☆知恵のピザパンを作ろう - 魔女の塔 -

 村を囲う頼りない木柵を横目に東門を抜けた。

 その先には深い森が広がっていて、少し危険だけど気持ちのいい林道が続いている。


 そこを進んでゆけば、フィーちゃんが暮らす魔女の塔だ。

 塔の軒先には仮面を付けた魔女のお婆さんがいて、魔法の釜で紫色のよくわからない物を煮ていた。


「こんにちは、魔女さん!」

「ヒェヒェヒェ、またソフィアの修行の邪魔をしにきたかい?」


「違うよ、今日はフィーちゃんにお礼をしにきたの!」

「そうかいそうかい。だけどねぇ、村の連中とつるんでばかりいるから、あの子はいまだにファイアとキュアとメガーテ自爆しか使え……。ん……なんだい、この匂いは……?」


「ピザパン! フィーちゃんのために作ったの! 栄養満点だよ!」

「これはまた、ヒッヒッヒッ……けったいなパンを作ったねぇ~……?」


 変なパンといえば変なパンだ。

 魔女のお婆ちゃんは気味の悪い笑い声をあげて、塔の上で魔法の修行していたフィーちゃんを下に呼んでくれた。


「は、はわっっ?! な、なんでしゅか、これはっ!?」

「あのね、これはね、ピザパンって言うんだよ!」


「美味しそうなのですっ! これを、ソフィーにくれるのですかーっ!?」

「もちろん! だってお礼だもんっ、一緒に食べようよっ!」


 するとフィーちゃんがうかがうように魔女さんを見た。


「ヒェヒェヒェ、何やら不思議な力を感じるが、まあいい……。少し早いが食事休憩にするといい」

「あ……ありがとうございましゅでしゅ、お師匠様ーっ!!」


「せっかくだし、あたしこの塔の頂上で食べてみたい!」

「ソフィーもそれに賛成なのですっ、行きましょうっ、早く行きましょ!」


 ピザパンを1枚ずつ持って、あたしたちは魔女の塔を上った。


 それにしても何度きても変な場所だ。

 変な物でいっぱいの塔を上って上って、7階の頂上までやってきた。


「それでは……いっただきまーすっっ!!」

「こ、これ……本当に食べて、いいですかー……っ!?」


「もひろんっ! くぅぅ~、おいひぃ~っ!!」

「お、おぉぉぉ……い、いただきましゅっ!」


 フィーちゃんと食べるピザパンは最高だった。

 ブラッカで食べた物よりずっと美味しくて、チーズがいっぱいで香ばしくて豪華だった!


 フィーちゃんは両手でピザパンを持って、少し不器用な手付きで夢中になって食べてくれている。


 言葉を失うくらい黙々と口を動かして、伸びたチーズに困りながらもまた食いついていた。


 完璧だ……。

 こんなに美味しいパンを作っちゃうなんて、あたしって凄い!


「おねえちゃん、しゅごいのです……っ! こんなに美味しいご飯、初めてなのですよーっ!」

「だよねっだよねっ、美味しいよねっ!」


「ごぞーろっぷに染み渡るのです! はぁぁ……こんなに美味しい物が、あったのでしゅね……」

「お礼だよ。お店の手伝いをしてくれてありがとう!」


 あの魔女のお婆さんが言うには、フィーちゃんにはとある問題がある。

 それは、良い子過ぎることだ。


 お使いに村へと出すと、必ず遅れて帰ってくる。


 あたしのパン屋の手伝いをしてくれたように、困っていたり苦労したりしている人を見ると、手伝わずにはいられない子だった。


 だからフィーちゃんの修行はいつだってスローペースだ。


「おねえちゃんをお手伝いして得しちゃったのです」

「それでどうどう? 賢くなったり、魔法の力が強くなったような感じする?」


「……はへ?」

「なんとなくでいいの。どうかな……?」


「……わからないでしゅ。食べただけで、魔法の力が強くなるですかー?」

「えっと、それは……そうなったらいいなぁって、願いながら作っただけだよ……っ」


 食べたら知恵の付く魔法のパンです。

 なんて言わない方がいいよね。


 本当にそんなパンだったら、みんなが欲しがっちゃうし。

 村の外の人が欲しがるようになったら、あたしと攻略本さんにとっては結構都合が悪い。


「おねえちゃんの気持ち、嬉しいです……! もっともっと、修行がんばるですよっ!」


 偉い! なんて良い子なんだろう!

 ……けど、知恵のピザパンは失敗作なのかな。

 何も変わったように見えない。


 あたしも同じ物を食べたけど、平凡な村娘のままだ。

 頭が冴える感じなんてちっともない。


 ちっとも頭がよくならないあたしたちは、ピザパンの最後のひとかけらを一緒に食べ切った。

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