・香ばしいふわふわの経験値のバターロール - 風車守ホリンの夢 -

「あ、ホリンだ」

「なんだよ、コムギか」


 帰り道、夕空に浮かぶ星を見上げながら空っぽの台車を引いていると、道の先にしゃがみ込んだホリンを見つけた。


「あれ、その右手、どうしたの?」

「ロランさんの稽古で、ちょっとな……」


「ちょっと、なんで隠すの?」

「バレたら明日から稽古付けてもらえなくなるだろ……っ、なぁ、このこと誰にも言うなよっ!?」


 また子供みたいなこと言ってる……。

 あたしはホリンの無事な方の左手を引っ張って、自分の家の方に進み出した。


「本当にホリンはしょうがないなー。うちで見てあげるから寄っていきなよ」

「……いいのか?」


「ほっとけるわけないでしょ」

「悪ぃ、すまねぇ……」


「ロランさんも怪我とか隠されたら困ると思うよ?」

「けどよ……。そのロランさんも、いつまでこの村にいてくれるかわからねぇだろ……」


 あたしは足を止めて後ろのホリンに振り返った。


「ホリン、そんなこと考えてたの……?」

「悪ぃかよっ!? 実際、超強いロランさんが村からいなくなったら、困るだろ……っ?」


 だったら最初からそう言えばいいのに……。

 ホリンは別に仕事から逃げるために、剣の稽古をロランさんにねだっているわけじゃなかった。


 風車の仕事をサボってるのは事実だけど、ホリンなりに考えていた。

 そう理解できるようになったのは、あの破滅の未来を見せられたからだと思う……。


「ホリン。ホリンはもっと強くなりたい……?」

「当たり前だろ。こんな時代なんだから、俺が強くならねぇと……」


 そっか。

 ホリンはみんなを守ろうとしてくれていたんだ。


「じゃあ、これ相談なんだけどさ……。食べたら強くなれるパンがあるって言ったら、ホリンは信じる……?」


 あたしは怪我をしたホリンを家に連れ帰った。

 それから今夜の晩ご飯のために残しておいたあの【経験のバターロール】を、しょうがないしホリンに食べさせてあげた。


「う……美味っっ?! なんだこれっ、お前のパンじゃないみたいだぞっ?!」

「もーっ、ホリンって普通に失礼だよっ! それ、今夜のお楽しみだったんだからねっ!」


「じゃあ、半分返す……」

「え……?!」


 バターロールを突き返されると、あたしは困った。かなり困った。

 だってここで恥じらったら、なんかホリンのことを意識してるみたいだしっ、あたしはそれをごまかすために――


 意を決してバターロールを口に押し込んだ。


「変なやつ」

「ア、アンタがお子様なの……っっ!」


 あたしがパンを飲み込むと、ホリンからファンファーレが響いた。

 やった! ホリンが強くなった!

 確認に勇者の力を使って、ホリンを観察してみた。


―――――――――――――――――――

【村人ホリン】

 【LV】6→7

 【解説】性格はともかく顔だけはいい

―――――――――――――――――――


「ブッッ……?!」

「な、なんだよっ、なんで急に吹き出すんだよっ!?」


「だ、だって……」


 あたしが思っていたこと、そのまんまなんだもん……。

 欠点は多いけど、ホリンは顔だけはいい……。


 そんなホリンをあたしはしばらく見つめて考えた。


 ホリンは村を守りたくてロランさんに剣を教わっている。

 あたしは破滅の未来がくることを知っていて、それを変えたい。


 だったらあたしとホリンの目的は同じだ。


「あのね、ホリン。信じてもらえないかもしれないけど、実はあたしね……」


 あたしは食べると強くなれるパンを作れることをホリンに教えて、強くなりたいなら仕事を手伝ってとお願いをした。


 さすがにこれをすぐに信じる人がいるわけがなかった。

 ホリンは笑った。


「そんなパン、本当にあったら最高だな」

「そうだね。でも、もしかすると本当かもよ……?」


 けどいつかは信じる。

 信じさせてみせる。


 あたしのパンを約束通り食べ続ければ、ホリンのレベルがめきめきと上がってゆくのだから。

 いつかは認めるしかない。あたしを!


「信じる気になったら声をかけて! 強くなれるパン作り、ホリンに手伝わせてあげるっ!」

「お前……パンは超美味くなったけど、なんか悪いもんでも食ったんじゃねぇか……?」


「もーっっ!! 女の子が拾い食いなんてするわけないでしょっ!!」


 ホント、ホリンは失礼なやつだった!!

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