・勇者の初期村の隠しアイテムを拾っちゃおう - ホリンは勇者様? -
「先にこっちの『C.39G』を取りにいこ。それから『A.やくそう』と『B.鉄壁の実』を取って、その後に『H.雷神の剣』! さあいこー、ホリンッ!」
とにかく普通に買うと凄く高かったり、お金じゃ買えない超レア物が、なんでわからないけどタダで貰えるってことだよね!
あたしは今度はホリンの背中の方を押した。
なんだか背中までゴツゴツしてきたホリンの身体に少し驚いた。
「ホリンって、意外と筋肉質なんだね……」
「うちの一家はみんなそうだぜ。爺ちゃんなんて、昔は超凄かったんだからなっ!」
そのお爺ちゃんに心配かけまくってるとも知らないで、よく言うよ……。
あたしたちは次の目的地に向かい、1つずつ隠しアイテムを回収していった。
39Gはあたしが貰った。
やくそうの方もパンに使えないかなって思って、ホリンには悪いけど貰うことにした。
「これが鉄壁の実? ずいぶんとでっかいナッツだな」
「えっとね……。攻略本さんによると……。あ、食べると『身の守り』ってやつが増えるみたい」
「それって、つまり……食べただけで強くなれるってことかっ!?」
「うん、そうみたい」
「なんでそんな凄い物がその辺に落ちてるんだよ……っ?」
「さあ? あ、でも欲しいならホリンに――」
超欲しそうだった。
あたしだって、これでホリンが安全になるならあげたっていい。
『待て、まずそれをパンにしてみてはどうだ?』
パン……?
あ、そっか。
あの経験のバターロールみたいに、パンにしたら何か起きるかもしれない。
「くれるのかっ!?」
「ううん、やっぱりこれはあげない。これをパンにしてみる」
「パンに……? それって、ムダになったりしないか……?」
「なんでもやってみないとわかんないよ。ダメだったら、次からはホリンにあげる」
「次……? 次って、なんだ……?」
「あのね、隠しアイテムがあるのって、この村だけじゃないの。隣町とか、そのまた先の町とか、色んなところに凄い物が隠されているみたい」
「お、おぉぉ……っ!」
ホリンが何を考えているか、聞かなくてもわかった。
もっと凄い装備をあたしから貰う気だ。
そのためにどうやってあたしの気を引くかまで、もう考え出しているかもしれない。
「宝探し、これからも付き合ってくれる……?」
「しょ、しょうがねーなぁっ! 世間知らずのコムギ1人だけで、村の外に行かせるわけにいかねーしっ、特別に俺が護衛をやってやるよっ!」
そういうホリンこそ、誘われて嬉しくてたまらないって本心が丸見えだった。
「ねぇ、ホリン、雷神の剣のところまで行ったらお弁当にしない?」
「その言葉を実は待ってた。で、中身は……?」
ホリンがあたしの右腕のバスケットを見た。
出発前から中が気になってたみたいだった。
「あたしが焼いたサンドイッチ! ホリンが好きなチーズサンドもあるよ。特別に厚めに切ってあげたんだから、感謝してよねっ」
「お前……俺を太らせて食うつもりじゃないだろな」
「あー、そういうこと言うんだー。素直に感謝しないならあげないから」
「この流れでそりゃないだろ、コムギ!」
「ふーん……? いらないんだぁ……?」
「いるよっ、いるってのっ! 悪かったよよ……お、お前の弁当、俺にくれよ……」
「ふふふっ、わかればよしっ! じゃ、雷神の剣をさっと回収して、ご飯にしよっ!」
今度はホリンの肩をぐいぐい押して、押すなよと抗議をするホリンと一緒に村のあぜ道を駆けた。
そしたらまた昔のことを思い出した。
子供の頃はこうやって一緒に村中を駆け巡って、ホリンの両親やうちのお母さんを心配させたりした。
一緒に湖で泳いだこともあったっけ。
「昔はこんな湖、泳いで向こう岸に渡っちゃったのにね」
「へ、変なこと思い出させるんじゃねぇよ……っ!」
「変なこと……? あ……っ」
水着?
そんな都会っぽい物、うちの村にあるわけなかった。
・
「それじゃ、取るよ、雷神の剣」
「お、おう……やってくれっ」
「なんでホリンが緊張してるの?」
「そういうコムギは、なんで平気でいられるんだよ……っ」
「だって、あたしただのパン屋さんだもん。そんな凄い剣、絶対に装備なんかできないよ」
雷神の剣は村の高台の上にある。
そういえばここへの道、この辺りで暮らしている人が亡くなってしまって、登り坂が崩れてしまってたままだった。
でもそんなの無理矢理登っちゃえば、どうってことなかった。
あたしは隠しアイテム雷神の剣がある場所に移動して、地から現れた光を手に取った。
「はい、雷神の剣。ホリンにあげる」
雷神の剣はあたしが持つと見た目以上に凄く重たかった。
だからあたしは鞘に入ったそれを杖にして、引きずるようにホリンへと引き渡した。
「もーっ、重いんだからちゃんと受け取ってくれなきゃ困るよーっ!」
「く……くれるの、か……?」
「あたしにはこんなの使えないよっ、持って帰るのも無理だもん!」
「じゃあ……借りる……」
「あげるってば!」
「で、でもよ……。こんな凄い物、くれるって言われても……俺、何もお前に返せないぞ……?」
ホリンが無事に生き抜いてくれたらそれでいい。
ホリンに生きていてほしいから、あたしは重たいそれを胸に抱えて持ち上げて、彼に押し渡した。
「わぁぁっ、ホリンって意外と力持ちなんだねっ!」
「あれ、これ、全然軽いぞ……?」
「そんなわけないよ。鉛みたいに重かったもん!」
「でもほら、片手で持てるぞ?」
軽々と、ホリンは1m近くある雷神の剣を片手で空に掲げた。
『雷神の剣を装備可能なただの村人か……。いや、ただの村人ではないということだな……』
じゃあ、ホリンは勇者様……?
ううん、それは絶対にない。
ホリンはそういう器とかしてないもん。
現にホリンは今、雷神の剣を子供みたいに振り回して遊んでる。
そんなホリンから離れて、ちょうどいい草むらに腰を落ち着かせて、バスケットを開けた。
「ホリン、少し早いけどお昼ご飯にしよー?」
「お前っ、雷神の剣に少しは驚けよっ!? なんで食い気優先なんだよっ!?」
「いらないの?」
「いる!」
ホリンの好きなチーズサンドを取り出すと、ホリンが滑り込むように隣に飛んできた。
あたしから焼きたての食パンを使ったチーズサンドを受け取って、美味しそうに食べてくれた。
「ロランさんきっと驚くね」
「だな! けど、なんて説明しよう……」
「拾ったって言えばいいんじゃない?」
「落ちてねーよ、こんなのっ!」
「でも落ちてたじゃない」
「そ……そうだけどさ……」
なんだかんだホリンは幸せそうだった。
大切そうに剣の鞘を抱いて、時々その中にしまわれた真鍮のような輝きを持つ刃を確かめていた。
チーズサンドを食べ終わると、あたし自慢の卵サンドの方も美味しそうに食べてくれた。
「ねぇホリン」
「ん、なんだ?」
「ホリンはツナサンドって知ってる?」
「綱……? 綱なんて食えないだろ」
「だよね、絶対変だよね……」
『君たちはどんな勘違いをしているのだ……』
え、違うの、攻略本さん……?
『私が言ったのは、綱・サンドではない……。ツナという魚を使ったサンドイッチだ……』
あ、そうなんだ。
よかった。縄をパンに挟んで食べる世界はなかったんだ。
世界はあたしが思っていたより普通だった。
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