出立


 ――白魔女。

 それは薬草学や、魔術によって、人を助けるものだ。

 また人を害する疫病や魔物、そしてそれを広める「黒魔女」と戦う存在でもある。


 私の名は白魔女、カマラ。


 幼い日、シリカ王国の森に捨てられました。

 そして、白魔女だったお師匠の修行を受け、同じく白魔女となりました。


 両親の記憶はありません。私の親は、お師匠だけです。

 そして私は、お師匠を継いだ。何年この森で過ごしたでしょう?


 そのうちにシリカ王国はシリカ帝国となり、悪心が満ちるようになりました。

 帝国となった彼らは、黒魔女と白魔女を区別しない。魔物と獣人を区別しない。


 鋼と石炭の炎のみを信じ、旧き教えの書かれた本を焼き、神の像を焼き――


 ――やがてヒトを焼き始めた……。


 私は愛想が尽きて、帝国を後にすることにした。つまりは、夜逃げですね。


 私がせんじる薬草が気にくわないなら、水銀すいぎんでも砒素ヒソでも飲んで、錬金術でつくる偽金きんをなでているがいいでしょう。いつかなで返してくれるかもしれませんからね。


 もちろん、街や村の子供たちの顔が、私の頭によぎらないでもない。

 でも、彼らはいつか大人になり、をするでしょう。


 だからここを後にします。

 お師匠様の思い出と別れるというのはつらいです。

 けれど、彼らに焼かれるよりかは良い。


 お師匠様が愛された彼ら。

 彼らを憎むようなことはしたくありませんから。


 私は森の中にポツンと存在する館に、姿隠しの術をかける。

 森のすべてを切り拓くとなれば、なんにもならないけど……しないよりはマシ。


 最後の別れになる、お師匠様との思い出が詰まった館を見上げる。


 お師匠様、さようなら。

 カマラはいきます。行って、生きます。


 私はできるだけ上を見るようにして、長年過ごした森を後にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る