第34話

 白い雲と雲の間を、二頭の飛竜と紅い飛行艦が飛ぶ。


「ローズ皇帝、魔界から部下の竜騎士と魔族の姫が帰ってきたとは本当ですか」

 初老の艦長帽をかぶった男性が聞いた。


「……そうだ、いま学園都市にいるとの報告を受けた」

 艦橋の真ん中にしつらえられた皇帝の椅子に座るローズ皇帝が言う。

 いま、飛行艦は帰還の連絡を受けて学園都市に向けて飛行中である。


 艦橋の丸い窓の外は崖のようにそそり立つ雲の壁。

 雲の谷間を飛んだ。


「ん?」

 外部通路で左舷ひだりげんを見張っていた見張りが声を上げる。

 白い雲の中に黒い陰りが見えたのだ。

 即座に近くの伝声管を開いた。

「左の雲の中に何かいるぞっ」

「大きいっ」


 次の瞬間、


 ドウウウン


 白い雲を突き破って飛行艦が現れた。



 ハーフエルフの国、”シルルート”独特のモノコックボディー。

 暗めの灰色。 

 艦の前部にはデルタ翼。

 特徴的な可変後退翼。

 槍のような船体の半ばが、艶めかしくくびれる。

 そのくびれの根元には、魔術式ジェットのエアインテークが開かれる。

 その入口は警戒色のオレンジに塗られていた。

 丸みを帯びた艦橋。

 その根元の甲板には、二連装二門のニードルスプレッド大砲。

 艦の左右には、南の砂漠の国で作られた、”呪符式火炎弾対空銃座”四門。

 竜騎士を航空戦力に数えない(←ハーフエルフは竜と契約できないから)シルルートには珍しく後部に飛竜舎を設置していた。

 ※モデル:ナ〇ィアのニュー〇ーチ〇ス号



 大きさは、紅い飛行艦、”テンドロキラム”の二倍くらいか。


 艦体の横には、”燃えて朽ちた大木”のシルエットの紋章。


「ローズ皇帝っ!!」

 艦長がローズ振り返りながら言う。


「来たか……、”イグドラシル海賊騎士団”と」

「私掠艦、”アッシュ・オブ・イグドラシル”」

 ※私掠艦とは国公認の海賊船のことである。 


「これが……」

「破壊工作や諜報を行う秘密特殊部隊……」

「シルルート女王の座乗艦、”クイーン・オブ・シルルート”の姉妹艦を駆る……」

「シルルート王国一の精鋭騎士団……」


 ブツッ


「皇帝陛下っ、無線ですっ」


「艦橋に流せっ」


「来たぜっ、ローズ皇帝、久しぶりだなあ」

 奇麗だがどこかドスの聞いた女性の声が無線から流れる。


「来たかっ、”シャラフィファン・カイラギッ”」

 ローズが叫ぶ。


「ああ、うちの息子が世話になったなあ、魔界に行ってるんだろお」


「……そうだ」


「ふふん、話がある、ついて行かせてもらうぜ」


 ローズ皇帝、座乗艦、”テンドロキラム”に並航して、暗い灰色の可変後退翼の飛行艦、”アッシュ・オブ・イグドラシル”が魔術学園までついて来た。


「ローズ皇帝陛下、彼女は一体」

 艦長が聞いてくる。


「ふう、もとの名前は、”シャラフィファン・シルルート”」

「現シルルート女王の姉に当たる女性で」

「”カイラギ・カイト”の母親だよ」

 ローズがため息交じりに言った。



 ちなみに父親は、”カイラギ・ケント”。

 ハナゾノ帝国で、優秀だが地味な文官をしている。

 

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