・知恵のピザパンを作ろう - それは超便利な買い物の魔法! -
「コムギさん、あちらをごらんなさい。もう戻ってきたようですよ」
「あ! ああっ、よかった……っ!」
青い光が大きな流星となってこっちにやってきて、それが丘の下の方に進んでいる。
あたしとロランさんは走って、光の落下地点を先読みした。
光が落ちた場所は、ちょうどうちのパン屋の目の前だった。
「も、戻って、これた……。はぁぁぁ……っ、冷や汗かいた……っ」
ホリンは地面にうずくまって、もう戻れないと勘違いしていたのか安堵の笑いを浮かべていた。
そこにあたしとロランさんがやってくると、嬉しそうにロランさんではなくあたしを見てくれた。
「コムギッ!」
「ホリンッ、大丈夫!?」
「あ、ああっ! お、俺……さっきまで、ブラッカの町にいた……! なんなんだよ、この魔法!?」
「もう……心配させないでよっ、もぅっ、もーーっっ!!」
あたしたちはひざまずいて、肩を抱き合って無事を喜んでいた。
そんなあたしたちをロランさんが目を細めて見下ろしていることに気づくと、ホリンもあたしも急に気恥ずかしくなった。
「心配をおかけしました、ロランさん!」
「いや、実際……その術ははなはだしく心配ですね。……修行、しばらく止めにしましょうか」
「え……えっ、えええーっ!? そ、そりゃないですよ、ロランさんっ!?」
「……村の東の塔に、魔女アルクエイビス様がおられましたね。私が紹介状を書きます、しばらくあの方の師事を受けなさい」
えっ、あの魔女さんって、ロランさんが尊敬するほどの人だったの……?
「で、でもロランさん……っ」
「その術は失敗すると非常に危険だと聞き及んでいます。特に発動中に術が解けると……」
「とけるとどうなるの?」
「見たわけではありませんが、なんでも――天から地に真っ逆様に落ちるとか」
「ホリンッ、魔女さんの修行受けよっ! その魔法でブラッカに連れてもらえるのは嬉しいけど、墜落はちょー嫌っ!」
「へっ? この魔法って、お前も一緒に連れていけるのか……?」
「ええ、そういう術です。実際、知り合いに使い手がいると非常に便利でしてね。……主な用途は、買い物ばかりでしたが」
ホリンがあたしを見た。
ワクワクしているような明るい顔だった。
ホリンはきっとあたしと同じことを考えている。
この魔法があれば、ブラッカの町に一瞬で行ける!
ブラッカの町からその先にある新しい町に歩いて行けば、そこで隠しアイテムを回収して、荷物と一緒に日帰りでこの村に戻ってこれる。
この魔法は、隠しアイテム探しに欠かせない!
「あたし、ホリンの修行が終わるまでパン屋さんの勉強がんばるね」
「なら、それが終わったら……っ!」
ホリンもそのことに気づいたみたい。
あたしの隠しアイテム発見の能力と、ホリンのテレポートの魔法は相性が最高ってことに!
「うんっ、一緒に新しい町に行こ! あたし、他の町も見てみたい! もっと外の世界を知りたい!」
あたしが誘うと、ホリンの口元が楽しそうにほころんだ!
ワクワクを抑えられない大きな目であたしを見つめた!
「へへへ、しょうがねぇな……。お前だけじゃ危なっかしくて町なんて行かせられねーし、特別に付き合ってやるよ」
あたしと一緒に行きたいのが見え見えの、相変わらずのへそ曲がりっぷりだった。
「でもさ、ホリン、外の世界の人たちも、みんな良い人たちだと思うよ?」
「そりゃそうだろ、みんながみんな悪党じゃ――」
「だってフィーちゃんもねっ、商人のお兄さんに飴とビスケットを貰ったって言ってたんだよっ! あとそのお兄さん、頭も撫でてくれたんだって!」
そう主張したら、ホリンどころかロランさんまで急に渋い顔をしだした。
「お前ら……。ちったぁ人を警戒しろよっっ!? こっちはお前が悪いやつに変なことされるかと思うと、もう気が気じゃねーんだよっっ!!」
「コムギさん、あまり私たちを心配させないで下さい……」
え、なんで……?
2人の言っていることが、あたしにはよくわからなかった。
悪そうな格好をしている人を見かけたら、その人と距離を取ればいいんじゃないの……?
「いいですか、コムギさん……。貴女はとても魅力的な女性です……。そういった女性は、常に悪い男に狙われるのです……。お願いですから理解をして下さい……」
「そうだぞ。性格はともかくさ、お前一応はかわいいんだから気を付けろよ……」
一応、ホリンが褒めてくれた。
嬉しくて笑い返すと、ホリンは恥じらいながらため息を吐いた。
いつもいつも、いっつも失礼なやつだった。
・
ま、そんなわけで!
お喋りに満足すると、あたしは2人と別れて目の前のお店に引き返した!
あたしはホリンの意欲を見習おうって奮い立った!
もっともっと美味しいパンを作れるように、パン作りの勉強に励むことにした!
ホリンとの次の旅行、今からもう凄く楽しみ!
どんなアイテムが落ちているか、攻略本さんを読んで予習もしておかないと!
新しい町があたしたちを待っていた!
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