魔の森の近くを飛行艦で飛んでいたら、魔族の王女様を拾ったんだけどっ?!

touhu・kinugosi

第1話

 ヴンヴンヴン


 青白い月明かりの下、プロペラが回る音を出しながら、巨大な飛行艦が飛んでいる。


 補給艦、”朧月おぼろつき”艦長室。 

 

 ー六月三十二日、火竜日ー

 天気、晴れ。

 本日も変わりなく航行中。


 同艦長である、”カイラギ”は航海日誌にこう書こうとして手を止めた。

 二十代前半だ。

 

 ヴィイ、ヴィイ 


 警報音だ。



「艦長、左舷ひだりげんに未確認飛行体」

 伝声管から声がする。


「分かった」

 

 自分の部屋から出た。

 左の外部通路の手すりを両手で持ち、左舷ひだりげんを見る。

 すでに部下が数人同じように見ていた。

 斜め上に、ヴン、ヴン、と巨大なプロペラが回っている。


 月が奇麗だ。

 青白い月の光に照らされて、白い雲の輪郭りんかくが浮かび上がる。


「あれです」

 隣に並んだ部下が言う。

 雲間にちらりと黒い点が見えた。


「うん、サーチライト点灯」

 部下に指示を出した。


「サーチライト点灯」

 復唱と共に三本、艦から月夜の空に光の線が走る。


「飛竜?」

「違う、ワイバーンだ」

 部下から受け取った双眼鏡で見た。


「ドレスとメイド服……?」

 背中に女性を二人のせているようだ。

「まずいな」

 二人の意識がなさそうだ。

 ぐったりしているように見える。

 ワイバーンがその場でゆっくりと羽ばたいていた。


 ブリッジに移動した後、指示を出した。

「高度を落として、ワイバーンの下に潜り込め」

「回収する」


「了解、艦長」


 艦橋ブリッジは、前部の二段目。

 平型(フェリーみたいな感じ)である。

 艦がゆっくりと転進。


 この艦は、古くなった三段飛竜空母を改造して補給艦にしたものだ。

 上部飛行甲板はまだ使える。


 補給艦、”朧月おぼろつき“がワイバーンの下に潜り込んだ。


「ティルトローターの回転を止めろ」

 安全のために四方にあるプロペラの回転を止める。

「ヘリウムガス発生、浮力上昇」

 ヘリウムガス発生装置が作動。

 気嚢(風船部分)にヘリウムガスが増加。

  

「ゆっくり慎重に近づけ」

 ワイバーンを艦の上に見ながら、ガスの浮力だけでゆっくりと上昇。

「ワイバーンが、プロペラに当たらないように気をつけろ」


「了解」


「何故だろう」

 ワイバーンが反応しない。

 目をまわしているようだ。

 ワイバーンは、空中で意識をなくすとその場でとどまる(ホバリングする)習性がある。


「もう少しでワイバーン着艦」

 部下が報告してくる。

 艦の浮力だけで下からふんわりと近づいた。


「ここは任せた」

 艦橋ブリッジから上部甲板に走った。

 カンカンと音を出しながら金属の階段を駆け上がる。


 ほぼ飛行甲板の中央にワイバーンが着艦。


「無事、ワイバーンの着艦を確認」


「ふう」

 艦橋ブリッジで、伝声管の声に操舵士が安堵の声を上げた。


 ワイバーンが、そのまましゃがみこむように首を横たえる。

 背中の女性二人はやはり意識が無い。


「衛生兵っ」

 自分は、ワイバーンの背の前に座っていた女性を先に下ろした。

 白い肌、銀の髪。

 ドレスのような飛行服を着ていた。

 衛生兵が運んできた担架に乗せる。


 もう一人は、メイド服を着た女性だ。

 黒髪にホワイトプリム。

 編み込んだ髪を丸く頭の周りに束ねている。

 メイド服は、背中が大きく開いている。

 腰には、重厚なつくりの本。


 二人を医務室に運ぶ。


 ハナゾノ帝国の南、魔の森の近くを飛行中のことである。

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