第23話

 アルンダ―ル王国の西、ナール河の向こうに、”ニャンドロス神聖王国”がある。


 平地が多く、国の西には森林地帯が広がる。

 森林地帯は、”飛行性魚類”の生息地である。

 黒々とした森の上を、イワシの群れが柱を作って飛んでいた。

 イワシと言えど大きさは30センチくらいある。

 大きな青魚が群れの中に飛び込んだ。

 ”飛行性魚類”が沢山住んでいるこの地域。

 

 この一帯を、”海空うみそら”と呼んだ。


 森の一角に黒い影を落とし巨大な海亀が浮いている。

 目をつむり休眠しているようだ。

 前後の長さは、飛行艦、朧月おぼろつきと同じくらいか。

 甲羅の分、横には大きい。

 甲羅の上には鳥居と神社。 


 ニャンドロスの飛行要塞、”アーケロンクラス”である。


 甲羅の真ん中に立つ神社の本殿。

 その床には小さな漢字のような文字と五芒星が書かれていた。


 周りには神官服や巫女服を着た二足歩行の猫たちが五人(匹?)。

 大体身長100センチくらい。

 猫妖精ケットシーたちだ。


「にゃ~にゃ~」


 と思い思いに座ったり横になっている。


 その真ん中に、ネコミミと二股に分かれたネコシッポの巫女服の少女。

 猫妖精ケットシーが種族進化した、”ハイケットシー”だ。


「ヒミャコ様より国境近くまで移動するように命令が出た」

「お前ら、”使役の舞”を舞うぞ」

 少女が少しハスキーな声で言った。

 キジ毛の耳と尻尾を動かす。


「えっ」

「嫌ですにゃ」

「眠いですにゃ」

「働いたら負けですにゃっ」(きりっ)

「ふにゃ~~~~」(←あくび)


「くっ」

 ネコ巫女の額に青筋が浮かび上がる。

「フレッド、あれはどれくらいある」


 五芒星の横に立っていた青年に声を掛けた。

 金髪で黒縁眼鏡、文官のような服を着ている。


「くふふ、ネコニャ~~ン」

 フレッドと呼ばれた青年がつぶやいた。


「フレッドッ」


「はっ、……ミャト様」

「マタタビは大丈夫ですが、カツオブシが足りません」


「どれくらいだ」

 ネコ巫女である、”ミャト・キジ”が聞いた。


「国境まで行ったら帰ってこれませんね」

 黒縁眼鏡をあげる。


「う~~ん」

 ミャトが考えるをした。


 ――まあニャンとかなるかにゃあ?


 彼女も基本は猫なのである。

「ネコマンマを出せ、舞わせるぞ」


「はっ」

 フレッドが答えた。

 猫妖精ケットシーたちネコマンマがふるまわれる。


「にゃ~にゃ~」

「にゃふ、にゃふ」

 ネコマンマを食べるネコ巫女と猫たち。

 食べ終えた後、マタタビ香も焚かれた。


「舞うぞっ」


「にゃふふふ」

「仕方ないですにゃ~」 

「ネコマンマには目がないですにゃ」

 好物のネコマンマを食べて上機嫌だ。


 五芒星の五隅に猫妖精ケットシーたち。


 真ん中にネコ巫女であるミャト。


 シャラララン

 シャランシャラン


 手の持った鈴を鳴らしながら、”使役の舞”を舞い始めた。


 巨大な海亀アーケロンの目が開いた。

 本殿の前に床から天井に届く光の板が出る。

 御神体アーケロンの視界だ。

 御神体アーケロンは、巨大なひれの端に術式を輝かせながら、ゆっくりと動き出す。

 移動した後ろの空に銀色の波を残した。 


 ちなみに、ニャンドロス神聖王国は、猫妖精ケットシーの国。


 猫好きの移民が猫妖精ケットシー達のお世話をして国を回す、”ネコ本位制”という政治形態の国である。

 人魔族である、”フレッド”も超猫好きで、”ミャト”の補佐官をしているのだ。

 彼の、”使役の舞”を舞うネコ巫女と猫妖精ケットシーたちを見る目は限りなく優しい。

 どれくらい優しいかと言うと、休みの日にネコ巫女をデートに誘うくらいであった。

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