家族の問題
兵士たちの前を通ると、つま先から頭の先まで舐めまわすような視線を感じる。なるほど、門番は人間でしたが、意外にも亜人がいますね。
猫のような顔つきの者、トカゲのようなぬるっとしたウロコを持ったもの、種々の亜人が箱や樽に腰掛け、剣や槍と言った得物をもてあそんでいる。
名主のドボールさんに亜人に差別意識がないのか、それとも別の理由なのか解りませんが、なんともバラエティに富んだ取り合わせですね。
館は二階建てで、一階の石造りの部分には入り口が無く、階段で二階から中に入るようです。
「ドボールさんのお家は一階に入り口が無いのですか。なんとも不思議な作りです」
「……白魔女さんってホントに世事に疎いんだな」
「はい!」
「いばるこっちゃねぇ。こういう建物は
「なるほど、一階は倉庫なんですか……あっ、ひょっとして作物、税として集めている小麦や野菜なんかを運び入れるために?」
「さすが白魔女さん、なかなか勘がいいな。そうそう、こういう地方の領主や名主の館ってのは作物を貯める倉庫がメインみたいなもんだよ」
「ドボールさんが徴税権を買ってるなら、少しでも大きく作りそうですね」
「ああ、まったくだな」
私たちは階段を上り、名主のドボールさんの館へと入ります。
二階へ上ると、すぐに開けたダイニングホールになっています。
ホールには食器と果物の置かれた長机があり、その横には盾の飾られた暖炉がありました。そして部屋の一番奥には、周りの床から一段高い、ダンスステージのような段差があります。あれは一体なんでしょうか?踊るにしては狭いですが……。
「やれやれ、ホールに段まで作ってるとはね。すっかりドボールは貴族気分か」
「どういう意味です?」
ふと口にした私の疑問に、シリウスさんはすこし声を潜めて答えてくれました。
「ほら、ホールの奥、扉の横にちょっとした段差があるだろ?アレって偉い人のイスを置くためのもんでな、お貴族様の家以外には、本当は作っちゃいけないんだよ」
「ははぁ、ドボールさんは自信家なのですね」
「それかとんでもない自惚れ屋だな。あんまり友達には欲しくないタイプだ」
「まぁ!」
しばらく待っていると、奥からでっぷりと太った男が現れる。
太ってはいるがしかし、肥満体ではない、肩、足は筋肉質で角ばっている。
肌の色は薄く黄色みがかかった緑色。
ははぁ、亜人、それもオークさんでしたか。
彼は雷が轟いたように豪快に笑うと、親し気にオウガさんに語り掛けてきました。
「ぃよぉくきてくれた放浪者!メイビルはオウガを歓迎する!」
鼻息も荒くオウガさんの肩を抱くドボールさんは、つんと濃い果物のような香りがここまで漂ってくる、濃い赤茶色のエールを勧めます。
スノットさんは一度は断りましたが、さらに勧められます。
二度も断るのは流石にきまりが悪いと思ったのか、そのままぐいっと
「うむぅ!!このオウガと助手たちの手によって!!リバーミルを恐怖に陥れんとした怪物、恐ろしき夢の世界の住人、夢魔『アルプ』を討ち取った!」
「おお!魁傑オウガのうわさはここリバーミルまで轟いておるわ!!ささ、もう一献注がせてくれい!!」
「助手の方々も飲まれよ!!ご苦労であったぞ!!」
(ははあ、貴族のふるまいがわからんから、とりあえず豪快にふるまおうっていう感じかね?まあ飯をくれるなら頂こう)
(そうですね、気を悪くされるかもしれません)
捨て犬さんと私は、ひそひそと相談すると、意を決してダイニングホールの席につき、盛られていた果物と、使用人の方に注がれた果実酒を頂きます。
「――そして、ついに我々は墓場に葬られたアイリーンが呪いによってアルプに変じていると突き止めたのだ!!助手らの手によって墓を掘り起こすと、そこには恐ろしい怪物と変じた彼女が居たのだ!!」
「オウガとその供は、なんという豪傑たちか!!怪物を退治するためならば、まるで恐れを知らぬとみえる!!」
「オウガさん、あれ何杯目ですか……?」
「6かな?いい加減潰れるぞ。オークと酒で張り合うなバカ……」
「さすがは魁傑オウガよ、お主のようなものなら、モンスターハンターだけではなく、人探しなどもできるか?」
「くわんたんですよぉ!簡単!うんっ!このオウガの手にかかれば、ホワイトバックの山脈に隠れたとしても、逃げられると思わわんなんことですな!!」
「ありゃあダメだ、もう潰れる10秒前だな」
「そろそろ止めましょうか。日が傾いてしまいます」
シリウスさんはすっと立ち上がると、ずいぶんなアルコールを取ったはずなのに、微塵にもそれを感じさせない様子で真っ直ぐと歩き、ドボールに奇麗な礼をした。
「申し訳ありません閣下、そろそろお暇を頂きとうございます日も陰いりますれば」
「構わん構わん、そこな黒髪の男は人狼だろう?臭いを嗅げば解るわガハハ!」
っと、そう来ましたか。
「実はな、とてもちょうどいい時に来てくれた。お前たちを入れたのは他でもない、我が家の問題に関して、解決できるものを探していた」
「生意気にもオウガを名乗るが、この男は肩を見るに、とても剣をふるえそうにない。実際仕留めたのはみるからに
「シリウスです閣下。『捨て犬』の方が名が通りますが」
「はっ!あの盗賊騎士の『捨て犬』か!!これは良い!察するにそこの魔女が手助けしたか?」
「左様です閣下」
「白魔女のカマラです」私は帽子を深くかぶり、できるだけ声を枯らしたように喋る。まるで肺を病んだニワトリのような声でもって。
さて、私は二人の会話に口をはさむことにした。旅の身ではあるが、呪いや魔術的な問題ならまだしも、ただ家族の誰それが出ていったという家庭の問題にまで、白魔女はいちいち関与していられない。
いえ、普通なら助けるのです。ですが今回はドボールさんの不始末が引き金となったと聞いています。連れ戻して不幸になるのであれば、助ける必要性を感じません。
「閣下、我が家族の問題とおっしゃっていますが、魔術的な問題でなければどうすることもできません」
「であるならば、まさにお前たちは最適だ!わが長子は魔女にさらわれたのだ!!」
――? オウガさんの言っている事と話が違う。何が起きているのでしょうか。
「どうせリバーミルの小鳥どもは、オレが息子の嫁を種付けして逃げたといっておるのだろう?まあたしかヤったのだが、本当のところはそうではないのだ」
……何言ってるんでしょうかこの人。
シリウスさんがドボールさんの後ろで頭を抱えています。
「今オレのせがれのドーキンは、川を越えてメイビルの向こう、シリカ帝国側のどこかにいると聞いている。それも魔女がドーキンを
「連中はせがれを焚きつけて、俺の首を狙っている。シリカの兵隊を集めてな!」
「だから戦争が起こる前に、オレのとこにせがれを連れて帰ってこい!これは命令だ!報酬は、金と、メイビルにはいる通行証だ。ちなみにここからメイビルに入る通行証の発行権は俺が持っている。さあ、どうする?」
……正直無視したいところです。
しかしこれは思った以上に厄介なことが起きているようです。
どうしたものでしょうか?
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