・鉄壁のメロンパンを作ろう - 合体! パン生地×クッキー生地 -

 丸くよく捏ねたパン生地と、甘い匂いのする平たいクッキー生地が完成した。


「このパン考えた人、天才だよね……。二種類の生地を組み合わせて、それをメロンみたいにあしらえるなんて、パンの世界って深いね……」


 あたしが感動混じりにそう独り言をつぶやいて、自分で自分にうなずいた。


 だけど攻略本さんの存在を忘れてた……。

 一部始終を見ていた攻略本さんに、あたしは静かな声で笑われてしまった……。


「あ、えっと……。ぅぅ……」

『ずっと独り暮らしなのだろう。ならばそんなものだろう』


「そう言ってくれてありがと、攻略本さん……」

『恥じることはない。……まあ、外では少し気を付けた方がいいかもしれないが』


「と、当然だよっ! するわけないよっ!」

『ふふ……気を付けた方がいい』


 照れ隠しにあたしはクッキー生地を丸く切った。

 それにヘラで編み目模様を刻むと、丸いパン生地の上にかぶせていった。


 メロンパン。

 発想は斬新だけどとても手間がかかる。


 ただ捏ねて、成形して、窯に入れればいいだけの他のパンと違って、1つ1つ生地を組み合わせなければいけない。


 楽しいけどこれって大変だ。

 そう心の中でつぶやきながら、合計12個のメロンパンを完成させた。


 鉄壁の種は煎った物がもうパン生地の方に混ぜ込まれている。

 パン焼き窯の燃料室に炎の魔法を入れて、温まるのを待ってからメロンパンを窯に入れた。


 それからお母さんのレシピ帳をもう一度めくる。


 砂糖がたっぷり入っているので焼き時間は短く。

 そう書かれていた。


『上手く焼けるといいな』

「大丈夫だよっ、お母さんが遺してくれたレシピだもん!」


 バゲットは完成したから、後は食パンとロールパンだ。

 焼きすぎないように窯に気を使いながら、あたしは新しいパン生地を捏ね合わせていった。


「わぁぁ……っ、甘い匂いがしてきたぁぁ~っ!」

『素晴らしい。パンとクッキーの生地が混じり合うと、これほどかぐわしい香りになるのだな』


「楽しみ! これは超楽しみ! もっと早く作ればよかった!」

『君は……パン屋になるために生まれてきたような娘だな』


「へへ、そうかな……。ありがと、攻略本さん!」


 メロンパンへの期待に胸を膨らませながら、あたしは食パンの生地を捏ねた。

 ただのパン屋のあたしが強くなってもあんまり意味がないと思うけど、試食は絶対にしたい!


 それからまた少しすると、甘い匂いに香ばしさが混じってきた。


 焦げたら大変だ。

 甘い砂糖が苦い焦げ味になったら大惨事だ、悲劇だ。


 あたしはドキドキしながら、窯の中の様子を見てみた。


「あ、ちょうどよさそう! ふわぁぁぁ……いい匂い……っ!」


 ミトンを付けて、鉄のトレイをパン焼き窯から取り出した。

 焦げていない。バッチリのちょうどいいきつね色だった!


「あちちち……っ」

「それを食べるにはどう見ても早いだろう……」


「だって、美味しそうなんだもん……」

「それよりもパンの効能の方はどうなのだ?」


「あ、忘れてた……見てみるねっ!」


 意識して焼き立てのメロンパンを見つめてみる。

 そしたらあの時みたいに文字が浮かび上がってきた。


――――――――――――――――――――――――――――

【鉄壁のメロンパン】

 【特性】[濃厚][ふわふわ][もりもり][魔法の力][身体に良い][香ばしい]

     [身の守り1~100アップ][HP1~5アップ]

 【アイテムLV】3

 【品質LV】  3

 【解説】品質LVに応じて強い効果が出る。また効果には強い個人差がある。

――――――――――――――――――――――――――――


「み、身のまもり100アップだとっっ?!」

「え、それって、凄いの……?」


 あたしの方はそんなことより、なんで攻略本さんはあたしと同じものが見えるんだろうって、不思議に思った。

 元々は攻略本さんの力だったからだろうか。


「レベルアップ1回で上がる身の守りは、0~5程度だ」

「ふーん……あたしにはよくわかんないや」


 ところがふいに店舗の方から物音が聞こえた。

 まさか、ホリンが気にしてた、泥棒さん……?


 そこで気になってお店の様子を見に行ってみた。


 するとそれは――

 あのヨブ村長さんが窓際のイスに腰掛けた音だった。


「いらっしゃい、村長さん」

「お、おぉ……ムギちゃん、お邪魔、しているよ……ふぅ、ふぅ……っ」


「今日は特に困っていることとか、伝言はないかな。あ、待っててね、今お水くんでくるから!」


 小さな水瓶を抱えて、あたしは湖水を汲みに行った。

 それからお店に戻ると、村長さんの姿がイスの上にない。村長さんは、うちの厨房の中に入っていた。


 水瓶からコップに飲み水を移して、イスを抱えて村長さんの隣に寄った。


「ムギちゃんや……」

「へへ、匂いだけで気になるよねっ。これ、メロンパンっていうの!」


「おぉぉ……なんて、美味しそうな菓子じゃ……」

「はい、お水。外側はお菓子の生地で、中はパン生地なの」


 ヨブ村長さんはメロンパンを見つめながら、震える手でお水を飲んでくれた。


「よかったら1つ、試食してみる……?」

「おぉぉぉっ、いいのかい、ムギちゃ……っっ!?」


「う、うん……。えっと、これが冷めてきてるかな、どうぞっ!」


 村長さんが生き生きしていた!


 甘い物が好きなんだなぁ……。

 って思いながら、あたしも出来立てのメロンパンを取って、村長さんと一緒にほおばった。

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