☆石の町ブラッカで隠しアイテムを探そう - おかえりなさい -

「装備していいかっ!?」


 えっと……本人には口が裂けても言えないけれど……。

 こうやっていちいち許可を求めてくるところが、ますますワンコっぽい……。


「もうそれ、ホリンのだよ。早く装備して見せてよ」

「おうっ、ありがとうコムギッ! 俺っ、一生この鎧大事にするよっ!!」


 あたしはこの少し後、鈍色に輝くホリンの勇姿を見た。

 鎧を着たホリンは今にも沈みそうな赤い夕日に照らされていて、なんだか凄く強くてカッコイイ戦士に見えた!


 雷神の剣、鱗の盾、鉄の鎧。

 これだけあればホリンは大丈夫だ。


 もし……未来を変えられなくても、今のホリンならきっと生き延びることができる。

 あたしたちは夕日を背にして、あの明るい宿娘さんがいるフクロウ亭へと引き返していった。



 ・



 それから――


「やっぱ、俺、床で寝るよ……っ。鎧も貰えたし、一晩くらいなら……っ」

「ううん、身体壊されたら、明日一緒に帰れなくなっちゃうよ?」


「で、でもよ……俺たち一応、年頃だろ……?」

「へーきへーき! ちょうどいい仕切りも手に入ったし、ちいちゃい頃みたいに一緒に寝よっ!」


「ちょうどいい、仕切り……? そんなのあったっけ……?」

「あるよー、忘れたの?」


 その晩、あたしとホリンは天井から青銅の盾・・・・を吊して一緒に寝た。


 だいぶ金属臭かったけど、隣を振り返ると天井を見つめるホリンの横顔が見えて、なんだかあたしまで寝付けなかった。



 ・



 都会は楽しかった。

 思い出もいっぱいできた。

 ホリンと一緒に食べたあのピザパン、本当に美味しかった。


 でも、やっぱりあたしはアッシュヒルが好きだ。

 風車と小麦畑、山羊と羊が飼われた広い牧場を見ると、なんだか凄くホッした。


 あたしは帰ってきた! アッシュヒルに!


「あれっ、鍵空いてる……」


 だけど途中でホリンと別れて家に戻ると、店の入り口が開いていた。

 まさか、今度こそ泥棒さん……?


 あたしはブラッカで買った荷台から、鎖鎌ではなく取り回しがよさそうな棍棒を取って、忍び足で店の中に忍び込んだ。


「あっ、おかえりなさいです、コムギおねーちゃんっ!」

「え、フィー、ちゃん……?」


 泥棒じゃなかった。

 それは村外れの塔で暮らしているソフィアちゃんだった。


 年齢は確か9歳。

 魔法使いの幅広帽子をかぶっていて、実際のところ魔法使いの弟子をしている変わった子だった。


「え、なんで……?」

「へへへ……。おねえちゃんとパン作るの、しゅごく楽しかったのです……」


「ええっ!? も、もしかして……ずっとここで店番して待ってくれてたのっ!?」

「はいです! パン屋さん、しゅごくいいですね……。もしお師匠様に捨てられちゃったら、ソフィアをここで雇って下さいです!」


 あたしはそんなフィーちゃんに飛び付いた!

 ちっちゃくてかわいい彼女を抱き締めて、感謝の気持ちを態度で伝えた!


「ありがとっ、実はちょっとお店が心配だったの! 村に町の外の人たちもきていたそうだし……」

「あの人たちなら、今朝帰ったみたいですよー。悪い人じゃ、なかったみたいですー」


「そっか! 外の人だからって、悪い人と限らないもんねっ!」


 フィーちゃんと両手を繋いで一緒に振り合った。

 子供っぽいかもしれないけど、片方は9歳の子供だから全然問題ない!


「いいですね……しゅごく、いいですね……。彼氏と町に行くなんて、ソフィーも憧れちゃうですよっ!」

「か、彼氏じゃないよっ! 町でやりたいことがあるから、ホリンに手伝わせただけっ!」


「羨ましいのです……」

「だから違うってばーっ!」


 あたしが否定するとフィーちゃんが無垢に笑った。


 かわいい……。

 それにいい子だし、なんか同性なのに胸がキュンキュンする……っ。


「えっとですね、おねえちゃん帰ってくるまでの、約束だったのですよ。お師匠様、それまでならいいって、言ってくれたですよー」

「そっか、魔法の修行があるのにごめんねっ! 出発前は、手伝いまでさせちゃったのに……」


「楽しかったのです、またお手伝いさせて下さいです」


 フィーちゃんはこういう性格だから、魔法使いの修行の方は遅れ気味らしい。


 でも魔法ばっかり勉強しててもよくないよね!

 社交性とか、社会経験も魔法使いにあって困るものじゃないと思うし!


「明日にでも差し入れするね! フィーちゃんに食べさせたい新作パンがあるの!」

「おぉぉぉーっ、新作なのでしゅかーっっ?! やったっ、やったですっ!」


「チーズとトマトを使ったやつなんだけど……上手くできたら塔に届けるね!」

「はいです! ……あ、では、申し訳ないですけど、修行に戻るですよ。約束、お師匠様、破ると怖いのです……」


 あたしは大切な友達を店の外まで見送った。


 何度も後ろを振り返っては手を振るフィーちゃんのかわいい姿を、見えなくなるまえでニヤニヤと見つめ続けた。


 ああ、かわいい……。

 それにかわいいだけじゃなくて、親切でいい子だ……。


 あたし、かわいいフィーちゃんの力になりたい……。

 今回のお礼がしたい……。


 あ、だったら【知恵のピザパン】を最高の仕上がりにすればいいんだ!


 あたしは店へと駆け戻り、話し相手の攻略本さんを抱えて厨房へと飛び込んだ。


 台車を引いての山道は車輪が窪みに引っかかったりして大変だったけど、まだまだあたしは元気だ!


 まずは明日のパンを仕込もう。

 そしてそれが終わったら、【知恵のピザパン】の試作をしよう!


 あたしが厨房に入ってバタバタと始めると、攻略本さんがやさしい声でそんなあたしを笑ってくれていた。

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