・勇者の初期村の隠しアイテムを拾っちゃおう - 歩くときは元気に大股で -

「よう、パンならもう直売所に送っておいたぜ」

「えっ、あっ、ホントだ!?」


 店に戻るとホリンがいた。

 店に一時的に置いておいたパンが消えていて、代わりに元気なホリンの笑顔があった。


「それはそうと、おはよ。……ん、どうかしたのか?」

「ううん、なんでもない。おはよ、ホリン!」


 ホリンを捨てる。

 今までそういう発想はなかった。


「……おい、鍵をしろ、鍵を」

「鍵……? ああ、鍵……鍵かぁ……鍵は行方不明」


「お前な……。町のやつらがきている間は不用心なことはするな。ほら、宝探しの前に鍵探しだ」

「えー、別に大丈夫だよ~?」


「この前だって町の連中がきたときに物が消えただろっ。商売道具盗まれたら、どうすんだよっ」


 ホリンがしつこいから鍵を探してあげた。

 鍵は――なんでか知らないけど、店のカウンターの下に落ちてた。


「それ、なんだ?」

「あ、これ? 攻略本さん」

『コムギ、私の声は彼には聞こえない、見えもしない』


 皮のブックカバーを攻略本さんに付けてみたら、これがピッタリだった。


「それ、お前のお母さんが使ってたやつか……?」

「うん! あのね、ホリンには見えないけど、ここには世界の秘密が描かれた攻略本ってやつがあるのっ」


「お前……大丈夫か……? やっぱ、働き過ぎなんじゃ……」

「本当だってばっ! ほらっ!」


「お、おいっ、何人の手触って――な、なんだこりゃっ?!」


 ちょっと勇気を出してホリンの手首を掴むと、彼の手を攻略本さんに触らせた。

 それはツルツルとした不思議な感触の紙だ。


 厚みが均等で、なんだか不思議なインクの匂いのする魔法の本だ。


「どう、信じる?」

「おお……見えないのに、確かにある……。な、なんなんだよこれ……っ!?」


「えっとそれは……。なんか、説明しにくい……」


 これからアッシュヒルが滅びるって書いてあります。

 なんて言っても信じないよね……。


 だからここは先に、この攻略本がいかに凄いかをまずホリンに見せつけないとだ!


「じゃ、宝探しに出発!! ほら、行くよホリンッ!」

「お、おい……っ、勝手に人の手を――なんか、ガキっぽいだろこういうの……っ!?」


 左手でホリンの手を握って、右手で攻略本さんを開きながらホリンを引っ張って店の外に出た。

 ホリンの手は豆だらけで、なんだかゴツゴツしていた。


 子供の頃はもっとやわらかくて、でも2歳上のお兄ちゃんだったからとても大きいと感じていたのに、すっかり変わっていた。


「村を守りたいからもっと訓練したいって、そうお父さんに素直に言ったら?」

「言ったよ。けど気にし過ぎだって言われた……」


 うん……。

 少し前のあたしだって同じことを言ったと思う……。


 でも正しいのはホリンだった。

 ホリンの訓練はムダじゃなかった。

 必要なことだった。


「そう思うのもしょうがないよ、この村って平和だもん」

「…………え? あ、ああっ、そうだなっ」


 遅れてあたしが言葉を返すと、ホリンは結ばれた手と手を見下ろしていた。

 どこか上の空だった。


 子供っぽいのがそんなに気に入らないんだろうか。

 ギュッとホリンの手を握って様子を見てみると、視線までそらされた。


「あっ、ここ。この辺りに『鱗の盾』って物が隠されてるみたい」

「鱗の盾っ!? それっ、隣町の防具屋で180Gで売ってるやつだろっ!?」


「え、あ、うん……。この攻略本さんには、鱗の盾って書いてあるけど……なんでそんなに値段に詳しいの?」

「欲しかったからに決まってんだろっ! どこだ、どこにあるんだっ!?」


 現金なやつ……。

 見つかったら絶対、自分が貰うつもりだ。


「少し、様子を見よう」


 そんなホリンを手伝おうとしたら、攻略本さんに止められた。


「え、なんで?」

「ホリンが勇者ならば、隠しアイテムを自分で見つけ出せる可能性がある」


「ホリンが勇者のはずないよ。ロランさんの方がずっと勇者様っぽいもん」


 それで結論から言うと、ホリンは隠しアイテムを見つけられなかった。

 そんなホリンの隣に颯爽とあたしは両手を振って進んで、辺りを注意深く調べた。


 すると軽快で短い旋律がどこからともなく奏でられた。

 楕円形の光が足下の茂みから舞い上がってきて、それがなんと大きな鱗が張られた木盾に変わった。


 ホリンにはその音も光も見えていなかった。

 あたしが宙に浮かぶ盾を手に取ると、やっとホリンが気づいてくれた。


「ほ……本物だっっ、本物の鱗の盾が現れたっっ!?」

「偽物のわけないでしょ」


「すげぇ……。いいなぁ、超カッコイイなぁ……。これ、竜の鱗なんだぜっ!」

「ふーん……」


 凄く欲しそう……。

 ちょうだいって言ってくれたらあげるのに、言わないのかな……。


 だったらちょっとだけ、意地悪とかしちゃおうかな……。


「これ、売ったらいくらくらいになるの?」

「買うっ!! それ、売ってくれっ!!」


「いくらで?」

「ろ、63G……俺の全財産で頼む、コムギッ!! 町の連中に売るくらいなら、俺に売ってくれよっ!!」


 少な……っ。

 ホリン、仕事サボってロランさんと訓練ばっかりしてるもんなー……。


「新品みたいに見えるけど、180Gが63Gかぁ……」

「足りない分はなんでもするよっ! 頼むよ、コムギ……ッ!」


「ぷ、ぷぷ……。あははははっ!!」

「なっ……な、なんだよ、なんでいきなり笑い出すんだよ……っ?」


「じゃっ、これホリンにあげるっ! 実は最初からあげるつもりだったのっ!」


 明るく笑いかけながら、あたしは鱗の盾をホリンの胸に押し付けた。

 ホリンの頬がどんどん緩んでいって、踊り出しそうなほどに喜んでいるのがわかった。


「そうならそうと先に言えよーっっ?!」

「だってあたしパン屋だもん。そんな戦いのための道具なんて使えないよ」


「おお……カッコイイ……。今ならドラゴンの攻撃も余裕で防げそうな気分だ! ほら見ろよっ、俺、戦士様みたいだろっ!?」


 子供っぽいところは昔から変わらないなー。

 ホリンは盾を左手に付けて、鱗の表面がツルツルしている不思議な盾をあたしに向けた。


 ちょっと、カッコイイかなって思った……。


「他にはどんなお宝があるんだ?」

「やくそう、ってやつとか。食べたらすぐに傷が治るみたい」


 挿し絵が凄く不味そうだったけど……。


「それも欲しいな、常備しておきたい!」

「あと、棍棒」


「棍棒!? 俺の使ってる木刀より強いやつだ!」

「それと、ヤギの糞」


「糞? それはいらない」

「だよね。それとね、お金と、鉄壁の実と、雷神の剣がこの村に隠されてるみたい」


 そう言ったらホリンが固まった。

 うん、雷神の剣に驚いているんだと思う。


 攻略本で調べてみたら、とっても強くて凄く貴重な魔法の剣だった。


「今……なんて、言ったんだ……?」

「雷神の剣っ! この村には、雷神の剣が隠されてるよっ!」


「あの雷神の剣かっ!? 雷の魔法まで使えるようになるあの雷神の剣が、なんでこんなド田舎にあるんだよっ!?」

「え、えっと……。それは……」


 『どういうことなの攻略本さんっ』

 と、そう投げかけるように本を開いてみた。


「本来、村が滅びた後にしか行けない場所がある。いずれ回収される物だ、先に取ってしまっても何も問題ないだろう」


 言っていることがよくわからなかった……。

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