・知恵のピザパンを作ろう - ホリンを賢くしちゃおう! -
「お帰り。ホリンが待っていたぞ」
「え……っ、ホント……?」
お店に戻ると攻略本さんが温かい声で迎えてくれた。
「ああ、君を探してこの厨房まで入ってきた。そこのピザパンが気になっていたようだが……。君を待ち切れずに帰って行った」
「あれ、減ってない……。ホリン、食べなかったの?」
「迷い迷いに手を伸ばしていた。彼に届けてやったらどうだ、喜ぶはずだ」
「うんっ、最初からそのつもり!」
ホリンの分のピザパンを藁のバスケットに入れた。
「ロラン殿のところに戻ると独り言を言っていた」
「じゃあ、ロランさんの分も入れなきゃ!」
「彼は魔法を使えるのか?」
「え……? たぶん、使えないと思うけど……?」
「……そうか。ならば検証になるだろう」
よくわかんないけど、ロランさんの分もバスケットに入れて、攻略本さんにまた店番をお願いした。
「誰が店にきたかどうかくらいなら、後で報告しよう」
「助かる! 攻略本さんって凄く便利! ……あ、ごめん、これ人に言う言葉じゃなかった……」
「構わない、私は君の力になれて嬉しい。さ、ホリンに届けてやれ」
「うんっ! いってきまーす!」
「いってらっしゃい、コムギ」
バスケットを腕にかけて、ダッシュで店を飛び出した。
大股で村のあぜ道を飛び跳ねて、柵なんてポンと越えて、村で一番目立つランドマーク、丘の上の大風車を見上げて走った!
いつもの場所で、ロランさんとホリンが木刀を構えて対峙していた。
勇ましい声を上げてロランさんと剣を打ち合う姿は、普段のホリンらしくなくてかっこよかった!
絶対口では言ってやらないけど!
「お、お前っ、見てるなら見てるって言えよっ!?」
「見てる」
「今言ってもおせーってのっ!」
「おや、それはもしや……。ホリンが食べたがっていた、例のピザパンが入っているのでは?」
「バ、バラさないでくれよーっ、ロランさーんっ!?」
全部筒抜けだよ、ホリン。
全部攻略本さんが見てたんだから。
盗み食いを迷うくらい、あたしのピザパンを欲しがってくれたところまで全部!
「さすがロランさん! はいっ、差し入れだよっ!」
あたしはバスケットを開いて、2人にチーズとトマトソースたっぷりのピザパンをプレゼントした。
……先にロランさんに渡したら、ホリンったら凄く物欲しそうな顔をしていた!
「これは、本当に美味しそうですね……。お、おお……これは……っ」
「うっまっっ?! なんだよこれっ、ブラッカで食べたあのパンなんて目じゃねーだろっ!」
あたしはホリンの言葉に口元がゆるゆるになった。
上品なロランさんのお口にも合ったみたいで嬉しかった。
2人は夢中であたしの新作パンを食べてくれた!
「ごちそうさま。こんなに美味しいパンを作る彼女がいるだなんて、ホリンは幸せ者ですね」
「か、彼女じゃないですっっ!!」
つい否定してしまった……。
「何言ってんだよ、ロランさんっ!?」
そしたらホリンにも否定されてしまった……。
なんかちょっと、ショックだった……。
「不器用な子たちですね……」
ロランさんの自分の顎を指でつまんで、小さな声で何かつぶやいていた。
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