第17話

 ――時は、アルテたちが罠にはめられた少し後。

 ――場所は、アルンダ―ル王都、”パンデモ”の謁見えっけんの間。

 

 ”アジーン”王が辺境地の視察を終え、王都に帰ってきていた 。


 謁見えっけんの間の真ん中にある玉座に、170センチくらいの穏やかそうな男性が座る。


 この国の王、”アジ―ン・アルンダール“である。

 種族は、”人魔じんま

 アルテの父だ。



 右の王妃の座には、160センチくらいで褐色かっしょくの肌、少し耳がとがった美女。

 目と髪の色は黒。


 第一王妃、”シーラヌイ・アルンダ―ル”である。


 両肩とお腹、太ももが露出ろしゅつした服。

 つややかな褐色かっしょくの肌、スレンダーでしなやかな体だ。

 種族は、”ダークハーフエルフ”。



 左の王妃の座には、180センチくらいの白に近い銀髪、エメラルドグリーン色の瞳の美女。

 ズボン姿で格闘家のような恰好をしていた。

 足を組んで座っている。


 第二王妃、”マユキ・アルンダ―ル”である。


 種族は、”雪大鬼スノーオーガー”。 

 アルテの母だ。


 去る事情から国内の強力で二種族から嫁に来ていた。



「おもてを上げよ」

「留守中、何か変わったことは無かったか? ……マジ―ンよ」

 アジ―ンが片膝をついた男性に声をかけた。


「……アルテ王女とリリスの姿が見えないようですが」

 シーラヌイが、切れ長の目を横目に見た。

 マジ―ンを鋭く射貫く。

「フハハ、私も聞きたいねえ」

 マユキが獰猛どうもうに笑いながら言った。


「アジ―ン王、いや兄上よ」

 マジ―ンが立ち上がると同時に、


 バアンッ、ガチャガチャガチャ


 鎧の音を立てながらたくさんの騎士たちが謁見の間に入って来た。


「王位からひいてもらうっ」

 マジ―ンが言う。

「汚らしい亜人が王の間をけがすのは、もうこれ以上我慢できないっ」

 マジ―ンが、露出の多い褐色の肌と、女性ながらにふんぞり返って組んだ足を見ながら言う。

 後ろに立った、王国騎士団長と、”ワイバーン飛行団スコードロン”団長もうなずいた。


「ふむん、隣国の、”ニャンドロス神聖王国”とはどうするつもりだ」

 王と王妃、三人がゆっくりと椅子から立ちながら言う。

 強力な猫妖精ケットシーの国だ。

 二十年前に、ケットシークイーンが現れてからさらに強力になった。

 亜人差別は大変まずい。


「くっ、あの国の、空中移動要塞など我らがワイバーン隊が蹴散らしてくれるわあ」

 ”ワイバーン飛行団スコードロン”の団長が息巻く。


「ふう」

 ――無理でしょ

 シーラヌイがやれやれという感じで肩をすくめた。


「……兄上には北の塔で蟄居ちっきょしていただく」

 幽閉だ。


「騎士団抜刀っ」

 騎士団長の命令に、


 ガチャリッ


 周りの騎士が腰の剣を抜いた。

「……亜人の女どもは好きにしろ」

 マジ―ンの言葉に騎士たちがにやりと笑う。 


「シーラ」

「御意」

「マユキ」

「いいぜ、マイ(ハーレム)マスター」


ダンッ


 マユキが右脚で床を踏む。

「永久凍土防壁っ」

 マユキの種族技能スキル発動。


 ドドドドン


 アジ―ン王を中心に氷のバリケードが、複数床からそそり立つ。

 腰くらいの高さだ。


「雪合戦だっ」


 マユキの手の平に小さな吹雪。

 雪大鬼スノーオーガー種族技能スキルにより、”雪玉”を作成。


 ブオンッ


 マユキが、バリケードを通り抜けようとした騎士に、”雪玉”を投げつけた。


 ドゴオオン


 大きな音と共に騎士が吹き飛ぶ。

 鎧が丸くへこんでいた。


「ハハハッ、どんどん来なっ」


「……」

 シーラが、腰の後ろに横につけていた30センチくらいの巻物を口にくわえた。


 魔導書グリモワール、”万川集海”、忍術書である。


 シーラヌイの職業は、”ニンジャ(クノイチ)”。

 装備が少ないほど防御力は上がり(←全裸忍者)、最終的にはM4シャーマン戦車と同等になる。

 さらに素手で首をはねまくるぞっ。


「フハハハハハ」

 マユキが、笑いながら騎士たちを薙ぎ払うのを見ながら、


「マジ―ン、どうしてもか」

 ――王位を簒奪するのか

 アジ―ンが弟に聞いた。


「どうしてもだっ」

 マジ―ンが答える。


「……そうか……」

 少し悲しそうな顔をした後、

「シーラ」


 コクン

 

 口に巻きものをくわえたシーラヌイが小さくうなずく。

 

 バババッ


 両手で印を三つ組んだ。


 ドオン


 シーラヌイの忍法、”煙玉”が発動。

 謁見の間が白い煙に覆われた。


 ゴホゴホゴホ


「さ、探せええ」

「逃がすなあ」


 白い煙が晴れた後、王と王妃二人の姿は跡形もなく消えていたのである。



 巨大な、”モササウルス”が空を飛んでいる。

 大きさとしては、三段飛行空母、朧月おぼろつきの倍くらいか。

 背中には複数の赤い鳥居。

 奥に大きな御神木と神社。

 周りを和風な城壁が囲う。


 ニャンドロスの、”飛行性巨大海性爬虫類”を用いた、”モササウルス”クラス飛行要塞である。 

 神社の中央部に、丸い魔法陣。

 その前に頭にネコミミ、二股に分かれたネコシッポの巫女姿の女性が立っていた。

 猫妖精ケットシーが最上位まで種族進化した、”ケットシークイーン”。


 ニャンドロス女王、”ヒミャコ・クロ”である。


「ニャア、ニャア」


 魔法陣の周りを、巫女姿で二足歩行の猫、猫妖精ケットシーが行き来する。

 猫妖精ケットシーは優秀な、”フィッシュテイマー”だ。

 この魔法陣で、モササウルスを制御するのである。


「ニャア~ハッハッハッ、アルンダ―ルから、はまだ届かないのかのう、タマ」

 隣に立つ落ち着いた雰囲気の女性に聞いた。

 ネコミミ、二股に分かれたネコシッポ、ハイケットシーである。


「どうやら、隣国でお家騒動が起こっているようですね、女王様」

 落ち着いた声で言った。

 彼女の名前は、”タマ・ミケ”。

 この国の宰相だ。 


がないと困るじゃろ~、どうじゃ今から、”パンデモ”に行ってちょっと脅してくるか~」

 ヒミャコが無邪気に言う。

 ”パンデモ”は、アルンダ―ルの王都。

 モササウルスクラスは軽く、”パンデモ”の王城より大きいのだ。


「……いえ、シーラヌイ第一王妃より少し待ってくださいと言われています」

「アーケロンクラスを二体、国境に派遣しておきます」

 タマが言う。


「ふ~ん、まあいいじゃろ」

 猫は気まぐれだ。

 興味を無くしたようにヒミャコが答えた。  




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