捨て犬と呼ばれた騎士

★★★


「クソッ……ドジったな。」


 俺は鎖帷子くさりかたびら穿うがった鋼の矢じりを、力任せに引き抜いて地に放る。


 ふと、仲間に言われた言葉を思い出す。


 ――捨て犬、お前そんなんじゃ、いつか死ぬぞ?


 ハンッ、余計なお世話だ、と思っていたが……いざこうなると、怖い。

 怖くてたまらない。この震えは、きっと血を失ったことによる寒さだけではない。


 俺のようなヒトと獣の間、半端者はんぱものの魂は何処へ行くのだろうか?


 ……そう、俺は「人狼」だ。獣と人の間を行ったり来たりするもの。


 俺の一族の先祖は、何やらワケありらしい。

 ごくたまに、先祖の血が強く出る奴がでて、夜に人ではないものに変わる。


 で、そのたまに出てくる奴。それが俺だ。


 確かに便利は便利だ。剣なんか力任せにへし折れるし、馬より早く走れる。

 ま、夜限定だけどな。


 そう、夜限定。で、今は昼だ。


 つまり今の俺は、何の変哲もない矢を一発どてっぱらに食らっただけで死ぬ。


 というか、実際に今、死にかけてるな。


 昼夜でこの振れ幅だ。まともな生活なんかできっこない。


 いくさには便利だから、何とか誤魔化ごまかし誤魔化し叙勲じょくんされたが、この後が困った。


 想いを寄せるご婦人のために剣を捧げる?冗談じゃない。

 夜になったら狼よ?例え話じゃなくて、物理的に。どうすんのよコレ。


 ベッドなんか毛だらけでくっせーの。自分の鼻が曲がるくらい。

 モテるわけないでしょ?こんなの。


 言い訳するわけじゃないが、孤独こどくが悪かった。自然と悪い連中とつるむハメになった。金を稼ぐために、金持ちや商人に因縁をつけては、決闘を要求する。


 相手は関わり合いになんか、なりたかないから金を払う。

 こんなことを繰り返すから、そのうち「盗賊騎士」なんて言われるようになった。


 ま、それで当然のように実家に勘当されて「捨て犬」になったわけだ。


 清々しいくらいに自業自得。笑うしかないね。


 そして、なんだかんだあって賞金稼ぎに落ちぶれて、ドジってこうして生死の境をさまよってる。

 

 あー、どうしてこうなったんだろ。……クソッ。


 俺のせいじゃない、と言いたいけど、事の顛末てんまつは明らかに俺の選択が呼びこんでいる。


 だからと言って神妙しんみょうな気分で死ぬ気にもなれない。


 ぼやける視界の中、白い何かが目に入った。


 ああ、お前が俺の死神、か――

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