出会い

 それはシリカ帝国を出て、幾日いくにちか経った、旅の途上でのことだった。


「あれは……?」


 私は目の前にいる者を見る。

 大ケガをした男の人、しかし鎧を着て、武装して血を流している。


 どう見ても訳ありだ……どうしよう?


 顔を見てみるが、荒々しさが目立ち、どう見ても善人には見えない。

 といっても、悪人にも見えないけど……。


 年は20代くらいかな?大柄で、鎖帷子メイルシャツからのぞいてみえるのは、見事な筋肉。

 兵士か騎士っぽい印象の、黒髪の褐色の肌の男の人だった。


 うーん、こういう時、お師匠様なら、なんて言うだろう?


『しなかった時の言い訳を考えて見なさい。それに困るなら、やって良い事です』


 ……って感じだろうなぁ。


(悪い人か良い人か、わからなかったので見殺しにしました)


『ほう、胸を張って、私にそれを言えますか?』

『あなたが彼だったら、それにどう感じたでしょう?』


(うーん……うーん……)


 ええい!考えるより行動!!

 悪人だったらもう一回ボコっちゃえばいい!


 ――いや、それはそれでどうなんだろう?


 とにかく私は、彼の側に座り込んで、怪我の様子を確認する。


 矢傷か。固まって抜けなくなる前に、自力で抜いたみたい。すごい根性。

 お、この人運がいい、太い血管は傷ついてない。これなら助かるかも。


 しかし、血が止まっていない、これはよくない。


 体は、うん、冷たい、震えも出てる。かなり血が抜けている。


 優先は止血だ。とりあえず何か口に噛ませて……、そこら辺の枝でいいや。


 私は枝をませるために、彼の口を開けて気付いた。

 この特徴的な歯列は、この人……人狼か。


 うわー、厄介ごとの香りがする。でもここで治療をやめるわけにもいかない。


 止血に必要なのは勇気だ。止血効果のあるトニックで浸したワタのかたまりを、彼の傷口へと、力任せにグイグイと押し込んでいく。


 意識を失いかけてて、逆に良かった。

 痛みで暴れ出したら、女の私では、暴れる男の人を抑えられない。


 このトニックには鎮痛効果もあるはずだから、それも助けになっていると思う。


 ひとまず押し込んで、包帯で固定する。後は出血が収まってから、魔法で傷口を縫い合わせよう。


「母さん……母さん……」


 うーん、うわ言を言いだしてる。私はお母さんじゃないですよー。

 白魔女さんの、カマラさんですよ~。


「捨てないで……」


 ――。


 同情するわけでは無いけれど、彼を包んで、少し暖かくしてあげよう。


 見ず知らずの人狼にここまでするのは、どうかしてるとは思うけど……。


 急ぐ旅ではなし、ま、いいでしょ。

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