第18話

 セイレン湖で修理と水の補給を終えた、三段空母、朧月おぼろつき

 湖の上に巨大な艦が浮かんでいる。


「”ナール河”の上を飛んでください~」

 アルテが艦橋で言う。


 セイレン湖から南に流れる、大河、”ナール河”。 

 マジワリ(瘴気)の森を超えて、”アルンダ―ル”と、”ニャンドロス”の国境にもなっている。

 河の上は魔力だまり(瘴気)も少なく、良い目印になった。


「了解しました」

「河の上空に進路を取れ」

 カイラギが指示を出す。


「了解」

 艦長席の前に立つ操舵手が答えた。

 点舵輪を回す。

 窓の外の景色が艦の回転と共にゆっくりと回った。


「速力、”並足”」


「速力、並あ~し」


 ブン、ブン、ブン


 低いプロペラの回る音と共に、朧月おぼろつきが前に進み始めた。

 川面に大きな影を落として朧月おぼろつきが進む。

 朧月おぼろつきは、”ナール河”の上を順調に飛行し、マジワリ(瘴気)の森の端まで来た。

 森の向こうは、アルンダ―ルの国土になる。

 

「旗を掲げろ」

 飛行艦の上部甲板にある旗のポール。

 そこに、アルテの紋章である、”雪の結晶”の旗。

 その下に、であることを表す、ハナゾノ帝国の国旗がつけられた。

 ちなみに、ハナゾノ帝国の旗は、”百合の花”を意匠化したものである。


「警戒をした方がよろしいかと」

 リリスが言う。

 アルテとリリスは、転移の魔法で、”ハナゾノ”に飛ばされてきた。

 最悪、岩の中に転移した可能性もあるのだ。

「暗殺が目的ですね~」

 アルテだ。

「……了解した」

 カイラギが、艦内放送のマイクを手に取る。

『告げる。 こちら艦長、全艦第二種警戒態勢』

『周囲の監視をげんとせよ』


 アルンダ―ルに入った。 

 マジワリ(瘴気)の森を抜け、少し西よりの進路を取る。

 飛行艦の下には、小麦畑が広がる穏やかな田園風景が広がっていた。



 アルンダ―ルの西には、”イソラ海”がある。

 国の北西部、”イソラ海”と、”マジワリ(瘴気)の森”に接した場所に、厳しい岩礁地帯が広がっていた。

 

 ”クファルカンの里”だ。


 ダークハーフエルフである、第一王妃シーラヌイの実家である。

 いま、そこにあるニンジャ屋敷で軍議が開かれていた。


「……そうか、無事、王と王妃たちは、氷原洞コキュートスにたどりついたのだな」

 板の間の奥に座った、少し年を取った白髪の男性が重々しく言った。


「はっ、お頭、無事マユキ様のお里に到着しました」

 左右に座った一人が言う。


 氷原洞コキュートスは、国の南に広がる極寒の地。

 見目麗しい、ユキメと雪大鬼スノーオーガの里だ。

 そこに広がる永久凍土は、簡単に人をよせつけない。


「王都は……」


「王弟のクーデターです。 騎士団とワイバーン飛行団が味方してます」 


「とりあえず、ニャンドロスに渡す、”アレ”をいつでも運べるようにしておけ」

 頭だ。 


 ”アレ”とは、クファルカンの里で作られる良質の、”マタタビ”と、”カツオブシ”のことである。

 猫妖精ケットシーは基本、一日の9割を寝て過ごす、寝子ネコだ。

 この二つがないとまず働かないのである。


「妖魔(ゴブリンなど)たちの酋長しゅうちょうとも連絡を取っておけ」


「はっ」


「お頭っ」

 シュッという感じで末席に現れた忍者姿の男性が声を出した。

「瘴気の森から巨大な……鉄の船が現れました」

「空を飛んでいます」


「むっ」

 ――うわさでは森の向こうには空を飛ぶ船があると聞いていたが……


「さらに、”雪の結晶”の旗を掲げています」


「!! アルテお義姉様っ」

 席の一番前に座っていた若い娘が声を出した。

 シーラヌイによく似ている。

「すぐ確認に飛びますっ」


「イーズナ……」

 彼女の名は、”イーズナ・アルンダ―ル”。

 この国の第二王女であり、シーラヌイの娘、お頭の孫である。

 イーズナの意思は硬そうだ。

「わかった、確認の為三騎、大鴉レイブンを飛ばせ」


「はっ」


「イーズナ、気をつけて行ってこい」


「はいっ、お爺様っ」

 イーズナが答えた。


 海に面した厳しい崖。

 横に掘られた穴から、ニンジャを乗せた三騎の大カラスが飛び立った。


 そのころ、


「前方に人を背中に乗せたワイバーン、三っ」

「すぐ離れて行きますっ」

 監視員から報告が上がった。


 飛行艦朧月おぼろつきが、ワイバーン飛行団スコードロンに発見されたのである。

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