第37話
イーズナとギルモアを乗せた、可変翼飛行艦、”アッシュ・オブ・イグドラシル”はマジワリの森を順調に航行中だ。
イーズナの誘導のもと、飛行艦、”
丸みを帯びた天井の艦橋。
その窓の外に大きな湖が見えて来た。
「もう少しで、大きな湖が見えます」
「セイレン湖です」
イーズナが、艦長席に座るシャラフィファンに言う。
「あっ、イーズナあそこにはセイレーンがいるっ」
隣にいたギルモアが慌てて言った。
「?」
イーズナが不思議そうな顔で小首をかしげた。
「魅了の……」
ア~ア~⤴
アーアー⤵
「歌が……」
「えっ」
イーズナは、人族が魔力に対する抵抗力がほとんどないことを知らないのだ。
「ほほう」
シャラフィファンの体がくらりと揺れる。
魅了に掛かりつつあるのだ。
「ふふ、魅了の歌か」
不敵に笑いながら全艦放送用のマイクを取った。
『野郎どもっっ』
『歌えっっ』
「アイアイ、キャプテンッ」
艦の各部署から大きな声が聞こえて来た。
ドドダン、ドドダン
床を激しく足で踏む音だ。
ルルル~ル~
ルルルルル~
『ヨ~~~ホ~~~』
その声の上を、シャラフィファンの力強くも流麗な歌声が、全艦放送を通して響いていく。
海賊の歌を歌い始めた。
「凄いわ、魔力を使わずにセイレーンの歌声をかき消した……っ」
イーズナの驚きの声だ。
――なんて脳筋な
「無事、湖の上を越えたぞっ」
ギルモアが言った。
その後、イーズナが忍術で作った魔除けの護符をクルーに配り、艦内にも張り付けた。
「そう言えば、
イーズナがギルモアに聞いた。
「リリス殿が助けてくれた」
「確か、自分の、”巣”にするとか」
ギルモアが答える。
「あっ、あ~、そういうことか」
サキュバスを知っている者にとって、”サキュバスの巣”は乱交パーティーの会場とおなじようなイメージである。
「それで、
何といっても移動する巨大な、”サキュバスの巣”である。
リリスは複数の男性を相手にするつもりはないようではあるが。
少し頬を赤く染めながらイーズナが言った。
セイレン湖から流れるナール河の上を、川面に巨大な影を落としながら、可変翼飛行艦が飛ぶ。
◆
「これより、飛行艦、
カイラギが全艦放送で言った。
鋼鉄都市、”アイアンフェロー”で、艦の修理と改修が終わったのである。
修理と改修したところはつぎの5点である。
1,破損していたティルトローターの修理。
2,四方にあるティルトローターの周りを囲むように金属の支柱で支えられた鋼鉄の装甲がつけられた。
3,艦の横に可動式アームに支えられた追加装甲板。
4、前部二段目にある平型艦橋のさらに前の左右に、二連装シュプレッド砲台が二門増設された。元々レンマ王国の王立工廠で計画されていた改修案を、王立工廠出身のドワーフであるドロフが実現したものだ。
5、シルルートの圧縮空気の技術を転用した飛行艇用の
飛行艦、
水を大量に必要とする工業都市である、”アイアンフェロー”は元々ナール河沿いにあるからすぐについた。
河に大砲の的が乗せられた小舟が複数浮かべられている。
「一番砲塔、標的、”1”を指向」
ウイイイン
向かって右にある二連装砲が回転。
"1"と大きく書かれた小舟に向かう。
新たにつくられた役職である砲術長が、ハーフエルフの技術者である、”シャシャル”の助言の元、命令を出した。
「狙え」
二本の砲身が上下に動く。
「照準よ~し」
「一号二号撃てえ」
パパシュウ
圧縮空気の抜ける音と共に、砲弾である金属の杭が砲身から飛び出した。
ドドパアン
「二弾とも外れました」
外れたといっても亜音速近くまで加速した金属の杭だ。
河面に大きな水柱を立て小舟が宙に舞った。
「続いて二番砲塔……」
今度は左の砲塔である。
しばらく、試射が続けられた。
◆
「全機(騎)発進」
今度は発艦訓練である。
特に新たにつけられた射出装置だ。
真ん中にあるエレベーターから前方へ、射出装置は伸びている。
ビイイ、ビイイ
甲高いブザー音と共に飛行艇、”ネコジャラシ”がエレベーターと共に第一甲板に上がって来た。
操縦席には、サクラギとリリス。
艦の横の装甲板が、飛行艇を守る壁になる為可動式アームで上に上がる。
「カタパルトに移動する」
複数のクル―が告げると共に、”ネコジャラシ”が木製の車輪のついた台車から射出装置に接続された。
飛行艇の船の部分を固定するような感じである。
「強化するわ」
リリスが魔導書を開きながら、念のために飛行艇が壊れないように強化した。
「発艦準備完了」
機体の近くで旗を持ったクルーが告げる。
「サクラギ、リリス、飛行艇、”ネコジャラシ”、発艦する」
サクラギが、手を前に振るハンドサインをクルーに送りながら大声で言った。
「発艦」
クルーが、全身をかがめて腕を前に出すと同時に、
バッシュウウウ
「くっ」
「きゃっ」
サクラギとリリスが小さくうめく。
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