・鉄壁のメロンパンを作ろう - 母のレシピ帳 -

 『G.ヤギの糞』を除いた全ての隠しアイテムを回収すると、もう昼過ぎだった。


「じゃ、またね、ホリン」

「おう、俺はロランさんに剣と盾を見せてくる!」


「風車守の仕事は……?」

「小麦粉なら後でトレーニングついでに店に届けてやるよ、じゃなあ!」


 ホリンには鱗の盾と雷神の剣。

 あたしの店の中には39Gとやくそう2つに、棍棒、鉄壁の種が残った。


 けどどうしよう、この棍棒。

 これならあたしにも装備できるみたいで、持ってもそんなに重たくなかった。


 だけど、トゲトゲしていて、ずんぐりむっくりしてて、全然かわいくない……。


 村に滅びの日がきたら、あたしは何を持って戦うんだろう。

 そんなことを物思いながら、休憩を入れずに昼の仕事に入った。


 仕込んでおいたパンを焼いて、それを直売所に届けよう。

 戸締まりは――ホリンがうるさいから、安心させるためにちゃんとやってあげるか。


 燃料室に炎の魔法を撃っておいて、温まったところでパン焼き窯に生のパンを入れた。

 そこまでやれば、やっと一息つける。


 あたしは今日手に入れた宝物をもう一度確かめてみた。


――――――――――――――――――――――――

【鉄壁の種】

 【特性】[身の守り1~3アップ][香ばしい]

 【LV】0


【やくそう】

 【特性】[HP21~36回復][身体に良い]

 【LV】3

――――――――――――――――――――――――


 棍棒からは何もわからなかった。

 棍棒は、パンの材料にはならないから……?


「そうだ、この鉄壁の種とやくそうを両方入れて……。んん……」


 そういえばお母さんのレシピ帳、どこやったっけ……?

 あたしは二階に上がって、自分のとは反対側の部屋に入った。


 この部屋は当時そのままにしてある。

 よくないんだろうけど、どうしても処分とかはできなかった。


 誰かがここで暮らしてくれるようになったら、片付けるきっかけもできるのだけど……。

 今は捨てられない。


「あった……」


 本棚を探ると、元通りの場所にレシピ帳があった。

 それを棚から抜いて、ページをパラパラとめくった。


 勉強熱心なお母さんは世界中のパンや、オリジナルのレシピをメモに遺してくれていた。


「メロンパン……? メロンは入ってないみたいだけど、なんか、鉄壁って感じするかもっ!」


 レシピ帳の左のページには、手書きのスケッチが載っていた。

 その編み目模様の不思議なパン【メロンパン】は、お菓子とパンの両方の生地を組み合わせた画期的なレシピだった。


「39Gも手に入っちゃったし、ちょっとくらい贅沢してもいいよね……っ!」


 倉庫に降りて、砂糖の残量を確かめた。

 足りない材料は追加の卵とミルクにバターだ。


 パン焼き窯のパンを入れ替えた。

 それからできあがったバケットを台車に積載すると、あたしは駆け足で直売所に飛んでいった。


 納品をして、欲しい物を見繕って、売り上げからさっ引いてもらって、パンが焦げる前に店に飛び戻った。


「あ、鍵、忘れてた……」


 鍵の習慣のないあたしみたいな田舎者にとって、鍵をかけて店を出るのはとても難しいことだった。


 泥棒さんはいなかったけれど……。

 これじゃホリンが心配するもしょうがないかなと、ちょっとだけ反省した。


「さっ、気を取り直してメロンパンを作ろうっ! やくそうと鉄壁の種を使って、それを甘くて美味しいメロンパンの中に混ぜちゃえばっ、誰も中身に気づかないよ、きっと!」


 砂糖、卵、バター、小麦粉。

 メロンパンのクッキー生地作りは、いつもの甘くないパン作りとは全く違った楽しさがあった。


 甘い匂いが厨房に広がった。


 これに火を入れたら、もっともっと甘い匂いが店中に広がるんだと思うと、なんだか楽しくて楽しくてしょうがなかった!


 完成したら、最初に誰に試食してもらおう。

 やっぱり、ホリンのやつかな……。


 知らず知らずのうちに、あたしは声を上げて笑っていた。

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