・ホリンと会えない日々 - 体力のジャムパンを作ろう! -
「ホリンにも食べさせたいな」
「うんっ、ホリンにも食べて欲しい!」
「会いに行ってやったらどうだ? 向こうも君を恋しがっているかもしれんぞ」
「そ……そんわけないよ……。きっと、ロランさんのことばっか、考えてるよ……」
「そうかな」
「そうだよ……。いつだってアイツ、そうだもん……っ! 修行とロランさんのことばっか!」
「もどかしい話だ」
一生懸命、パン生地を捏ねた。
ホリンだってがんばってるんだから、あたしももっとがんばった。
最初は粗かった生地が、だんだんとなめらかになってゆくところが好き。
そのままでは繋がらない粉末が、パンの塊になってゆくんだから不思議だと思う。
「そんなものでいいのでは?」
「あ……」
言われて手を止めると、生地は完璧だった。
腕と指が震えている。
手ぬぐいを取って額に当てると、凄い汗だった。
「次はジャムか、本番だな」
「うんっ、それにねっ……ジャーンッ!!」
「そ、それは……。それはまさか、体力の種、なのか……?」
「えへへー、シロップ漬けにしちゃいましたーっ!!」
魔女さんから貰った木イチゴのジャムと、シロップ漬けにしておいた体力の種を、木のボウルに移して混ぜ合わせた。
体力の種はやわらかくなっていて、しゃもじで押し潰すとジャムと簡単に混ざり合った。
「なんという暴虐だ……。貴重な体力の種を、シロップに漬けるだなんて……」
「だってこうすれば食べやすくなるじゃない」
「だが味はどうだ?」
「滑らかになって凄く美味しい! このまま食パンに塗って食べたいくらい!」
後はレシピ通りに少量の小麦粉を加えれば、特製ジャムの完成だ。
「ふぅぅぅ……できたぁ……」
「少し休め」
「でも、ホリンもがんばってるし」
「君は催しに加わり、体力のジャムパンの結果を見届けなければならないだろう。休みなさい」
ま、いっか。
手、ぷるぷる震えてるし……。
「わかった、少し休むね。店番――」
「私をカウンターに置いておけ。ゆっくりと休むといい」
「ありがと!」
あたしは攻略本さんを言われた場所に置いて、自分の部屋に戻ってお母さんのレシピ帳を片手にくつろいだ。
・
「コムギさん。……コムギさん、起きて下さい、コムギさん」
「ん、んん……あれ、ロランさんがいる……?」
「勝手に寝室に入って申し訳ありません。ですが、そろそろパンを焼く時刻なのでは」
「……わっ、うわあああーっっ?!! あたしっ寝ちゃってたっっ!!」
あたしはロランさんを部屋に置き去りにして階段を駆け下りた。
カウンターの攻略本さんの前を通り過ぎて、厨房へと駆け込む。
燃料室にフレイムの魔法を放って、温度が上がるまでの間、ジャムパン作りを再開させた。
「それはジャムパンですね」
「知ってるのっ!?」
「はい。ジャムの塊を生地で包み込むという発想は、なかなか斬新でした」
「へへへ……あたしもそう思う! お母さんって天才!」
あたしはちぎっておいたパン生地を平たくして、その上にジャムをたっぷり乗せて包み込んだ。
ジャムが溶け出さないように、しっかりと閉じる。
そう母さんのレシピ帳に書いてあった。
「そうしていると、お母さんによく似ていますね。あ、パン焼き窯もそろそろいい温度なのでは?」
「えっ、手伝ってくれるんですか……!?」
「昔、少しパン屋さんを手伝ったことがあるんです」
ロランさんは型に入った食パンを、軽々と持ち上げてパン焼き窯へと入れてくれた。
その間、あたしはジャムをパン生地に1つ1つ包んでいった。
これ、早く焼きたい……。
早く試食してみたいなぁ……。
「ありがとうございます、ロランさん。起こしてくれたのに、いきなり飛び出してごめんなさい……」
「いえいえ。ヨブ村長から話を聞いていたので」
「そうだったんですね!」
「このジャムパンならみんな喜びます。少し、サービスが過ぎるかと思いますけれどね……」
全部のジャムパンが仕上がった。
二の腕で汗を拭うと、ロランさんがやさしい微笑みを浮かべて、自分のハンカチを貸してくれた。
でもそれ……純白の絹だった。
「拭かないのですか?」
「だ、だって……これ、絹……」
「ああすみません、木綿の方が実用的なのはわかるのですが、なかなか棄てられないものでして」
絹のハンカチで額を拭いた。
わぁ、気持ちいい……。
「よ、よろしければっ、パンが焼けるまでお茶にしませんかっ!」
「ええ、もちろん喜んで。ホリンが構ってくれないので、最近とても暇でして」
「やった! 待ってて下さいね、ロランさん!」
「手伝いますよ」
「い、いいですよ、そんなのっっ!」
ロランさんは慌てるあたしにやさしく微笑んでいた。
なんて温かい人なんだろう……。
あたしはロランさんと一緒に、パンが焼けるまでの穏やかなティータイムを楽しんだ。
恐れ多くてそういうつもりにはとてもなれないけれど、ロランさんを雇えたら凄く楽になるだろうなぁ……。
でもそれはホリンが許さない。
ホリンの大好きなロランさんを横取りしたら、恨まれそうだから止めた。
嘘っ、あたしのパン凄すぎっ!? 初期村のパン屋さんは、滅亡のプロローグを生き抜くために今日も村人をこっそり強化します ふつうのにーちゃん @normal_oni-tyan
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