☆石の町ブラッカで隠しアイテムを探そう - ダブル -

「先にロランさんが紹介してくれた宿に行こうぜ」

「うんっ、えーっとね、それなら攻略本にも載ってたからあたしが案内するねっ」


「おい、その本もあんまり街角で開くなって……っ」

「え、ダメ……?」


「ダメに決まってるだろ……っっ」


 本当にそうかなって思ったけど、反論する前にホリンに手を引かれた。

 薄暗い路地裏まで引っ張り込まれると、やっとホリンはあたしの手を離してくれた。


「悪い、痛かったか?」

「ううん。でもちょっとここ暗いよ?」


「疑われるよかいいだろが……っ」

「そうかなぁ?」


 とにかくここならいいそうなので、攻略本を開いてブラッカの地図を確かめた。

 ここから宿屋への道中に、アイテムを2つ回収できそうだってわかった。


「人がいなくなったときに、こっそりだぞ? 人に見られたら面倒だから止めろよ……?」

「あ、それはわかるよ。突然何もないところから、鎖鎌とか出てきたら、みんなビックリしちゃうもんねっ!」


「ビックリだけじゃ済まないかもしれないぜ……」


 ホリンと一緒に町を歩いた。

 大通りじゃなくて、裏通りの方をゆっくりと。

 あれ……でもここ、変なところだなぁ……。


「おう、そこの田舎者臭いにーちゃん、いい宿紹介するぜ? 彼女としっぽり――」

「コムギッ、行くぞっ!」

「……えっ?」


 なんでかわかんないけど、ホリンに手を引っ張られた。


 お酒の匂いがしたり、薄着のお姉さんや、強面のお兄さんたちがいたけれど、今のところはなんだったんだろう……。


「ねぇ、ホリン? さっきのとこ――」

「お前は知らなくていい!」


「えーっ!? なんでーっ!?」

「知らない方がいいこともあるんだよ……っ。お前は知っちゃダメだ!」


「よくわかんないけど、ま、いっか。あ、そこの赤い箱に隠しアイテムが入ってるみたい」

「箱……? 箱なんてどこにある? 全然見えねーぞ」


 箱はあたしにだけ見えるみたいだった。

 ホリンが辺りを警戒し始めて、周囲に人気はないと確かめると、こちらにうなずいた。


 もう開いていいそうなので、あたしは赤い箱を元気に開けてみた。


「それが【魔法の水】か……?」

「うん、そうみたい。それにしてもこのガラス瓶きれーっ! 使い終わったらうちの家で使おうっとっ!」


「それ、どういう物なんだ?」

「魔法の力が回復するんだって!」


 説明すると、ホリンはあからさまに興味を失った。

 ホリンだってハーフエルフなんだから、訓練すれば魔法だって上手くなれるのに。


「次のはなんなんだ?」

「鎖鎌!」


「確かそれ、ここの武器屋で700Gで売ってるやつだ」

「さすがホリン、詳しいね」


「ならいっそ、売っちゃえばいいんじゃないか?」

「……ううん、村に持って帰る。アッシュヒルにはもっと武器が必要でしょ?」


「ま、それは重さによるな。鉄の鎧と青銅の盾のことを考えると、重量オーバーかもしれないぜ」

「あ、そっか……」


 困った。

 持って帰ればアッシュヒルのみんなを守る大きな力になるのに、攻略本の町々を巡るには、距離と重さの壁が立ちはだかっていた。


「瞬間移動とかできればいいのに」

「できるわけねーだろ……」


「だよねー……。あたしたち、勇者様じゃなくてただの村人だもんね……」


 あたしたちは道中、鎖鎌を赤い箱から回収してから、宿屋フクロウ亭を訪ねた。



 ・



「いらっしゃーいましーっ! あらかわいいお客様、物騒な物持ってますね~!」


 宿娘のお姉さんは挿し絵よりもかわいかった。

 あたしが装備する鎖鎌に驚いて、でもそんなの慣れっこなのか明るく笑っていた。


 まさかただのパン屋が鎖鎌を装備できちゃうなんて、あたしもビックリだった……。


「お姉さん、騎士のロランさんを知ってるか?」

「ロラン様っ!? もちろん知っていますよっ、今ロラン様はどちらにっ!?」


「うちの村にいるけど……。それより、シングルってやつを2つ」


 ホリンがそう言うと、酒場のお姉さんはあたしの方をチラッと見た。

 目と目が合うと笑ってくれた。


「ねぇ、そっちの鎖鎌を持ってるエルフの子、君の彼女?」


 え……。

 あたしが、ホリンの、彼女……?

 そう見えるの……!?


「え、あっ……ち、違いますっっ! ホリンとはあたしっ、ただの友達だから……っ!」

「そう……? そうは見えないけど」


 否定したのにお姉さんはまだ疑っている。

 おかしそうにあたしたちにまた微笑んだ。


「姉ちゃん、目んたま腐ってんじゃねーのか?」

「ホリン……その言い方は失礼だよ」

「ふーん……だったら不用心だから、同じ部屋にしておくね」


「……はっ?」

「2人で4G、食事は別途注文。はい、決まりっ!」


 宿娘のお姉さんが部屋の鍵をあたしに突き付けて、まだ誤解しているのか明るいウィンクを飛ばしてきた。


 あたしは隣のホリンの様子を見てから、鍵を受け取り、料金の4Gを払うことにした。


「お、お前っ、自分のやってることわかってるのかっ?!」

「同じ部屋で寝ること? だってこっちの方が安いし、1人で寝るより安心じゃない。ただ同じ部屋で、一晩だけ一緒に寝るだけだよ」


「それっ、一大事じゃねぇのかっっ?!」

「いいからいいからっ!」


 あたしはホリンの手を引いて、宿の階段を駆け上がった。

 慌てた様子で足をからませるホリンが、ちょっとだけ面白かった!


「危ねぇじゃねぇかよ……っっ」

「だって、あそこで騒いだら目立つでしょ」


 キーを差し込んで部屋の鍵を開けて、あたしは飛び込むように中へと駆け込んだ。


 いや、駆け込んだの、だけど……。

 ちょっと、予定外なことがあって、すぐに立ち尽くすことになっていた……。


 石造りの部屋は凄くいい感じでワクワクだったのに、ベッドが……ベッドが、1つしか、なかった……。


「ホリン……」

「お、おおっおうっ?!」


「床で寝て?」

「なんでだよっ! これって突っ走ったお前の責任だろっ!?」


「じゃぁ……い、一緒に、寝るつもりなの……?」


 ホリンは『あ』とか『う』とか言うばかりで、まともに返事を返してくれなかった。


 下に言って交渉をし直すのは簡単だ。

 でも、それってなんだか、寂しい……。


 夜、1人部屋で1人で寝るのは、よく考えたら凄く心細い……。


「ま、いっか!」

「い、いいっ、いいのかよっ?!」


「知らない町で、1人で寝るのは寂しいもん。だから……ホリンが床で寝て?」

「なんでそうなる……。ベッドの間に、なんか仕切りとか作ろうぜ……」


「あ、それいいかも……」


 そんなわけで、こうして今晩の宿が決まった。

 夜、あたしたちがどうなってしまうかまだわからないけれど、それは先のことだから、今は忘れることにした。


「さっ、宝探しを再開しよっ! 夜のことは、夜になればわかるよっ!」

「どこまで前向きなんだ、お前……」


 仕切りを隔てて同じベッドで眠る。

 それはそれで、なんかギリギリでありかもしれない。そう思った。

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