呪われた首飾り
「物語は、この村のとある漁師が、川底で古びた箱を見つけたことから始まる」
スノットさんは、すっと何かを拾い上げるようなそぶりをして続けた。
「漁師が見つけたのは、銀細工に大きなヒスイの付いた首飾りだった」
「まあ、それはすごい宝物ですね」
「ああ、漁師が喜んだことは想像に難くない。正直に働いていた自分に対する、神の贈り物とおもったのだろう」
両手を高く上げ、崇拝のポーズをするスノットさん。
確かにそんなものを偶然手にしたら、誰だって舞い上がってしまう事だろう。
「だが世の中、順調に見えるときほど、やばいことが起きてるもんだ」
スノットさんはシリウスさんにを「先の展開を言うんじゃない」といって咎めると、軽く咳払いをして話を続けた。
「漁師はその首飾りを、村に住む恋人に贈ることにしたのだ。結婚を控えていたが、彼には贈り物をするだけの金はなかったからな」
「まあ!拾ったものを?」
「おいおい、ずいぶん図太い奴だ」
「そこは普通、『何と素晴らしい愛情』とでもいう所なんだが、ええい、続けよう……」
「すまんカマラさん。オウガはこう……なんというか、押しつけがましい奴なんだ、少しばかり我慢してくれ」
「はぁ」
「彼は恋人に首飾りを贈って、その日は朝まで
「そしてついには力尽き……あの小高い丘の墓に埋葬されたのだ」
「悲劇的ですね」
「それで、次に何が起きた?」
「以来、夜な夜な彼の家の戸口を叩くものが現れるようになったのだ。それも夢の中でな。自分の叫びで目を覚まして、ついに漁師は自身の手で魚を取るための網も持てないまでに弱ってしまった」
「ふむふむ……」
「彼が見た夢の中の怪物は、恋人のドレスを着ていたが、枯れ木のような白く乾いた皮膚をもち、その顔は二目と見る事も出来ぬほどだったという」
「彼とその家族は悩み、名うてのビーストハンターであるこのオウガを頼った」
「しかし夢の中の怪物を退治するというのは、流石に私でも難しい!そこで君たちを助手として雇おう!どうかね?!」
「つまり丸投げしたいって事だろ?」
「……白魔女さん?まさか受けるなんて言わないよな?」
「いえ、受けましょう。これは……このままにしておくと、この村全体が災禍に見舞われるかもしれません」
災禍と聞いて、「ひぃ!!やっぱり!」と叫んで腰を抜かしたスノットさんはひとまず置いておいて、ちょっと考えてみましょう。
「まず調べるべきは、漁師の人が拾った呪われた首飾り、そして箱ですね」
「首飾りはともかく、箱もか?」
「ええ、呪いが関係してるとなると、それを封じ込める何かが、箱にされていた可能性があります。何かの手がかりにはなるかと」
「そして次に調べるべきは、埋葬された恋人ですね。彼女が悪霊になったかも」
「ひょぉ!」
「どうやらカマラさんは、夢の中の怪物、それに心当たりがあるみたいだな?」
「ええ、恐らく『
「その、『アルプ』ってのはなんだ?」
「あぁすみません、夢魔の一種です。眠っているヒトの精を吸って、夜明けと共に去っていくもので、不眠のほかに、大した害をなすものではないのですが……」
「他には?」
「そうですね……アルプは死産となった子供、とくに、母子ともに長い苦しみの末に死産になると、その子供がアルプとなることもあります」
「ふむ……漁師の恋人の墓を調べた方がよさそうだ。場合によっちゃ、
「――墓を暴くっていうのかいシリウス?そりゃ不味いよ」
「ですが、決定的な証拠になり得ます。彼女のお腹の中に命が宿っていたかも」
ううむ、といって腕を組むシリウスさん。
確かにこれはあまり気持ちのいい行いではない。
「……放っておくと、この村全体が災禍に襲われるっていうのは?」
「もしこのアルプが、邪悪な魔術師の呪いであった場合、漁師が死んだ後も、見境なく村の人へ攻撃を始める可能性があります」
「おいおい、それって……」
「最悪の場合、アルプは死者と共にその数を増やすかもしれません。もしこれが邪悪な呪いによるものなら、ここで手を打たないと、大変なことになるでしょう」
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