・石の町ブラッカで隠しアイテムを探そう - ◎鉄の鎧 -

 橋が見えるとロランさんとそこで別れた。


 やっぱり一緒についてきて。

 そうお願いしたくなる気持ちにもかられた。


 けれどここから先は、ホリンと2人だけで行くべきだと思った。

 そうしなければ、あたしたちはいつまでも未熟者で、田舎者のままだ。


「いこっか!」

「なぁコムギ……。やっぱり、ロランさんと一緒がよかったのかな……」


「ううん、ここからは2人だけでいこ!」


 一応、攻略本さんもいるから本当は3人なんだけどね。


「わかった……。けどいいか、俺から離れるなよ……?」

「なら、昔みたいに手とか繋ぐ?」


「ガキっぽいからそれはイヤだ」

「え、そうかなぁ……? ま、いいや、じゃ、いこっか!」


 うん、って言ってくれたら繋いであげたのにな……。

 あたしが大股で歩き出すと、ホリンが隣に駆けてきた。


「それで、ブラッカの町には何があるんだっ!?」

「隠しアイテムのこと?」


「おうっ!」

「ふっふ~ん、知りたい?」


「知りたいに決まってるだろ!」

「えーっとね、知恵の実と、体力の種!」


「おおっ、体力かぁっ! 知恵は別にいらねーけど体力は欲しいなっ!」

「えぇ……? ホリンにはもう少し、知恵も必要だと思うけど……」


 技師をやってるくらいだから元の頭はいいけど、ホリンにはもう少し思慮深さが欲しい。


 他に拾えるのはなんだったかなと思って、あたしはバックの中の攻略本さんを開いた。


――――――――――――

 A.魔法の水

 B.知恵の実

 C.鎖鎌

 D.鉄の鎧

 E.580G

 F.体力の種

 G.小さ過ぎるメダル

 H.青銅の盾

――――――――――――


 それから攻略本が見えないホリンに、口答でA~Hの全てを教えてあげた。


「て、鉄の鎧……!?」

「あ、また感動してる……?」


「あ、あったり前だろっ!! それっ、ブラッカの店で買ったら1800Gするやつだぞっ!!」

「だから、なんでそんなに正確に覚えてるの?」


「欲しかったからに決まってるだろっ!! 鉄の鎧っ、鉄の鎧かぁっ!!」


 ホリンったら、また自分が貰えると思ってる。

 あたしが他の人にあげるとは疑ってすらいない。


「どうしよっかな。今回はロランさんにもお世話になったし、ロランさんにあげちゃおうかなー?」

「ロランさんなら、もっともっと良い鎧持ってるぞ」


「え、そうなの?」

「ロランさん、俺にだけ見せてくれたんだっ! あれは、魔法の鎧だったっ!」


「えっと、魔法の鎧、魔法の鎧……。ろ、6800Gっっ!?」


 ロランさんって、何者なの……?

 村にきて以来、働いているところを一度も見たことがない。


 昼間から気ままにブラブラしていて、だからこそホリンの訓練に付き合えるのはそうなんだけど……。


 どれだけお金持ちなら、あんな優雅な生活ができるんだろう……。


「すっげーだろっ!」

「ホリンはロランさんの金魚の糞だね」


「へへへ……褒めるなよ」

「いや、全然褒めてないから……」


 ホリンとお喋りしながら街道を歩いた。

 するとその道中、何度かあのスライムやモグラ、その色違いと遭遇した。


 でもそんなの、あたしとホリンの相手じゃなかった。

 戦いは一方的な勝利で終わった。


「うーん……」

「どうした?」


「鎖鎌って、あたしにも装備できるかな……?」

「無理だろ」


「だよね……。ただのパン屋さんが、そんなの持てるわけないもんね……」

「俺は雷神の剣を装備できたけどな、へへへっ!」


 ホリンは愛剣を子供みたいに掲げてあたしに自慢した。


 その幸せいっぱいの笑顔を見ていると、鉄の鎧も、希望するなら青銅の盾も、ホリンに全部あげちゃおうって気持ちになれた。



 ・



 ブラッカの町は石だった。

 ホリンの背よりも高い石の防壁が町を取り囲んでいて、石の見張り台の上には弓を持った兵隊さんが立っていた。


 それだけでも驚きだったのに、中に入ってみるともっと驚いた。

 本当に攻略本の地図の通り、その町の建物はほぼ全てが石で作られていた。


「おい……おい、コムギ。見られてるぞ」

「……へ?」


「田舎者だと思われるから、口開けっ放してあちこち見渡すのは止めろ」

「でも実際田舎者じゃない」


「ただでさえ俺たちは目立つんだから、おとなしくしてろ」

「目立つ? 何が?」


「外の世界では、エルフと人間は別々に暮らしているんだって、散々教わっただろ……っ」


 言われてみれば、さっきの兵隊さんも、今の町の人々も、あたしたちのことを見ている。


 ハーフエルフであるホリンは目立たないけど、言われてみればブラッカの町では、あたしは少し個性的な外見だった。

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