第28話

「にぎやかになったな」

 竜騎士である、”ギルモア・ラフロイグ”が言った。

 身長約180センチ、金髪碧眼である。

 飛竜飛行艇三段空母、”朧月おぼろつき”の三段目下層、飛竜舎だ。


 後ろには、自分と契約している貨物竜キャリアードラゴン、”ピーテッド”。

 その前に、アルテ王女のグレーターワイバーン、”マカロン”。

 ピーテッドの横に、クファルカン忍軍の、”大鴉レイブン”三羽。

 ”マカロン”の横に、ワイバーン飛行隊の、”ファイヤーワイバーン”三騎。

 が並んでいた。


「忍法、写筆の術」

 若い女性の声がした。

 声がした飛行隊員用の待機所に向かう。

 テーブルの周りに、褐色の肌のハーフエルフが三人。


 一人は肩とお腹を出した軽装の女性、”イーズナ第二王女”だ。 


 テーブルには、何も書かれていない巻物。

 その上に柄の先に光の輪がついた小筆が宙に浮いている。

「むっ、めえるが来たな」 

 サラサラと巻物に小筆が文字を書きだした。


『無事、氷原洞コキュートスに到着、指示を待て。 不知火』


「これは……」

 ギルモアが巻物を覗き込んだ。


「ニホンゴだよ、クファルカンで暗号に使う」

 ――元は異世界語らしいな

「ギルモア……殿だな」

 イーズナが振り返らずに答える。


「ああ」

 ギルモアとイーズナの間にピリッとした緊張が走る。


 ”龍の女神”と、”魔の幼女神”は敵対している。

 ”竜と竜騎士”と、”魔族”もお互いを敵と思う人もいるのだ。


 ギルモアが、備え付けの薄いコーヒーをカップに入れた。

「吸っていいか?」

 騎士服の内ポケットから煙草とオイルライターを取り出す。


「むっ」

 残り二人のハーフエルフが身構えた。

 シノビは、煙草など匂いのつくものは嫌う。

「ふんっ、好きにしろ」

 イーズナが無愛想に言う。


「悪いな」

 ピンッ、シュボッ

 オイルライターを開いてフリントを擦る。

 少し離れたところで煙草に火をつけた。


 窓の外には巨大な海亀。

 艦は、アーケロンクラス飛行要塞神社に随航して、ニャンドロスの首都、”ヤマタイ”に向かっていた。



 ハッ、ハッ、ハッ、ハッ


 真っ白い雪原を白い狼が、荒く息を吐きながら走る。

 大きさは小さめの馬くらい。

 スノウウルフだ。

 スノウウルフの種族特性スキルで雪の上に足跡を残さない。


 その背中には、もこもこの防寒具に身を固めた男性。

 銀髪で普通の服の大柄な女性。

 肩とお腹、太ももに褐色の肌を出した女性。

 が乗っている。


 天気は晴れているがキラキラと雪の結晶が舞った。

「ダイヤモンドダストだ」

 大柄な女性が言う。


「さ、寒いねえ~、シーラは寒くないの?」

 男性が、褐色の肌の女性に聞いた。


「平気です。 足袋の中に唐辛子を少々入れてますゆえ」

 彼女は、サバイバル術に長けたクノイチだ。

 軽装であるほど防御力が上がる。


「なんだ、アジ―ン、暖めてやろうか」

 大柄な女性だ。

 彼女の種族は、”スノーオーガー”。

 平均体温、約38度。

 高体温で寒さに適応した。 

 ちなみに近縁種である、”ユキメ”は、約26度。

 低体温だ。

 恋愛でもなんでも体温を上げてくれる、”アツイオトコ”が大変好まれる。


「また後でね、マユキ~」

「お、氷原洞コキュートスが見えて来た」

 遠くの山の間に白く光る屋根が見えた。

 

 遠くに白い山脈、”白氷山系”。

 巨大な六枚翼の古代龍、”冬将軍”が棲まう山だ。

 レンマ王国とハナゾノ帝国の間の、”白眉山系”まで移動し辺りに、”冬”をもたらす神龍である。


 ”氷原洞コキュートス”は、高い山に囲まれた盆地の中にある。

 ユキメ族とスノーオーガー、そして彼女たちのハーレムマスターを含めて大体人口一万人。

 盆地の真ん中には、温泉湖。

 その熱を逃さないように、ユキメたちの種族特性スキルで天井に氷で透明なドーム状の屋根を作っていた。


 三人を乗せたスノウウルフが、氷原洞コキュートスの大門の前まで来た。

 門の前には、大柄な初老の男性と小柄な女性が立っている。


「待っていたぞ、マジ―ン王」

 マユキよりも大きな身長に白髪交じりの頭髪。

 頬には大きな傷、がっしりとした体格。


「久しぶりですね~、トーガ」

 マジ―ンが答えた。

 

「うむ」

 元王国騎士団長であり、氷原洞コキュートスの太守として派遣されている、”トーガ”である。 


「世話になるぞ、”ミユキ”」

 マユキだ。


「お待ちしておりました。 マジ―ン王陛下、マユキ姉様、シーラヌイ義姉様」

 凍えるような美人が答えた。

 身長約160センチくらい。

 肩上で切りそろえた濡れ鴉色の髪。

 抜けるような白い肌に紅い唇。

 白い和服を着ていた。

 ユキメ族の里長である、”ミユキ”だ。


「とりあえず中へ」

「はい(ハーレム)マスター」

 ”トーガ”と、”ミユキ”は夫婦。

 正確に言うと、トーガはミユキハーレムのマスターである。


 氷原洞コキュートスの建物の中に入った。


「イーズナに無事を報せるため、めえるを送ります」

 シーラヌイが白紙の巻物と小筆を取り出した。


「忍法、写筆の術」

 手に持った小筆の柄の先に光の輪が出た。


『無事、氷原洞に到着、指示を待て。 不知火』


 ”シーラヌイ”は、”ニホンゴ”でサラサラと巻物に書いた。

 

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