・知恵のピザパンを作ろうを作ろう - バニッシュ! -

「あ、ところでロランさん、何か変わったこととかありませんか……? たとえば、何かにひらめいたーとか……」


「ひらめき……? おかしなことを聞くものですね……?」

「そ、そうですね、あはは……」


「もしかしてこのピザパンに、何か特別な物が入っているのですか……?」

「な、何も入れてないですっ、何もないならそれで全然っ!」


 攻略本さんが言っていた『検証』って言葉の意味が今わかった。

 この知恵のピザパンは、効果のある人とない人がいる。


 思い出してみれば『魔法の素養のある者に閃きをもたらす』と、ピザパンが完成したときにも表示されていた。


 つまり、ロランさんには魔法の素養がない。

 魔法の素養のない人に食べさせても、貴重な材料がもったいないだけ。


 ってこと、なのかな……?


 あるいは、何枚も食べる必要があって、効率が悪いって可能性も……。


「ごちそうさま、美味かったぜ。差し入れありがとなっ」

「わっ、もう食べちゃったの……? 2人とも、食べるの早すぎ……」

「はは、美味しかったからついね」


「何よりうちの村のチーズと小麦だと、やっぱ別格だなっ!」

「そこはあたしの腕を褒めてよっ、あたしをっ!」


 ホリンに褒められると嬉しい。

 トマトを運ぶのを手伝ってくれたのもホリンだし、今回のあたしの苦労を一番知っている。


 なのになんで、わざわざ引っかかる言い方するかなー……。

 もっと何か言い返してやりたくて、あたしはホリンの顔を見つめて言葉を探した。


「あ……っ!?」


 ところがホリンが突然、素っ頓狂な声を上げた。

 フィーちゃんと同じように何かにひらめいたように見えた。


「ひらめきって、こういうことかよ……。あっ、もしかしてこのパン、あのメロンパンと同じやつなのか!?」

「へへへ……うんっ、そうだよ! 名付けて、知恵のピザパンッ!」


 ロランさんはあたしたちの話に加わってこなかった。

 若い子が自分の知らない流行りの話をしていると、そう受け止めているように見えた。


「ロランさんっ、俺、新しい魔法を覚えたみたいです! 見てて下さいっ!」

「魔法……? 君は努力家ですね、私に隠れて魔法の訓練までしていたのですか」


「え、ああ、はいっ、だいたいそんな感じです! じゃ、いきますよ、ロランさん!」


 あたしが魔法を覚えさせてあげたのに、なんでホリンはロランさんに忠犬ムーブをしているのだろう……。


 なんか納得いかない……。


「弾けろっっ!!」


 ホリンは石灰岩の大岩に向けて右手を突き出した。

 攻撃魔法! ホリンが覚えてくれたら敵に囲まれても安心だ!


「……ぇっ?」


 でも岩は弾けなかった。

 そうじゃなくて、突然現れた青白い光にホリンが飲み込まれて、それから、空へと飛ばされて――


 流星のようにどこかに消えちゃった!!


「えっ、えええええーーっっ?!!」

「消えましたね、彼……」


「消えましたね、じゃないよーっ、ロランさんっ?! ホリンが、ホリンが消えちゃったんだよっ!?」

「もう帰ってこれないかもしれませんね」


「ぇ……」


 さっきまであんなに楽しい気分だったのに、あたしは背筋を凍らせていた。

 突然に感情が麻痺して、悲しいかすらも何もわからなくなった……。


 これって、あたしのせい……?


「意地悪をしてすみません。あの術、私は見覚えがあるのです」

「知ってるの……? 大丈夫なの、ホリンッ!?」


「突然のことだったので断言はできませんが……。あれは選ばれし者のみが使える超レア魔法、テレポートによく似ていました」

「あっ……それ、知ってるっ!」


 それ、攻略本で何度も解説で出てきた名前だ!

 その魔法があれば、行ったことのある町やダンジョンの前に行けるって、そう書いてあった!


「お母さんに似て博識ですね、コムギさんは。あれが本当にテレポートなら、向こうに到着次第、こちらに引き返している頃でしょう」


「そっか、それならよかったぁぁ……。このまま、一生お別れかと、思っちゃった……」


 でも、なんで……?


「ロランさん……。でもなんで、ホリンがそんな凄い魔法を使えるの……?」

「彼がハーフエルフだからか。いや、あるいは――」


「ホリンが……勇者様、だからとか……?」

「ふふ……可能性はあります。世俗的ではありますが、彼には真っ直ぐな心がありますからね」


 じゃあ、ホリンの末路が攻略本さん……?

 断言するには要素が足りないけど、だとしたら……。


 ううん、やっぱり絶対にあり得ない。

 ホリンって勇者っていうより、その従者って感じだもん。


 それに攻略本さんのあの落ち着きと教養は、どっちかというとロランさんの方だ!

 ホリンのはずない!

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