リバーミル
さて、俺と白魔女さんはイタチの
向かうは俺の故郷の「ホワイトバック」だ。
もちろん俺は勘当の身なので、実家の屋敷に入ることはできない。
しかし、ホワイトバックには、俺の曾祖父が遺した、小さな塔がある。
白魔女さんがそこに落ち着くことができれば、まあ十分な恩返しと言えるだろう。
彼女は「塔に住むなんて本当の魔女みたいですね」なんて笑っていたが、たしかにその通りだ。さしずめ俺は使い魔になるのかね?
さて、今日宿を取ろうとしている所、ここがちょっと複雑な場所になる。
ここは「リバーミル」という村だが……。
シリカ帝国と西方州メイビルが、両者の間に流れる川を
リバーミルはその名の通り、川沿いに穀物を挽くための
そしていつしか、川をまたぐ橋ができた。橋が作られたのは、シリカ帝国がまだ王国だったころだけどな。
この橋を通って、リバーミルの連中は、シリカ側からも木や草を取ることができるようになった。しまいにゃ家すら建て始めるようになる。
すると段々とややこしいことになる。
そう、リバーミルはどちらの国のものか?っていう問題だ。
★★★
「ここがリバーミルですか」
「何つーか、田舎だな?泊まるとこあんのかね?」
私たちはリバーミルの村の入り口にきました。
シリウスさんの言う通り、ここには土と草の強い臭いがします。
レンガや
家々は丸太を重ね、風の入る
ですが、家々の壁にたてかけられた農具は柄も曲がっておらず、しゃんとしてますし、職人が木づちを振るう、トントンという音もしています。
きっと、新しいお家を建てたり、部屋を作る余裕があるんでしょうね。
みると、川で洗濯をする奥さんたちの手には、ちゃんと血気がありました。
田舎ではありますが、活気があって、生活が苦しい感じはしませんね。
「馬小屋でも何でも、屋根を借りられる場所があれば、そこでいいのでは?」
「白魔女さんがいいなら、それでいいけどよぉ……」
しん……と、周囲の音が止んだ。
洗濯をしていた奥さんたち、そして井戸から水を汲んで世間話をしていた女たちが一斉に動きを止め、村の中に静寂が生まれたのだ。
異変に気付いたシリウスさんが「しまった」という顔をするが、もう遅い。
手に思い思いのものを持った女たちが、包囲の輪を狭めていく……
・
・
・
「うちの子夜泣きがひどくてねぇ?」
「あーた、うちの子4歳になるんだけど、まーだ寝小便をすんのよ?!」
「頭痛が」「歯痛が」「腰痛が」
――捕まってしまいました。
ええ、これは確かに、白魔女の担当分野ではあるのです。
とくに、女性の場合、男性の薬草医に相談しづらいお話とかもありますので……
あっというまに私たちの周りに奥さんたちが集まってきて、その場で薬草の見分け方や、自分で用意できる痛み止めや熱さましの作り方の講義をすることになってしまいました。
「この村には、お医者さんはいないのですか?」
「そーなのよ、町にゃいるけど、べらぼうな金をとられるのよ」
「あー、それは大変でしょうね……私は旅の空ですので、お礼はもうほんと、お気持ちでいいので」
「そー言われちゃうと、そういうわけにはいかないわよ!!」
「ウチらは貧乏だけど、ケチじゃないのよ!」
「「わいのわいの」」
まあまあ大変なことになりました。お礼の品として、大根やバター、チーズや穀物の袋なんかを山盛りにいただいてしまいました。シリウスさんまで「助手さんかい」なんて言われて荷物を持たされています。
「……シリウスさん、どうしましょう?」
荷物の間にあごを乗せて私が問いかけると、彼も抱えている荷物の間から、うんざりした様子で答えました。
「ひとまず物を置けるところを探そう。いくら何でもこりゃ予想してなかった」
「すみません」シリウスさんに謝ると、「俺のせいだ」というので更に謝り返して、ええ、これではキリがありませんね。
「まず
「やれやれ、このまま鍋に飛び込まなくていいのか?」
「魔女の大鍋は、お家に置いてきたので」
旅籠の寝室というものは、ベッドの大きさがそのまま部屋の大きさになっているような、粗末なものなんですよね。
「本気で旅籠に泊まるつもりじゃないよな?旅籠の部屋ってのは、善良な旅行者が泊まるもんじゃなくて、酔っ払いを押し込むためのもんだぜ?」
「最後の手段ですかねー?」
私たちは荷物を抱えながら、リバーミルの旅籠へと向かいました。
旅籠の名前は「欠けた
ははあなるほど、表に年季の入った石臼が置いてありますね。
表には一頭のやせ馬が繋がれていました。
シリウスさんはそのやせ馬を見て小首をかしげた後、私にこう言いました。
「なあ、カマラさん。やっぱやめないか?」
「そんなこといって、この大荷物どうするんです?」
「ああ、そうなんだけどさぁ……」
まさにその時でした。
ばんっ!とおおきな音を立てて、旅籠の扉が開け放たれました。
見ると、旅籠の中から、立派な服装をしているのに、何か貧相な感じのする男の人がそこにいました。
彼は鋲の打たれた皮鎧の上に、厚いレザーコートを羽織って、背の高い帽子をかぶっています。
それだけなら威厳のひとつも出てきそうなものなのですが、肩を丸め、頬と鼻は青白く、長髪もだらんとしているようで、自信と生気が感じられません。
「やっぱりそうだ!聞き間違いじゃなかった!わが友、シリウスよ!」
私とシリウスさんは、荷物を抱えた姿勢のまま、顔を見合わせました。
「やっぱやめときましょうか?」
「だろ?」
――私にもわかるくらい、
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