イタチ狩り
「おまえさん、イタチがどんな奴か知らんだろ?」
シリウスさんがまるで渋いベリーを食べたみたいに酸っぱい顔をして言う。
そんな変な事を言っただろうか?
「悪い人です、ならそれで十分でしょう」
「そういうこっちゃない。イタチの野郎は、野盗の中でも、ちょっとは名の知れた男だ」
「仲間を捨て
「なるほど、矢を使う野盗さんなんですね?」
「あぁ、そうだが」
「では、矢が当たらなければいいんですね。
私は木片を取り出して小刀でルーンを刻む。
「風、包、力」いや、「風、力、外、」の方がいいかな?
ルーンとは魔法の元になる、力をもつ言葉だ。それは超自然的な運命すら操る。
私がさっき治療に使った魔法、それを秘めたものだ。
そこまで万能ではないが、一回の戦い程度なら、十分に役目を果たす。
「えー……ほんとにこんなので大丈夫なの?」
「あら、
「だって……ただの木の板だろ?」
「
「そういうこっちゃないんだが?」
「では、思いっきり私に石を投げてみてくださいますか?」
「えぇ???うーん……」
恐る恐る石を放るシリウスさん。石は私の手前に落ちた。
「ほらほら?投げてみてくださいな」
「あれ……?もう一回」
石は私を飛び越えていった。うん、ちゃんと働いているようだ。
「うっそだろ……?」
「はい、嘘じゃありません。これが矢逸らしの呪符です。良いでしょ?」
信じました?と聞くと、こくこくと頷くシリウスさん。
呪符や魔法は、それを信じる強さが無いと、その効果が弱まってしまう。
なのでこういう実演がけっこう効くのだ。
私は2枚の矢逸らしの呪符を作り、シリウスさんに押し付けた。
・
・
・
私たちはシリウスさんが襲撃を受けたという場所まで戻った。
彼が残した血の痕に、いくつものブーツの足あとと、争った跡。
来たはいいけど……ここからどうしましょうか?
シリウスさんは屈みこんで、数ある足あとをあれこれと調べている。
「うん、これがあいつらで……こっちがイタチの野郎だな」
「わかるんですか?」
「ああ、重さ、足の速さで足あとの形は変わる。後は……臭いだ」
「ははぁ、なるほど」
「この足あとは続いている……行こう、こっちだ」
彼の後に続いて進む。盗賊騎士というから、乱暴な人なのかと思ったけど、意外に几帳面なものの見方をしている。
土の上に残った足あとが消えた後も、シリウスさんによる追跡は続いた。
地面の枯れ葉の散り方、巻き上げられた土が乗った葉っぱ。
そうした何気ない痕跡からも、この捨て犬さんはイタチを追いかけている。
この人の注意深さとねちっこさは、私のお師匠にも負けて無いかもしれない。
「すごいですね!よくスイスイ進めますねぇ」
「慣れりゃ簡単だよ。野原でヒトや獣が歩くと、必ずなにがしかの痕跡が残る」
「葉の重なり方、土のへこみ方。枝ぶり、虫の巣、そいつらに何かしらの変化を見つけるんだ。その疑問を突き詰めていきゃ、追いかけられないもんはない」
「すごいですね。野生の勘か何かだけと思いました」
「ハハ、それも大事だ。肝心なのは、ものごとをよく見るって事よ」
シリウスさんはそれからもしばらく進んで、急に立ち止まった。
(シッ……きっとあれが隠れ家だ)
(なるほど、旅人の宿、その廃屋ですか)
私たちの前にあったのは、傾いた屋根の廃屋だ。
屋根の落ちた馬屋が離れにあり、母屋はL字型をしている。もとは母屋を囲う柵か何かがあったのだろうが、今は横木はすべて失われて、柱だけになっている。
いつ崩れ落ちてもおかしくない家からは、確かに生活のにおいがする。
薙ぎ倒された草、まだ乾ききっていない泥。
おそらくここがイタチさんの隠れ家で間違いないでしょう。
さて、ここからどう動きましょうか?
「シリウスさん何か名案はありますか?」
「そうだな……、昼寝でもするか」
――はい?
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