・知恵のピザパンを作ろう - 完成、知恵のピザパン! -

「大変大変っ、なんか変なことになってるよっ!」


 布巾をどかすと、大事な知恵の種を混ぜ込んだ生地に異変が起きていた。

 美味しそうなクリーム色の生地に、沢山の『?』マークが浮かんでいた。


「これ、大丈夫かな……」

『わからない。誰もやらないことをしたのだから当然だろう。だがそうだな、知恵の種そのものに、害はないはず』


 なら平気、なのかな……?

 見ようによってはデザインが凝っているように見えなくもないし……。


『知恵の種のように真っ青に生地が染まるよりいいではないか』

「怖くて食べれないよーっ、そんなのーっ!」


 見た限り害はなさそうなので、あたしはパン焼き釜にピザパンの生地を入れた。


 続いてバター入りのパンの甘い匂いを期待しながら、ピザソースとか、トッピングの準備に入った。


 レシピはフクロウ亭のあのお姉さんに教わった!

 朝になると『ゆうべはお楽しみでしたね』と言われたけど、よくわからなかった!


「えーっと、ピザソースの材料がタマネギ、ニンニク、パセリ、タイム、セロリ……よしっ、ちょっと行ってくる! 火の番お願いねっ、攻略本さん!」

『無理を言うな!! お、おい、待てっ!?』


 ダッシュなら生地が焼き上がる前に間に合う!

 あたしは店を飛び出して、村の直売所に飛び込んだ。


「あら、コムギちゃん、いらっしゃ……あら~?」

「ごめんなさい、お金ここに置いていきますっ!」


「やーね、本当に忙しない子ねぇ~」


 店番のおばさんの前にお金を多めに置いて、あたしは直売所からうちの店に飛び戻った!

 バターの入ったパンの甘い匂いが、うちの店の煙突からモクモクと空に立ち上っていた。


「ふぅっふぅっふぅっ……ま、間に合ったぁぁ~……っ!」

『最初から食材を用意してからパンを焼けば、店と私が黒焦げになるリスクを避けられたのではないか?』


「……あ」

『あ、ではない。私はまだ火葬などされたくはない』


「ごめんなさい……。あたし、夢中になると他が見えなくなって……」


 パン焼き窯をのぞくと、丸く平たく大きく伸ばしたピザパンの生地が、パンらしいきつね色になりかけていた。


 いつも焼くパンより少し早いけどそれを取り出して、台の上でそれを冷ました。


「トマトって不思議だね。生でもこんなに美味しいのに、ソースにすると別の味になるんだもん」

「私は生よりも煮た方が好きだ。香りがするからな」


 トマトのヘタを取って、ピザソースにするために細かく刻んだ。

 それを鍋に移して、火にかけて、セロリとかパセリをさらに細かく刻んだ。


「とても美味そうだ……」

「うんうんっ、トマト以外はアッシュヒル産の材料を使うんだからっ、絶対に美味しくなるよっ!」


『清々しいほどの地元愛だな……』

「だってあたし、この村が大好きだもん」


『ホリンもいるからな』

「ホ、ホリンは別に関係ないよっ、あんなやつ!」


 最後はタマネギだ。

 うちの村のタマネギは強敵だ。


 あたしがそういう体質なだけだけど、いつも泣かされる。


『ホリンにも食べて欲しいのでは?』

「ま、まあね……。ホリンってちょっとバカだし、これを食べて賢くなってもらわないとっ!」


 砂糖とお塩を加えて鍋で煮込んだ。

 なんとなくお酢は最後にした。


「できたーっ!!」


 ピザソースが完成した!

 ちょっと作り過ぎちゃったけど、全然問題なし!

 トマトを腐らせるよりもずっといい!


 これがあれば好きなときに、好きなだけピザパンを作り放題だ!


『しかし、ピザパンというのは手間がかかるな……』

「そうだね。でもここまできたら後ちょっとだよ」


 冷めてきたピザパンの生地に、ピザソースをたっぷりと塗った。

 それからオリーブオイルを多めにたらして、ヤギのチーズを千切って乗せていった。


 さらにサラミとピーマンの輪切りをトッピングしたら、後はもう一度焼くだけだ。


『なぜ、ピザパンと言うのだろうか』

「え?」


『実質、これはほぼピザではないか?』

「あたしピザ食べたことないからわかんないよ」


 しばらくするとチーズと、サラミと、ピザソースが焼ける匂いが立ちこめてきた。

 お腹空いた、お腹空いた、お腹空いてきたって思った!


「いいよねっ、もういいよねっ、はい完成~っ!!」


――――――――――――――――――――――――

【知恵のピザパン】

 【特性】[濃厚][ふわふわ][もりもり][魔法の力][閃く]

     [賢さ5アップ]

 【アイテムLV】2

 【品質LV】  7

 【解説】魔法の素養のある者に閃きをもたらす

――――――――――――――――――――――――


『おぉぉ……。これは素晴らしいな……』


 パン焼き窯からピザパンを取り出すと、いい感じにチーズがとろけてた!

 サラミの脂が融けて、チーズとパン生地とピザソースの香りが混ざり合っていた!


 香ばしい良い匂い!

 お腹の空く脂の匂いもする!


 『?』マーク模様の生地は少し不思議だけど、絶対にこれは美味しいやつ!


「ゴクリ……」

『試食してみたらどうだ?』


「う、うん……。でもこれ、フィーちゃんへのお礼だから……あの子と一緒に食べる!」

『害はないだろう。そうするといい』


 丸いピザパンを、ブラッカの町で食べた形にカットした。

 凄い食べ応えのある大きさだ。

 それにチーズもいっぱい、栄養満点だ!


 あたしはトレイにピザパンを乗せて、それを台車に移すと、埃や土がかからないように布をかぶせた。


 さあ行こう。

 これを見習い魔法使いフィーちゃんに食べてもらおう。


 賢さ。

 それは魔法の才能だって、攻略本さんの解説にあった!


 あたしは村外れの魔女の塔を目指して、村のでこぼこ道を東に駆けていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る