・ただの村人の旅立ち - 騎士ロランさん -
隣町のブラッカに行くにはまず渓谷に沿って山を下りる。
それから川を下るように歩いてゆくと、橋に行き着く。
その橋には古い赤煉瓦の街道が走っている。
そこを東へ東へと進んでゆくと、道はブラッカの町に行き着く。
片道だけでも6時間。
でもあたしとホリンの足なら、5時間で行けると騎士ロランさんが教えてくれた。
「今日はお世話になりますっ、ロランさんっ!」
「いや、こちらこそいつも美味しいパンをありがとう。特に最近のパンは、今までに輪をかけてとても美味しい」
「ほ、本当ですかっ!? やったっ、やったーーっっ!!」
喜びに両手を上げるあたしに、ロランさんがやさしく微笑んだ。
ロランさんは素敵だ。
やさしいし、イケメンだし、落ち着いてるし、強いし、なんでか知らないけど凄くお金持ちだし。
それに面倒見だっていい。
きっとこの人が勇者様に決まってる。
長いオレンジブロンドはとても40代とは思えない艶やかさで、背もホリンよりも大きくてきっと180cmを超えている。
それに気品のあるその甘いマスクは、とてもおじさんとは思えない!
ロランさんは20代後半くらいにしか見えなかった!
「しかし、本当にブラッカまでついていかなくて大丈夫ですか?」
「大丈夫です、ホリンが守ってくれますから! それにロランさんがいなくなったら、村のみんなが不安になっちゃいますよ」
「ふ……。ホリンも君と似たようなことを言っていましたよ」
麓の街道に着くまで、ロランさんが護衛と道案内役をしてくれることになっていた。
最初は『山の半分くらいまで』って話だったんだけど……。
ロランさんはあたしたちが迷子にならないか、とても心配だったみたい。
だから結局、『後は一本道の街道まで』付き合ってもらうことになっちゃった。
やっぱりロランさんはいい人だ。
ちょっと過保護なくらい、あたしとホリンにいつもよくしてくれている。
「1つ忠告をしておきましょう。外の世界では、この村の理屈は通じません」
「理屈、ですか?」
「ええ。特に君はエルフです。絶対に、ホリンから離れてはいけませんよ。……いいですね?」
「えっと……外って、そういうものなんですか……?」
「人攫いに捕まれば、二度とこの村には戻れない。ホリンにも会えなくなるということです。エルフは狙われる、よく気を付けるように」
あたしが不思議そうに首を傾げると、ロランさんはとても心配そうにこちらを見つめた。
なんでエルフを狙うんだろう。
理由がよくわからなかった。
「やはり町まで一緒に行きましょう……」
「えっ!? でも、ロランさんにそこまでしていただくわけにはいかないですよ……っ!」
「ならば気を付けて下さい、お願いします……」
「わかりました……。あたし、気を付けます……っ!」
そうやってロランさんに心配されていると、そこにホリンが飛び込むように駆けてきた。
「す、すみませんロランさんっ、お待たせしてしまってっ!」
「ホリン」
「は、はいっ!」
「私は待ってなどいないですよ。ただ今日のことがとても楽しみで、予定よりもだいぶ早くきてしまっただけです」
「よかった……。俺っ、次はもっと早くきますからっ!」
ホリンはロランさんに対してはいつもこうだ。
まるで犬みたいに目を輝かせて、あたしじゃなくてロランさんの顔ばかり見上げていた。
「ところで、コムギさんに挨拶はしないのですか?」
「え、コムギ? あ、居たのか、お前」
「居ましたしーっ! ちょっとっ、この扱いの差露骨過ぎないっ!?」
「だってそうだろ、ロランさんは超すげー騎士で、超つえーんだぞ!」
「そんなのあたしだって知ってますからーっ!」
この日のために昨日は友達に手伝ってもらって、保存の利くバケットを村3日分も作ったのに。
なんでホリンのやつは、朝から人の気持ちを逆撫ですることばかり言うんだろ……!
「ホリン」
「はい、なんですか、ロランさんっ!」
「女の子にはやさしくしなさい」
「え? だ、だけど、だけどよぉ……」
「これから貴方は町に行くのですよ? 町には貴方のような田舎者よりも、魅力的な若者がいっぱいです」
「だ、だから、なんですか……?」
「うかうかしていると、他の男に横取りされますよ」
ホリンは分からず屋だけど、ロランさんにだけは逆らわない。
憧れのロランさんにお説教されて、ホリンはうなだれ、黙り込んでしまった。
「おい、コムギ」
「何よ?」
「都会の男に声をかけられても、ほいほい付いてくんじゃねーぞ。都会の男はなっ、あぶねーんだからなーっ!」
ホリンってホントお子さまだ。
もっと他に言い方があるだろうに。
でも、なんとなく気持ちは察した。
ホリンは幼なじみのあたしが、他の若い男と仲良くするのは気に入らないんだ。
「しょうがないなぁ~? ロランさんも注意しろって言ってくれたし、うん、そうするねっ!」
「そ、そうか……。はぁ……っ、ならいいぞっ」
出発前からそんなこんなの出来事があった。
あたしたちは待ち合わせ場所にした村の西門を出て、あまりにもちっぽけなアッシュヒルの村を離れた。
村を守るものは浅い堀とまともに管理されていない木の柵くらいのもので、未来を知るあたしと攻略本さんからすれば、それはあまりにも無防備で不安になる光景だった。
今までは平和だったのだから、その平穏が変わらずにいつまでも続く。
真実を知るまでは、あたしだってそう思ってばかりいた。
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