・知恵のピザパンを作ろう - おかわりなのですよ! -
「ふ、ふぐぅ……」
「だ、大丈夫、フィーちゃん……?」
「お腹、いっぱい、なのです……んぐ……。ふぃぃぃ……」
食べ応えたっぷりの大きなピザパンの2枚目を、フィーちゃんはついに食べ切った。
フィーちゃんのお腹はポンポンに膨らんでいて、今はそのちっちゃなお腹を苦しそうに抱えている。
「うぷっ……?!」
「わぁっ、そんなに無理して食べるからだよーっ!?」
「あっ……思い付い――うぷぅぅっ?!」
「わーっわーっうわぁぁーっっ?!」
フィーちゃんの意地を見た。
魔法のレパートリーが極端に少ない魔法使いは、何度も吐き出しそうになりながらも、両手で口を押さえて顔を真っ赤にさせていた。
「は、はふぅぅ……。もう、戻ってこないと思うです……ふぅ、ふぅぅ……」
「よかった……。あ、それで魔法、ひらめいたの?」
「えへへへ……はいなのです……。あ、お師匠、様……?」
そこに魔女さんが戻ってきた。
手には手作りの素朴な器を持っていて、そこには変な臭いのする赤紫色の水薬が入っていた。
「ヒェーヒェヒェ、まったくバカな子だよ……。ほら、飲みな」
「ありがとなのです、お師匠様……っ」
「え、それ飲むの……っ!?」
泡立っていて濁っていてヌルヌルしていて絶対に苦い薬を、フィーちゃんは一生懸命に喉を鳴らして飲み干した。
「ぷぃ~……っ!! 復っか~つっ、なのですっ!! さあっ、新しいまほーのお披露目なのですよ~!!」
「あんれまぁ~、そんなにすぐ効く薬じゃないはずなんだけどねぇ……」
フィーちゃんはやる気いっぱいだ。
右手をブンブン回して、向かいの楓の木の前にスキップしていった。
「いくですよーっ、お師匠様っ、コムギおねえちゃんっ、見てて下さいねーっ! ほいさっさーっっ!!」
フィーちゃんが木の幹に両手を突き出して、ヘンテコなかけ声を上げた!
するとフィーちゃんの手から、なんかもやもやとしてるピンク色の光が出た!
それが楓の木を包み込んで……それから……。
「……はれ?」
「あれ? 何も起きないね……?」
それからしばらく待っても、木に変化らしい変化はなかった。
「ふ、ふぇぇ……。あんなに、がんばって、食べたのに……。ショボボボ……」
「フィーちゃんっ、諦めるにはまだ早いよ! えっと……も、もう1枚食べるとか……?」
「ちぬですっ!! お腹破裂してしまうのですよーっ!?」
魔女さんが杖を突いて木の側に寄った。
見上げて、触れて、木の皮を軽く剥いで、フィーちゃんの方に戻ってきた。
「ソフィア、アタシに向けて撃ってみな……」
「ほへ……?」
「あ、そっか! これって、木とかには効果がない魔法なんだよ!」
根拠はないけどきっとそう! あたしはそう断言した!
そしたらフィーちゃんも笑顔を浮かべて、元気いっぱいに魔女さんへと振り返った。
「いくですよーっ、お師匠様ーっ!」
「ヒェヒェヒェッ、遠慮はいらないよぉ……さあ、やりな、ソフィア!」
フィーちゃんの魔法はさっきよりもずっと丁寧だった。
9歳とは思えない凄い集中力で、目を閉じたフィーちゃんが魔法に没頭していた。
その閉じられていた目が大きく見開かれた!
「そいさっさーっ!」
せっかく格好よかったのに、フィーちゃんのかけ声は相変わらずだった。
フィーちゃんの右手から出たピンクのもやもやが、ゆっくりと魔女さんを包み込んでいった。
「は、はわぁっっ、お師匠様ぁーっっ!?」
そしたらなんか凄いことになってしまった!
自分の目が変になったんじゃないかって、あたしとフィーちゃんは顔を向け合った!
ピンクの
その靄が消えた頃には、魔女さんは元の背丈の2割くらいまで縮んでしまっていた!
「ヒェヒェヒェ……こりゃ、ミニママイズの術だね」
「わぁ~~っ、かわいい魔法じゃないっ! よかったね、フィーちゃん!」
「巨人も倒せる術をかわいいとは、まあ、そうかもしれないねぇ~……」
「お、お師匠、様……? 大丈夫、なのですか……?」
「もう1度撃ってみな」
フィーちゃんがミニママイズの魔法をもう1回かけると、魔女さんが元の大きさに戻った。
あたしはそれを見て、ますます『いいな……』って思った。
「フィーちゃん、それっ、次はあたしにかけてっ!」
「はいなのですっ!」
「ヒェヒェヒェ、あたしゃもう行くよ……」
あたしはフィーちゃんのピンクの靄に包まれた。
するとみるみるうちに世界が大きくなっていって、あたしはまるで人形みたいにちっちゃくなれた!
「ほわぁぁ……っ、お姉ちゃん、かわいいのです……っ!!」
「うっわぁぁーっっ、フィーちゃんおっきいーっっ!!」
2割くらいになるんだから、今のあたしって30cmくらいなのかな!
あたしはフィーちゃんの脚に飛び付いて、よじ登った!
「わぁぁぁ……いい、いいのですっ、これっ、しゅごくいいのですよーっ!」
おっきなフィーちゃんに捕まっちゃった。
猫を持ち上げるみたいに両脇に手を回されて、空に掲げられると、なかなかスリルがあった!
「フィーちゃんになら貰われてもいいよーっ」
「本気にしちゃうですよ~っ、でへへへ……!」
フィーちゃんの肩に乗せてもらった。
空は果てしなく高くて、巨大な森はまるで巨人の国のようだった。
木の葉の1つ1つがすっごくおっきい! なんか不思議!
「あっ、そうだ! 取って置きをお姉ちゃんにあげるです!」
「なになにっ?」
「この前の旅商人さんっ、ビスケットをくれたですよ!」
フィーちゃんはあたしに、アーモンド入りの小さなビスケットを1枚分けてくれた。
あたしは感動した。
フィーちゃんの魔法はなんて凄いのだろう。
元は直径3cmもなさそうな小さなお菓子が、両手で抱えるほどに大きなお菓子に変わった!
「お姉ちゃん、かわいいのです……はふぅ……」
「外の人って、やっぱり悪い人ばかりじゃないんだね! これ、凄く美味しい!」
「はい、やさしいお兄さんだったのです。もう食べちゃったけど、飴ちゃんももらったですよ~。頭も撫で撫でされちゃったです」
「はぐはぐ……良い人だねっ!」
端っこをちょっとしかかじってないのに、すぐにお腹いっぱいになってしまった。
特にアーモンドの粒がおっきい!
「ふぅ……っ、じゃ、元に戻して!」
「ぇ……もう、戻るですか……?」
「うんっ、ホリンにもあのピザパン食べさせたいし!」
あたしとしては、ちょっとでもホリンに賢くなって欲しいし……。
「また、ちっちゃくなってくれるですか……?」
「もっちろん! 美味しい物作って、一緒にちっちゃくなって食べよ!」
「それっ、しゅごくいいですねっ! ミニママイズーッ!」
あたしは元の大きさに戻してもらった。
それから空っぽの台車を引いて帰ろうとすると、魔女さんに引き留められた。
「え、これって、ジャム……?」
「昨日仕込んだばかりさ。外の連中から砂糖をフィーに仕入れさせてね……」
「わぁ~っ、嬉しい! パンに塗ったら絶対美味しいよ!」
「ヒェヒェヒェ、フィーのためにありがとよ、お嬢ちゃん……」
「いいえ、こちらこそ! それじゃ、またね~っ!」
「また遊びに……! あ、えと……修行が落ち着いたら、いくです……」
あたしは壷入りの木イチゴのジャムを台車で引いて、自分のお店に帰った。
ああ……ミニママイズの魔法、凄く楽しかったなぁ……。
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