侵略の使徒
かくして時間は元に戻り。
獄牙討伐の打ち上げまで、時間が進む。
そして、私はかれらに自分の行ったことを説明した。
具体的に言えば、偽双子の偽養子問題から、新機教のデザインベビーばらまき潜伏事件、さらには今なおそれがこの世界通り及び十三地区でも進行している。
その事実についてだ。
「え~、いいないいなぁ。
完成度の高いデザインチャイルド!
罠だとわかっていても、うちで引き入れた~い♪」
「あ~、あいつの息子、いや娘は今そんな風になっちゃったかぁ。
いやまぁ、新機教の傀儡になってはいないし、ギリギリ本人の意思だから……。
うん、まぁセーフだろセーフ」
もっともワーグとムーンに関しては結構適当、軽く流す感じで聞いていた。
「新機教がありとあらゆるところに、侵略しているのは何となくわかっていたからな。
もちろん、それは我がクランの何人かは新規教のスパイであることは理解している。
だからまぁ、ある程度覚悟していたというのが本音かな」
ワーグが、高級オイルを飲みながらそうつぶやく。
確かにワーグのチームはこの十三地区で最大のチャレンジャーチームだ。
それゆえに彼のチームにスパイが潜入していないわけもなく、おそらく彼のチームはもしスパイがいても大丈夫なように活動しているはずだ。
「私のチームに関しては、むしろ多分一番潜入しているでしょうね。
基本生身の人間中心の情報系チャレンジャーチームに過ぎませんし。
人間の多さや横のつながりの薄さゆえに、どのくらいの割合なのかわかりませんが」
「にしても、記憶封印に頭に爆弾ねぇ。
……思ったよりも数倍はえげつない戦略ね。
確かにこれは、狙われた云々は別にして、2番君が怒るのはわかる気がするわ」
もっとも、予想はできていても、新機教に対して思うところがある。
大体そのような反応が見受けられた。
「でも、実際のところ、新機教のところから養子トラップをかけれたのはわかったけど。
解除できたらしいし、それで終わり!
……というわけにはいかないのよね?」
「でしょうねぇ。
でなきゃわざわざ、こんな密談なんてしないでしょうし」
察しがいいようで何よりである。
ムーンたちの言葉に従い、こちらはとある資料を取り出す。
そこには少なくない人物たちの、名前と特徴、所属に住所などが事細かに記されていた。
「この資料はもしや……」
「こちらができるだけ調べた、新機教の手先である者たちだな。
残念ながら、自爆コードとかは直接機械にかけなければわからないが、それでも自爆タイプのESP波長の解析自体はできているからな」
そうだ、件のマナを含め多くのメイド達からの報告により、新機教から配られたデザインチャイルドたちの自爆方法が判明したのだ。
そこにアカイとアオリという実物まであるため、脳内に新機教の自爆型ESPが仕掛けられているかどうかの脳波を読み取るセンサーを作ることは、そこまで困難ではなかった。
「……ねぇ、この資料を信じるなら、私の組織の。
しかも、班長クラスまで新機教の手先ってことになってるんだけど」
「まぁ、自覚なしで記憶がうまく蘇っていない場合もあるらしいからな。
こちらが調べた感じだと、記憶がうまく蘇らなかった場合は、そのままずっと無自覚の場合もあるらしいぞ」
「……この資料を信じるなら、十三地区だけで軽く1000を超える新機教のスパイがいることになるんだが、これを信じろと?」
「あくまでこれは、頭に爆弾が仕掛けられている分だけだからな。
それ以外の単純な新派もいれると、その20倍以上いてもおかしくはないと思うぞ」
しかし、それでもこちらの渡した新機教についての情報は驚くべきものであったらしい。
ムーンとワーグはその資料を苦いものを見るような目で見ており、チアは感心したかのような眼でこちらを見つめてくる。
「実際この資料はある程度の信頼性はあると思いますがね」
「それは、おまえがこの男の事を信用しているからか?」
「いえ、そうではありませんよ。
実はこれらの人たちには、ある特徴が一致しています」
「それは美形が多いってこと?」
「そうじゃありません。
それはこの人たちが、どこかしらでとある運送会社に関わっているということですね」
チアも自身の持つ端末を操作し、とある会社についての資料を呼び出す。
するとそこには世界通にある、とある一軒の運送会社についての情報が示されてた。
「運送会社【重力のイド】。
……サイサカ外部だけではなく、他大陸の都市や火星、月面都市との交易も行っていると。
ふ~ん、たしかにこれは匂うけど……」
「言いたいことはわかる。
そうだ、理屈は通っているのだが……な」
チアの追加の証拠に信頼度の増す資料。
しかしそれでも、ムーンとワーグの反応はよろしくない。
「つまり、先輩はこれを機に、我々4人でこの十三地区に潜む新機教を一掃する!
そういう密談のためにここに集めたわけですね!」
チアが、周りに空気を読まずそう高らかに宣言し……。
「いや、そんなことできるわけないじゃん」
「ええぇぇ……」
それをきっちり否定させてもらった。
「あら、ちがうの?
話の流れからしてそうだと思ったんだけど」
「うむ、聞いたところ、お主はかなり新機教にいら立っておるのだろう?
なら、ここでつぶすとかそういう提案をすると思ったんだが」
チアのセリフに続き、ムーンとワーグも言葉をつなげてくる。
が、チアのそれとは違い、この2人の声色には安堵の感情が強く含まれているのがよく分かった。
「それはな。
そこの彼女と違い、我はお主からの情報だけでチームを巻き込むほどの行動は起こせない故な。
それに、真実であれ嘘であり、我がチームの一員を勝手に新機教からのスパイ扱いされてしまってはな」
「それについては同感ね。
仲間意識の薄いハロワと違い、私やワーグのチームは仲間が疑われたら守る必要があるもの。
たとえそれが、本当に新機教からのスパイであったとしても……ね」
「そ、それは仕方ないでしょう!
あくまで私が作ったチーム・ハロワはあくまでただの互助会みたいなものなんだから!
チームというよりは、あくまで生身に近い人間チャレンジャーの支援がメイン。
むしろ、毒は積極的に抜いていかなきゃいけないんだから」
チアが、ワーグとムーンの二人からやや嫌みを言われつつ、それに反論する。
ともかく、いくらこの2人といえど、チームのボスという立場上、もしこちらがこの地区の新機教を積極的に排除するといっても、それに対してはいそうですかと協力してくれないだろうことは、予想はついていた。
ましてやその情報源が、こちらが調べたものという、完全にこちら手動のものだけならばなおさらだ。
「それに実際今回の件で、こちらに協力するのはこちらとしても少し申し訳なくてなぁ。
そもそも、向こうにこちらが探っているのがばれて、脅迫状が届いてきたからね。
探りすぎると、やばいことするぞって」
「え、なにその話、しらない」
「つまりは、そいつらはチャレンジャーそのもの無礼てるっていうこと?
これは、わからせ案件なのでは?」
「あ、いろいろと気がかわったぞ。
やっぱり、チームとしては無理だが、我個人では普通に協力してもいいか?
具体的に言えば、その脅迫状を出したとかいうクソ野郎の場所へのカチコミとか」
突然の、ワーグとムーンの手のひら返しに少し驚きつつも何とか二人の暴走を落ち着ける。
もちろんこの2人が、新機教への対策で積極的に仲間になってくれるのはうれしい。
だからといって、これほど大量の新機教関係者が十三地区にいる状態で、彼らと協力して新機教との全面抗戦などしてしまったら、一気にこの地区そのものが大混乱。
それはこちらとしても、いろいろ困るというのが本音だ。
「だからこそ、ここにいる3人には、直接この件について協力してほしいわけじゃない。
むしろその逆のことをしてほしいんだ」
「……ん~、なんだかお姉さん。
いやな予感がしてきたんだけど?」
「奇遇ですね。
先輩がこういう話をするときは大抵本当に、ろくでもないことなんですよ」
女性人二人が苦い顔をしている中、ワーグはその逆に何かを察したのか、むしろ面白そうな顔をする。
おそらく、この三人はこちらが何をするのかについて気が付いたのだろう。
だが、残念ながらこちらとしても本気だ。
自分の十三地区の立場改善のため、さらには、十三地区そのものの体質改善のため、新機教に少しお灸をすえるため。
自分はその作戦概要と実行日を彼らに伝えることにした。
「それじゃぁ、当日はいい感じに頼むぞ」
「はいはい。
……はぁ、まさかこんなめんどくさいことになるなんて」
「まぁ、でも必要そうなことですし?
協力はするわよ、協力は」
「がっはっはっは!
了解了解!!それじゃぁ当日は、ばっちり任せろ!」
かくしてこのチャレンジャーギルドビック7、内4人により行われた密談は無事に終了。
おのおの複雑な感情を抱えたまま帰路に就くのであった。
◆◇◆◇
そして、それから数日後。
作戦実行日。
なんと、何も知らない一般人たちに向かって、無数の暴走メイドの群れが!
「ヒャッハー!!!新鮮な人間だぁ!!」
「お前もメイドにしてやろうかぁ?」
「かわいいねぇ、かわいいねぇ。
メイドになったらもっときれいになれるよぉ」
「ごきげんよう皆さん。
これも大ご主人様のご命令故。
今から、あなた達をメイドにさせていただきます。
……お覚悟を」
かくして、その日。
十三地区および世界通りにおいて、メイドによる人狩りが開始。
メイド達のメイド達によるご主人様のための凶行が勃発することになったのでしたとさ。
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