星降る丘

「狂星の落ちた場所を示す地図……?」


 私はサラトガさんの言葉をそのまま繰り返しました。

 魔法の成り立ちが狂星にあることは子供でも知っています。


 しかし、それが何処どこにあるかという話になると、どこか不気味なほどに、誰も知らないのです。――この地図にはそれが書かれている。


「その場所は何処だ? この地図だけ見てもよくわからんぞ」


「今から説明するから、ちっとは落ち着きな。この『星降る丘』と書かれた場所は……今の呼び方だと『ホワイトバック』だね」


「――なッ!」

「えぇッ!」


「そんなに驚くことかい?」


「驚くも何も……カマラさんと俺の旅の目的地はそのホワイトバックなんだ」


「えぇ、その通りです。シリカ帝国を出て、ブレイズによる魔女狩りが落ち着くまで、そこでほとぼりを覚まそうとしていたんです」


「ハッ! そいつぁ何とも皮肉だね。間違いなく決戦の地になるじゃないか」


「だろうなぁ……」

「どうしましょう?」


「ん、普通に目的地をかえりゃぁいいじゃないか?」


「いや、そういう訳にはいかないんだ。なんせ、ホワイトバックを目的地に選んだのは……俺の実家がそこにあるからなんだ」


「なんだい。やっぱりあんたらそういう関係だったのかい?」


「「いえいえいえいえ!!!!」」


 私と捨て犬さんは、二人して否定の言葉を輪唱する。

 それを見たサラトガさんは、とてもお師匠によく似た笑いを投げかけた。


「まあ、あんたらの事はともかくとしてだ……こいつをどうするかだね」


 彼女は地図を丸めると、金属の筒にしまい直しました。


「その地図は焼いちまったほうが良いんじゃないか? 狂星がどこにあるかなんて、どう考えても世に出ていい情報じゃない」


「それはどうかね。……メイビルの評議会はこれにいくら値段をつけると思う?」


 捨て犬さんの言葉に対して、サラトガさんは意外な言葉を発しました。

 まるで彼女は、評議会に与するような言い方です。


 私と捨て犬さんはその言葉を聞いて身構えます。

 しかし、サラトガさんは口笛を吹いて、私たちの方を見ます。


「まあ落ち着きなよ。これはシリカ帝国にとっては喉から手が出るほど欲しい情報だ。これのためだったら何人でも殺すだろうさ」

「しかし……そこいらの子どもまで知る情報になったら、どうなるとおもう?」


「何が言いたいんだ?」


「一人、二人が知る情報なら、人を殺しても割に合う。しかしこの情報がメイビルにわたって、世間の知るところと慣れば、シリカに対する包囲網を作れる」


 ふさっとした胸板から「ふぅ」と息を吐いて、シリウスさんは頭を掻きました。


「シリカ帝国が他国に強硬的になり、亜人を焼き始めたのは、狂星を求めているから。だから皆で帝国を止めよう。そういう話の持っていき方にするってことか?」


「そうだね。ただ、まだイマイチわからないのが……」


「なぜ狂星を求めるのか? ですね」


「その通りさ。」


「求めているとは限らん。オレが思うに逆じゃないか? 狂星が亜人と魔法をこの世に生み出した。なら凶星を吹き飛ばしちまえば、全部消えるんじゃないか?」


「……なるほど、シリカ帝国の方針なら、そういう考え方もできるね」


「――まさか……いえ、あり得るかもしれません」


「カマラさん、あり得るって、何がだ?」


「あの魔女、アポニアはその目的、魔法を消すという目的をブレイズに語って協力させている。しかしその実、彼女は強力な魔法の力を得るのが目的なのでは?」


「――そうか! それならブレイズと魔女が一緒に居る辻褄が合うぜ」


「魔女アポニアがつけている記章は明らかにアマルテイアの物です。彼女の詳しい出自はまったく不明ですが、かつての神聖帝国に与する者なのは確かです」


「きっと彼女は、狂星に近づき、その力を得て……再び神聖帝国をこの世に蘇らせるつもりなのではないでしょうか? 神聖帝国、いえ、死者の帝国として!」


「……なら、次は証拠集めだね」

「その推測が正しいなら、とんでもない事になるよ」


「あぁ、きっと……おおいくさになるな」

「サラトガさん、その地図をメイビルの評議会に持ち帰りましょう」


「……なんかすごい事になっちゃったねシリウス?」


「だな。オウガ、これが冒険ってやつだぞ」


「僕は怖いけど、なんだかシリウスは楽しそうだね」


「俺も内心はヒヤヒヤしてビビりっぱなしだよ。骨共に突っ込む時もそうだった」


「僕には、すごい余裕そうに見えたけど?」


「全然? じゃなきゃ『ウォー』なんて叫ぶかよ。あれは自分のためだ」


「……なんだかシリウスも人間なんだなぁ」


「あのなぁ、殴るぞ? この姿じゃ流石にしないが」


「ごめんごめん、なんて言うんだろ。……やっぱ君はバケモノなんかじゃないよ」

「――そうか」



「あれ? 捨て犬さん、ずっとそっち見ていますけど、何かありました?」


「いや、何でも無い。……ちょっと寝違えただけだ」


「……起きながら寝違えられるんですか?」


「そういうこともあるんだ」

「そうですか?」


 さて、私たちは遺跡で、狂星の位置が書かれている古地図を手に入れ、メイビルへと戻りました。そして評議会の人たちに、この情報を渡すのですが……。


 やはりこの街は一筋縄ではいきません。

 より複雑な状況へと、巻き込まれるのでした。

 


 

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