メイビルへ

更新を再開します。ウォォー!

感覚が空いたので少しづつ思い出しながら書いていきます

憎い……花粉が憎い!

――――――――


 ドーキンを館に連れ帰った私たちは、彼をドヴォールさんに引き合わせました。

 彼はきっと怒るだろうと、私は彼の反応を、そう予想していました。


 しかし、彼の反応は、予想とは違いました。


 テーブルの上で一人、火酒を呷っていた彼は、ドーキンの姿を認めると、手に持った杯を取り落とし、中の酒をぶちまけました。

 酒焼けのせいで、ひどく聞き取りづらいガラガラとした声を出して、彼は目の前のドーキンを抱きしめたのです。


 あまりにも以外な反応に、私と捨て犬さんは目を見合わせます。

 ひっぱたくか酒瓶で殴りつけるかと思っていたからです。


 ドヴォールは喉の奥でうめいた後、私達に一通の封蝋の施された封筒をよこしました。開けるまでもなく、その中身はわかっています。メイビルへの通行証です。


 前もって用意して、願掛けにでもしていたのでしょう。

 赤い蝋は欠け、白い油が浮き出ています。

 

「ありがとうございます、ドヴォールさん」


「あー、ついでといっちゃ何だが、路銀の足しをいくらかもらえんか? 約束にはないのは承知の上なんだが、どうにも難儀していてな」


「何だ捨て犬の解消なしめ! 金だけでいいのか?馬をくれてやってもいいぞ」


「弁当にするにはデカすぎるから、金でいい」


「……それもそうだったな。ほれ、持っていけ。金はいくらあっても困らん」


 彼は背後にあった金属で補強された収納箱を開くと、その中から麻製の袋を取り出して、シリウスさんに手渡しました。


「すまんな、助かる」

「こちらこそ、面倒をかけたな」


 感情的に余裕が出たのか、お礼までいうドヴォールさん。

 ちょっと以外な気がして驚きました。

 昨夜の彼と、今の彼、どちらが彼の本当の姿なのでしょう?


 私たちは彼の屋敷を後にして、メイビルへ向かうことにしました。

 今は正午前、今すぐ出立したとしたら、夜半にはつけるでしょうか?


「なんか色々もらっちまったな」

「ですねぇ」


「それはそうと、メイビルへの道はどうしましょう? 今から向かいますと、到着はおそらく、夜半になりますよね?」


「だなぁ。メイビルは人狼に対して優しい土地柄か?」


「どうなのでしょう? メイビルは魔術に対して拒否感は無いようですが、あくまでシリカ帝国に比べればですね。あまり喜ばれるとは思えません」


「一旦道中で野営するかぁ。日をまたいで、日中に街に入るか」


「そうですね。あ、メイビルには会いたい人もいるので、彼女と会っても大丈夫でしょうか?」


「知り合いか?」


「えぇ、私と同じ白魔女で、サラトガという女性ひとです」


「かまわんぜ、ホワイトバックまでの道程は長いんだ、急ぐ旅じゃあないしな」


「ありがとうございます。すこし気になることもありますし」


「気になること? あの首飾りとか何かに関係することか?」


「いいえ、シリカ帝国のウィッチハンターと思しき者たちと一緒にいた、あの魔女のことです。魔法を使う魔女は排斥の対象です。なのになぜ彼女が彼らと同行して、目的を同じにしているのか? それがちょっと気になりまして」


「ふむ……言われてみればたしかにそうだな。何か手がかりでも?」


「手掛かりと言うほどではないですが、魔女の身につけていた紋章、それが気にかかりまして。双頭のわしの記章を使う国は、寡聞にして知りませんので」


「なるほど、それをサラトガとかいう白魔女に聞きたいってことか」

「えぇ。」


「……良いんじゃないか? でも、何でそれをしたいんだ?」

「えっ」


 シリウスさんに言われて、気が付きました。

 それがわかったところで、何がしたいかまでは考えていませんでした。


「考えてねぇのかよ……相変わらずどっか抜けてんな」


「すみません。世事に疎いもので」


「そうだな、こんな感じの筋道を立ててみちゃどうだ?」

「すじみち、ですか? どういった」


「ああ。こんな感じかな? メイビルのお偉いさんは国境で起きたゴタゴタのことなんて、まだ知らないだろう? まずはこの事を伝える」


「で、次にそれがどうやらシリカ帝国のよくわからん連中の仕業だってことだ」


「はい、あのアポニアという魔女の目的と正体は一切不明です。」


「お偉いさんに伝えるときに、よくわからん奴がよくわからん事をしているなんて、報告の体になってないだろ? だからそこを整えるために調べる」


「筋道としちゃあ、こんなところだろ? 白魔女さんは、オレたちの知らん魔法やバケモノには詳しいが、オレたちゃそうじゃない。だからそこを考えないとな」


「なるほど。さすが捨て犬さんですね!」


「まあこういうのは任せとけや。カマラさんはそこらへんが抜けがちだからな」


「面目ないです。はぁ」


「ところで、メイビルのサラトガって白魔女はそういうの紋章とかに詳しいのか? どんなやつなんだ?」


「彼女はエルフです。私達よりずっと先輩の白魔女で、いろんなことを知っているんです。なので、その紋章のことにも心当たりがあるかと思いまして」


「へぇ、エルフか。白魔女のエルフ、なんかいかにもって感じだな」


「ともかく通行証は手に入りましたし、このままメイビルに向かいましょう」


「だな。追手がかからんとも限らんし、さっさといっちまおう」


「追手、ですか?」


「噂をすれば――」


「おーい!二人共!まってくれよぉ!」


 私達にかけられた声は、スノットさんのものです。

 どうやら手遅れだったようですね。

 捨て犬さんの言うに見つかってしまいました。


「ひどいじゃないか、置いていくなんて」


「コンビを再開するとも言ってないし、ついて来いといった覚えもないんだが」


「ひどい!」


「まあまあ、シリウスさん、一先ずはいいのでは? スノ……オウガさんは何かと顔が広いようですし、きっと悪いことにはなりませんよ」


「それはそうなんだが、こいつは厄介事も持ち込むぞ?」


「まだ根に持っているのかいシリウス、僕は君のことをだね――」


「沼地を半日腰までつかって歩かせて、ヒルのエサにしたり、得体の知れない煙でいぶしたのもオレのためか?」


「その件については解釈の余地が――」


「どこにあるってんだ。……まあ、ついてくるぶんには構いやしないが、お前の起こしたトラブルについては一切手を付けんぞ」


「うっ」


「そうだオウガさん、私たちはメイビルの白魔女のサラトガさんに会いに行こうと思っているのですが、彼女の居所に心当たりはありませんか?」


「えっ!サラトガを探しているのかい? それなら知っているけど……」


「ちょうど良いですね、シリウスさん、彼に案内を頼んでもいいですか?」


「まぁ、カマラさんが言うなら、だがきっとロクなことにならんぞ」


「友よ、任せてくれ給えよ、いやはや、サラトガと僕は、実は冒険をともにした仲でね……」


「本人に聞いたら全く違う内容が返ってきそうだな」


「フフッ。それも含めて、オウガさんの話をじっくり聞いてみませんか?」


「おやおや? 初めて白魔女さんの魔女らしいところが見れた」

「まぁ!」


 ――リバーミルでは紆余曲折有りましたが、ひとまず私たちはこの地でのトラブルを切り抜け、新しい目的地、メイビルへと向かうことになりました。


 そして、彼の地ではまた……別の問題が起きていました。

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