・石の町ブラッカで隠しアイテムを探そう - 知恵の実 -

 ホリンを引っ張ってフクロウ亭を出ようとすると、さっきの宿娘のお姉さんに『元気だね!』と明るい笑顔で褒められた。


 不思議に思って『なんで?』と問い返すと、今度は『若いっていいね!』って言われた。


 よくわからなかった。

 でもワクワクするようなことも教えてくれた。


 バザーの方に行けば、お菓子や粉物、お肉を扱う屋台が出ているそうだ!

 話を聞いただけでお腹が鳴ってきて、絶対に行かなきゃとホリンと一緒に決めて宿を出た!


「んーー……この町、面白いけどなんだかちょっと息苦しいね」

「そうか? 俺は好きだぜ、なんにもないアッシュヒルより楽しいしなー!」


「えーーっ、うちの村の方がいいに決まってるよっ!! ここってどこもかしこも壁ばかりで窮屈じゃないっ!」

「おい、自分は田舎者だって大声で叫ぶのは止めろよ……。恥ずかしいだろ……」


「ううん、全然! 田舎者で何が悪いのよっ!」


 あたしがそう声を上げると、ホリンが焦ったように辺りを見回した。

 それがあたしはちょっと気に入らなかった。


 ここは建物が陰になった路地裏だ。

 頭上を見上げれば無数のロープが建物から建物へと張られていて、そこには色とりどりの洗濯物が吊されている。


 あの家には子供がいるんだなとか。

 あそこの家の人は鍛冶屋さんなのかなとか。


 人の生活が頭上いっぱいに広がっていて、それをぼんやり見ていると想像が広がっていって面白い。


 ホリンとそのことを話そうと思って隣を見た。

 するとホリンも同じだった。


 ホリンもあたしと同じように路地裏の空を見上げながら歩いていた。


「家賃いくらかな~とか、そんなこと考えてるんでしょ……」

「そりゃ憧れるよ、ここで暮らしてみたい」


 ホリンのその言葉を聞いたら、楽しかったはずなのに気持ちが急に冷めた。


「あっ、そう……」


 いつかホリンが村を出て行っちゃうんじゃないかと思うと、嫌な気持ちで胸がいっぱいになった。


「でも、俺が村を出るわけにはいかないだろ。俺がロランさんの代わりに、村を守れるようにならないと……」


 けどその不安はあたしの思い過ごしだった!

 みんなを守ろうとしてくれるホリンの姿を見ていると、知らず知らずのうちに笑顔があふれてきた!


 なーんだ……。

 ただ都会に憧れているだけで、ホリンはアッシュヒルを出ていくつもりはないんだ……。


 なんだ、よかった……。


「なんだよ、急に笑い出して……」

「そっかそっかっ、そうだよねっ! ホリンがそういうやつなの、あたし忘れてたよっ!」


「急に機嫌良くなりやがって、なんなんだよ……」


 ホリンが村にずっと居てくれる。

 そう知ったら途端に、ブラッカの町がもっと輝いて見えるようになった。


「あっ、あそこに赤い箱があるっ!」

「俺には見えねぇな……。ってことはっ! お前の言う隠しアイテムってことだよなっ!」


 あたしが箱に駆けてゆくと、ホリンの足音が背中を追ってきた。

 人の目はないとホリンが親指を立てて教えてくれて、あたしはそれに笑い返して箱を開けた!


 箱の中に入っていたのは、卵に似た形をした水色の種だった。

 村の鶏の卵よりも少し小さくて、見ると『?』マークに似た模様があった。


――――――――――――――――――――

【知恵の種】

 【特性】[賢さ1~3アップ][閃く]

 【LV】0

――――――――――――――――――――


 やっぱりこれが【知恵の種】だった。


「それ、なんか不味そうだな……」

「そう?」


「だって水色だぜ……? そんな色の食い物なんてないだろ……」

「好き嫌い言っちゃダメだよ。ホリンはバカなんだから、これを使ったパンを食べてくれないとあたし困る」


「ナチュラルに人のことをバカとか言うなってのっっ?!」

「あ、ごめん……ちょっと本音出てた……」


「そこは『本音』じゃなくて、『冗談』って言えよっ?!」


 これを使ってパンを作るのが楽しみだ。

 どんなパンを作ろうかなと楽しい気持ちを膨らませながら、種を荷物袋にしまった。


 あ、ちなみに鎖鎌も棍棒も宿に置いてきた。

 だって邪魔だし、かわいくないし……。


「なんかお腹空いたね、ホリン……」

「……おう、文句はあるけど俺もそう思う」


「次の隠しアイテム取ったら、宿のお姉さんが教えてくれたバザーに行ってみよっかっ!」

「そうしようぜっ、都会の食い物って美味いんだろうなぁっ!」


「ホリンにはあたしが奢ってあげるね」

「い、いいのか……?」


「うんっ、だって一緒に同じの食べたいし!」


 あたしは嬉しそうにするホリンと一緒にバザーへとまた歩き出した。

 田舎者の想像力で、どんな物があるのかお喋りしながら期待を膨らませた。

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