・石の町ブラッカで隠しアイテムを探そう - ピザパンとの邂逅 -

「あ、そこを下りて中に入ったところかな。よし、行こっかっ!」

「お、おい……。お前、あそこがなんなのかわかって言ってんのか……?」


「全然?」

「ありゃ下水道の入り口だっての……っっ!」


「へーー。……ねぇホリン、『げすいどう』って、何?」

「汚い水が流れる川だよ……」


「なんで? なんで汚い物をわざわざ流すの?」

「わざわざそんなもん流すわけねーだろっ!」


「ふーん、都会って変なの……。わっ、ホントに臭い……っっ!」


 下水道の扉はもう半開きになっていた。

 あたしは迷うホリンを置いて中に入っていって、暗いから明かりの魔法で辺りを照らした。


「都会って……やっぱり、あんまりいいところじゃないのかも……」


 そこにもあの赤い箱があった。

 その箱だけ場違いに清潔で、ようやくやってきたホリンの前で箱を開けてみせた。


 中には紐で結わえられた金貨の束が6本入っていた。

 どれも10G金貨だった。10枚の束が5本、8枚の束が1本あった!


「マ、マジか……」

「わぁぁ~、本当に580Gもあるよ、ホリンッ!!」


「お、おいっ、そういうこと大声で言うなよっ?!」

「……あ、そっか。なんか人が聞いたら嫌味ったらしいもんね」


「そういう問題でもねぇ! 悪人にもっと気を付けろって、そう言ってるんだよっ!」

「えっと……たくさんのお金持ってるのが知れたら、困るってこと?」


「はぁぁぁ……っっ。お前、次も村の外に出るときはちゃんと俺に相談しろよ……。じゃないと、こっちの気がもたないからよ……っ」


 小さいとはいえ金貨58枚はさすがにちょっと重いから、ホリンに全部持ってもらった。

 ホリンは『俺が持ってていいのか?』と聞いてきたけど、意味がよくわからなかった。


 こうしてあたしたちは臭い下水道を出て、ちょうどすぐそこにあった広場に入った。


 そこがバザー街だった。

 見渡す限りの露店と人々が、広場にギュウギュウ詰めになって集まっていた。


「ゎ…………」

「どうした、いこうぜ?」


「で、でも……なんか、怖い……」

「怖い? 何が怖いんだ?」


 これ、人と人の距離が近すぎると思う……。

 なんで、もっと道を広くしないの……?


 知らない人がひっきりなしに自分の肩の隣を行き交うなんて、なんか恐ろしい気がする……。


「あ、あたし、ここで見てる……っ、ホリンだけ行ってきて……っ!」

「独りになんてさせられるかよ、ほら行くぞっ」


「ちょっ、何勝手に人の手触って……っ」

「お前がいつもやってることだっての……っ!」


 あたしはホリンに引っ張られて歩いた。

 一列になって、ホリンの背中を見ながら人の海の中を歩いた。


 人々が次々とあたしに目を向けたり、振り返ったりした。

 エルフ族って、村の外では本当に珍しいんだ……。


 ホリンはあたしと手を繋いだまま、興味を持った屋台に寄っては買い物をしていった。


「ほら、かわいいエルフの彼女におまけだ。じゃあな、お嬢ちゃん」

「あ、ありがと、おじさん……」


「くぅぅ~っ、うちの娘もこういう、素朴でおとなしい子だったらなぁ~……っ!」


 持ち帰りできる物を3点買うと、あたしたちはバザー街の人混みを離れた。


 広場の外れには開けたスペースが作られていて、あたしたちはそこにあるベンチに並んで腰掛けた。


「誤解しまくってたな、あのおっさん。お前のこと、素朴でおとなしいだってよ」

「ごめん……なんか、慣れなくて……」


 あたしは深くため息を吐いて、新鮮な空気を胸いっぱいに吸った。


「それより早く昼飯にしようぜっ!」

「う、うん……わっ、何これっ!?」


「お前、話聞いてなかったのか? これが牛串、こっちがジャガバター、で、これがピザパンだってさ」


 もちろんあたしはピザパンを真っ先に手に取った。

 三角形に切られたパンの上に、チーズが乗っている……。


 それとピーマンと、薄切りのサラミソーセージ、オリーブオイルの匂いもした。


「見てないで食えよ」

「ねぇホリン、この赤いの何……?」


「トマトだってよ。うちの村じゃ育ててないし、なんか珍しいよな~」

「へーー……。あっ、これ美味しいっっ!!」


 食べてみたら最高だった。

 トマトの酸味とチーズ、それとオリーブオイルが組み合わさると、こんなに美味しいんだって感動した。


「もぐもぐ……。むむ、もぐもぐもぐ……。んむむむ……」

「おい、目立つから静かに食えよ……」


 でもパンの部分が味気ない。

 なんだかボソボソしていて、パンの美味しさが足りていない。


 あたしならもっと美味く作れるのに。

 せっかく具がやわらかいのに、パンが硬い……。


「ねぇ、ホリン……?」

「お~、本当にこれ美味いな……!」


「帰りにさ、このトマト買っていってもいいっ!? このピザパンってやつ、あたしも作ってみたい!」

「もちろんいいと思うぜ。お前が作ったら、もっともっと美味いに決まってるしな!」


「へへへっ、じゃあ決まりだね! そうだっ、知恵の種も入れちゃおう!」

「い、いや……あれは色がちょっと……。俺はどうかと思うぜ……」


 ピザパンを食べ終わると、牛串とジャガバターでさらに元気を付けた。

 牛串は甘いタレがかかっていて、ジャガバターはなんか普通だった。


 美味しいけど、アッシュヒルのバターを使った物の方がずっといいと思う。


「よく食うよな、お前……」

「こんなに買ってきておいて、ホリンこそよく言うよっ」


「みんなお前を見ておまけしてくれたんだよ」

「そうなの……? へへへ、都会の人って、良い人もいっぱいいるんだねっ!」


「いやどっちかって言うと……。お前がその……超、かわいいからじゃないかな……」

「え、何? なんで急に声ちっちゃくするの?」


「た、大したことじゃねーよ……っ!」


 お腹いっぱいだ!

 ホリンとも楽しくお喋りできて、なんだか元気が超出てきた!


 次からは多分、手を引っ張ってくれなくても、あの人混みに入れると思う……。


 あたしたちは立ち上がってブラッカの町をまた巡った。

 今日中に隠しアイテム全部を回収しよう。


 都会は楽しいけれど、明日にはアッシュヒルに帰りたかった。

 トマトと一緒に帰って、あたしのパン屋でピザパンを作ってみたかった!

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