄っすらと光る装備を見て、

「魔法のかかった武器ですね」

 アルテが言う。

「何故ですか? 叔父上?」

「ニャンドロスは強力なの国です。 何故、今亜人差別を強めるのです?」

 ――ニャンドロスの神経を逆なでするようなことを? 


 ゆっくりとマジ―ンが立ち上がる。

「見てみろ。 ここにいる全員が強力な魔法の武具をつけている」

「だが……」

「ここまでしてやっと後ろの亜人たちと互角に戦えるだろう」

 マジ―ンがアルテやリリス、ユキメや妖魔たちを見ながら言う。

 人魔族は、多少魔法が使えるが基本普通の人と変わらない。

 吹雪を起こしたり、強力な魔導書グリモワールを使えたりしない。


「ヒトは弱いっ」

「亜人たちをっ」

「奴隷に落としっ」

「完全に支配してはじめてっ」

「人魔の国、”アルンダール”が存続していけるのだっ」


「それはっ」

 アルテだ。


「……兄上のやり方では、亜人にこの国を乗っ取られてしまう」

 マジ―ンの言葉に周りの近衛隊員もうなずく。

 スカーリ騎士団長だけはニヤニヤと笑っていた。


 チャキリ


 マジ―ンが、無言で王家に伝わる魔剣を抜いた。


 チャキキキン 


 近衛隊も剣を抜く。


「ふむ」

 カイトが少し前に出る。


「なんだお前は、魔力が全く無いではないかっ」

「無能かっ」

 スカーリがにやにやと笑いながらさげすむ。

 

「マジワリの……瘴気の森の向こうから来ました人族の、”カイラギ・カイト”と言います」

 マジ―ンと目を合わせながら言った。

 次の瞬間、がらりとカイトの雰囲気が変わる。

「ヒトはなあ、そんなにな、弱かねえぜっ」


 ドパアン


 カイトが腰のホルスターから大口径銃を早撃はやうった。


 パリイン


 スカーリの体をおおっていた魔法の防御障壁が砕け散った。

 後は、単なる金属の鎧である。

「まあっ」

 アルテが、淡く桃色かかった瞳でカイトを見た。


「な、何だ今のはっ、魔力もないっ、魔法でもないっ、何をしたっ」

 スカーリだ。

「ははっ、銃だよっ、まあお前を倒すのに魔法なんかいらんがなあ」

 カイトが言い放つ。

「な、なんだとっ」

 

 ドパン

「ぐっ」

 ドパン

「がっ」

 ドパン

「ガアアアア」


 スカーリが、鎧に三カ所、丸いへこみを作りながら吹き飛んだ。


「ま、魔法の防御が全然効かないっ」

 近衛隊の一人が呆然と言う。


「ふふん、野郎どもっ、構えなっ」

 シャラフィファンが後ろのむくつけき漢たちに言う。

 シルルート海賊騎士団の標準装備である、大口径四連装ダブルアクションリボルバー銃。

 シャラフィファンを含む海賊騎士全員がリボルバーを構えた。


「叔父上」

 海賊騎士が近衛隊を壊滅させている時、アルテがマジ―ンの前に立った。

「勝負です」

 ゆっくりと両手をそろえてあごの下へ。

 ビーカブ―スタイルだ。


 ――決着はアルテがつけるのが良いだろう

 カイトが横で見守る。


「行くぞっ」


 ヒュンッ


 あらゆる魔法の強化を受けたマジ―ンの剣は速い。

 しかし、アルテは面の皮一枚でかわしていく。


「ふっ」

 

 ズドオン


 マジ―ンの隙をついてショートダッシュ。

 からのボディーブロー。


「くっ」

 魔法の障壁に止められた。


 ヒュヒュン


 マジ―ンの剣をアルテがかわす。


 ヒュン


 かわす。


 ズドオオン


 ボディーブロー、障壁に止められた。

 紙一重の攻防だ。

 アルテの頬に切り傷がつき、髪が一房切られる。

 それでも、ボディーブローを撃ち込み続けた。


 心配しながら見ていたカイトが、

「アルテッ、がんばれっ」

 大声を出す。

「はいっ」

 アルテが答えた。

 ズドオン

 パリイン

 ついに障壁が破れた。

「なっ」

 マジ―ンだ。

 もう一度来たボディーブローを盾で受けるが、

 バキイィ

 盾が粉々に砕けた。

 ボディーががら空きだ。


「……フィニッシュですね」

 いつの間にか隣にいたリリスがつぶやく。

「ああ」

 カイトが答える。


 ズドン


「姫様の肉体言語、”リバーブロー”」


「がはあ」

 マジ―ンが、鎧の上から肝臓を撃たれ、体を九の字に曲げる。



 ズドン


「ガゼルパンチ」

 リリスが無表情に言う。 


「ぐあああ」

 マジ―ンの下がってきたあごを、下から打ち抜くようなショートアッパーが命中。



 ヒュン、ヒュン、ヒュン


 アルテが、宙を舞っているマジ―ンの前で上半身を八の字に回し始めた。


「デンプシーロール」

 異世界から伝わった強力な技だ。

 上半身を回し勢いのついた左右のフックの連打。


「がああああああ」


 アルテが宙に浮いたマジ―ンをしばらく殴り続けた。

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