・石の町ブラッカで隠しアイテムを探そう - ワンコと鉄の鎧 -
【体力の種】はムキムキだった。
それはあたしの拳くらいもある大きな種で、触れるとまるで筋肉みたいな弾力があって、ちょっと気持ち悪かった……。
「それのパンができたら俺にもくれよなっ! いつか俺、爺ちゃんみたいなスーパーマッチョになるんだっ!」
ホリンにあげるのは1個だけにしよう。
細マッチョなら大歓迎だけど、今のヨブ村長みたいなスーパーマッチョは絶対に嫌だった……。
・
その次に手に入れた【小さ過ぎるメダル】は本当に小さ過ぎた。
「それ、なんだ……?」
「よくわかんないけど……。このメダルをね、凄い宝物と交換してくれる王様が世界のどこかにいるんだって」
「あっ、すげっ?! よく見たらこれ、すっげー細かく作り込まれてるな……っ! でも、どうやってこんなの作ったんだ……?」
わかるわけない。
一応貴重品らしいので、あたしは自分のお財布の中に【小さ過ぎるメダル】を入れた。
小麦の粒みたいに小さかったけど、金ピカに光っていてとても綺麗だった。
・
【青銅の盾】は、小さな聖堂の裏に隠されていた。
その草むらにあたしがやってくると、盾は光となって現れて、ずっしりとしたその重さであたしを地に転ばした。
「だ、大丈夫かっ!?」
「う、うん……。ありがと、ホリン」
「そっちじゃなくて盾の方だよっ! 痛っ?!」
転んだまま、ホリンの足首を蹴ってやった。
ホリンは悪びれずに笑って、転んだあたしなんかより青銅の盾に夢中だった。
「お、重……っ、重いぞこれ……っっ?!」
「残念、ホリンには装備できないみたいだね」
「なんでだよっ、鱗の盾と雷神の剣は装備できたのに……っ」
「装備できない物はしょうがないじゃない」
あたしたちは2人で青銅の盾を宿に運んだ。
それはとても大きな青い盾で、むしろ青銅の大盾と呼んだ方がよかった。
・
最後の隠しアイテム【鉄の鎧】は、ブラッカの東門を抜けた先の共同墓地にあった。
その頃にはもう太陽が西の空に消えてしまいそうな頃だった。
燃えるように赤い西日が、あたしたちをまぶしく照らしていた。
あたしが墓地の外れにある名も無き墓の前に立つと、現れた光が鎧の形に変わって、それが【鉄の鎧】に変化していた。
それは重鎧ではなくて、急所だけを守る軽鎧だった。
これならホリンみたいな痩せ形の戦士でも、一見は装備できそうに見えた。
「コムギッ!」
「え、何……?」
「お前……えっと、お前っ、今日なんだか……超綺麗じゃないかっ!?」
「はい……?」
それがお世辞だって理解するのに、だいぶかかった。
今のホリンは餌を前にした腹ぺこのワンコだ。
物欲しそうにあたしの足下の鉄の鎧をチラ見しては、期待を込めた目で2つ年下の幼なじみを見ていた。
ホリンがお世辞を言うなんて、明日は雨になるかもしれない。
「それにパンも美味いしっ、大変なのに毎日がんばってて偉いなっ!」
「ありがと」
「お、俺も……。俺もそこにある、鉄の鎧みたいな、強い防具があれば……。お前みたいに活躍できるかもしれないな……?」
ホリンはよっぽどその鉄の鎧が気になっているみたいだ。
そこまで言うとおべっかの言葉すら忘れてしまって、彼は鉄の鎧に目を輝かせたまま我を忘れてしまっていた。
そんなに欲しいなら、欲しいって言えばいいのに……。
あたしは様子を見るように、ホリンのそんな姿をしばらく見つめ続けた。
「気に入った?」
「おう……」
子供の頃のホリンを思い出すくらい素直な声だった。
「欲しい?」
「欲しい……」
「うーん、どうしよっかな……」
「コムギッ、頼む、この鎧を俺にくれっ!! 俺たちの村を守るには、この鎧が必要なんだっ!!」
ホリンはあたしの足下にひざまずいた。
真剣な顔であたしを見上げて、彼なりの熱い意志を伝えてくれた。
そんなホリンにあたしはいつもの明るい笑顔を送った。
そうするとホリンも期待に笑ってくれて――あたしはふと思った。
ホリンって、やっぱりワンコっぽい……。
「あげるっ!」
「本当かよっ?! こ、これっ、1800Gもするんだぞっ!? 売れば、パン屋の建て替えだってできちゃうんだぞっ!?」
「あ、そう言われるとちょっと……ううん、かなり心が揺らぐよ……」
「な、何っ?!」
「でもあげるっ! この鎧で、村のみんなを守ってね、ホリン!」
「もちろんだっ、俺がお前を守るっ! 俺がアッシュヒルとお前を守るよっ!!」
そう叫ぶホリンがあたしには輝いて見えた。
もしかしたらもしかしてだけど、ホリンが勇者なのかもしれない……。
そう思ってしまうくらいに、彼の姿が気高く見えた。
でも……。
そんなホリンが勇者という名の復讐鬼に変わる未来なんて、絶対に見たくないとも思った。
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