・鉄壁のメロンパンを作ろう - ガチムチは困るよ! -
「ワシは5つ食べたぞ?」
「なんだよ、そういうことなら早く言えよっ! 金、ここに置くぜ!」
「ダメッ、ガチムチは困るよーっっ!!」
あたしの抗議も虚しく、ホリンは凄い勢いでメロンパンを平らげていった。
でも、よく考えたらおかしい。
あたしも1つ食べたけど、あまり変化はないように思えた。
合計5つ食べて、ホリンはまた二の腕を折り曲げた。
少し筋肉の彫りが深くなったような気もしなくもないけど、全体的にはなんの変化もなかった。
「あ、そっか、効果には強い個人差があるんだ……!」
「どういうことだ?」
「つまり、村長さんの体質に合ったのかも……。あと、元々鍛え上げた凄い人だったのも、何か関係があるのかな……。わかんないけど」
「よくわかんないけど、俺、爺ちゃんみたいになれないのか……。残念だ……」
「安心せい。ワシが直々に鍛え上げてくれるわ。ホリンや、チャンピオンベルトがワシらを呼んでおるぞ」
「俺はこの村を守りたいだけだっての!」
ホリンがまた二の腕を折り曲げて成長を確かめた。
効果は出ていると思った。
村長さんほど極端ではないけれど、ホリンの身のまもりが大きく上がったようにも見えた。
鉄壁のメロンパン。
材料がまた揃ったら作りたいな……。
・
「まさか、あのヨブ村長が最強の拳闘士に戻るとは……」
あたしには仕事がある。
ホリンと村長さんを厨房の外に追い出して、またパンを捏ねた。
すると今度は攻略本さんが独り言をつぶやいていた。
「ふふっ、独り言?」
「あ、すまない。つい嬉しくてな……」
「そうだね。攻略本さんの記憶の中では、ヨブお爺ちゃん、魔物に斬られて……」
「ああ。だが鉄壁のメロンパンを食べたあの鋼鉄の肉体ならば、破滅の日には獅子奮闘の働きをしてくれるだろう」
「よかったねっ!」
「ああ、よかった……。本当に……」
本当に、攻略本さんはこの村の人だった。
それに村長さんとも、こうして見た限り仲が良かったみたいだ。
といっても、村長さんは村中のみんなに慕われている。
だからこれは、攻略本さんの特定できるような情報じゃなさそう。
でも嬉しかった。
村長さんが好きな人がここにもう1人いて。
村長さん、本当にいい人だから……。
『こうなってくると、他の種も欲しくなるな』
「あ、種って色々種類があるんだよね。力の種とか、誘惑の実とか、本にも載ってた!」
『ああ。そしてそれを元にパンを作り、体質に合う者に与える。そうすれば……!』
あ、そっか!
そうすれば、さっきの村長さんみたいに超強い村人が生まれるかも!
この方法なら、破滅の日からアッシュヒルを守れるかもしれない……。
「で、でも……。それって、村中が凄いことになっちゃうんじゃ……。完全に村長さん、別人になっちゃったくらいだし……」
『滅びるよりはいい』
「まあ……それもそうだけど……」
でも他の隠しアイテムは村の外だ。
外の世界に行ってみたいけど、なんだかちょっと怖い……。
あたし、外に出たことないし……。
ホリンはあたしのこと、世間知らずだって言うし……。
『頼む。未来のために、ホリンと共に隣町に向かってくれないか?』
「……うん、うんっ、わかったっ! いっぱいパンを作ってっ、あたしホリンと一緒にがんばるよっ!」
誘ったらホリンは喜ぶだろうな。
都会に憧れていたし。
あたしも外の世界を見てみたい。
いつか、王都の大噴水も。
できたらホリンと一緒に……。
不安と期待を混じらせながら、あたしは旅立ちの覚悟を決めた。
外の町に行って、隠しアイテムを手に入れて、それをパンの材料に使って村のみんなをこっそり強くする!
そうすれば、あたしたちは生き残れるかもしれない!
『デートの邪魔でなければ、私も付き合おう』
「デ、デートなんかじゃないよっっ! べ、別にホリンとはなんともないんだからっ!!」
攻略本さん、元勇者様も一緒だ。
あたしたちの旅は、勇者の旅路をもう一度なぞり直すものでもあった。
それとツナサンド、隣町にあるといいなぁ……。
攻略本さんのおすすめを、1度でいいから食べてみたい……。
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