超高性能ポンコツアンドロイド


さて、激闘の模擬戦等の後も角付きの性能チェックは続いていく。

簡単なペーパーテストから射撃訓練。

暗記テストに暗算力試験。

さらには、教養試験から味覚テストまで。

その様にさまざまな試験を続けた結果、この他称高性能アンドロイドについて、一つの結論が出ることとなった。


「そうね、つまりこの娘は……、高性能なのには間違い無いけど、その技術力を使って、できるだけ低性能に。

 つまりは電脳的性や運動適性を意図的に落とされている特別なアンドロイドであることがわかったわ!」


「えええええぇぇぇ!!」


でしょうね。

この角付きアンドロイドは確かに身体自体は非常に高性能であり、なおかつオーダーメイドなのは間違いない。

しかし、残念ながら頭の中がそうではなかった。

肝心の行動を決めるプログラムというか、OSと言うか、ともかくその高性能な体や電脳を生かすための電脳そのものが、非常にポンコツであることがわかったのであった。


「というか、ここまで徹底してアンドロイドの電脳特性をつぶしている作りはむしろ関心までするわね。

 最高品質の人工皮膚に、超高性能センサー。

 超高容量のメモリや、最先端修復機構。

 ……そして、そんなすべてをよさを台無しにするびっくりするほど悪すぎる電脳ソフト適性に、読み込み速度!

 例えるなら、最新鋭の超高価なパソコンの癖に、OSとソフトがゴミみたいなものね!」


「あううぅぅ……」


余りの無慈悲な分析に、ポンコツアンドロイドが思わずただうめくだけしかできない。

でも、さすがに、それは言い過ぎでは?

いや、事実だと言われんとそうやなとしか言えないが。


「……まぁ、あれだな。おそらく前の主人はアンドロイド差別者とかサディストの類だろうなぁ。

流石にこのレベルの電脳ソフトの構造欠陥は、後天的に直せるもんじゃ無いし、むしろわざとこう言う形にしたんだろうな。

 ボディや神経自体は、本当に高品質ではあるだけに……なぁ」


「え、えっと、そ、そんなに私ってポンコツですか?

 こう見えても結構頑張って試験を受けていたんですが」


「……まぁ、かわいそうだけどデータだけで見るとそうね。

 勿論あなたの努力は認めるわよ?

 でも、ちょっと結果が伴っていないと言うか……。

 アンドロイドとして、いやサイボーグと比較しても、電脳接続による作業学習やデータダウンロードができないとなるとねぇ?」


チヤはそう言いながら、改めてこの角付きから得られたテスト結果を確認していた。

でもまあ、その内容は何度読み直しても変化するわけはなし。

オーダーメイドクラスの超高級アンドロイドをこんなしょうもない改造を施したうえで、専用製造するとは……。

しかも、そのバグのせいで電脳周りにバグが多いし、おそらくそのせいで、記憶の消去関係すらうまくいってない。


「でもまぁ、いっか。

 これなら、これでやりようがあるからな」


「ほぇ……?」


ボケっとしながらも困惑顔でこちらを見返す角付きに、少々驚き気味の顔でこちらを見るチア。

まぁ、確かにこの角突きは普通の高性能アンドロイドを雇いたい人やそれを仲間にしたい人にとって見れば詐欺みたいなものだろう。

アンドロイドがアンドロイドたる、器用万能や高速適応ができないのであるのだから。


「でもまぁ、そもそも俺がコイツを向かえ入れたのは、別に即戦力や仕事仲間が欲しいって理由じゃないからな。

 それに、通常学習程度なら問題なくできるんだろ?

 なら問題なし問題なし」


「ご、ご主人様……」


角付き偽アンドロイドがこちらに熱い視線を向けてくる。

しかもわざわざ、疑似涙腺機能や義眼による泣き我慢表情を付けてまで。

いや、別にこれそこまでの事じゃないからな?こいつがポンコツなのは拾ってきた時からわかっていたし、なんなら健康診断の段階でも察してはいた。


「いいの?

 一応、経営者的な視点で言えば、その子の電脳OSやソフトさえ一新できれば、それだけでまともな高性能アンドロイドになれると思うんだけど?」


「ばかやろう、それって人格消去や記憶障害とか、感覚変化を伴う可能性が高いやつだろ。

 さすがに、やらんわ」


なぜかこちらに、甘えるようにすり寄ってきた角付きを程よくいなしながら、チアの意見を否定しておく。

いくらポンコツでも、一度雇ったアンドロイドの記憶消去とかはちょっと趣味ではないし、こいつの性格自体はまぁ嫌いでもないし、下手に五感が変化でもされたら、こいつの個人的利点がほぼ消えるだろうし。


「要するにこいつが、ポンコツなのは電脳関係だけそれが知れただけで十分だ。

 それに、通常学習能力や暗記力に関しては、普通のアンドロイドに比べてはるかに低いだけで、ないわけじゃないとわかったからな。

 運動神経が飛びぬけて悪いだけで、運動性能そのものが悪いわけでもない。

 対応力が低いだけで、感覚器やセンサーはどれも一流以上なんだ。

 なればこそ、あとは時間をかけて覚えさせていくつもりさ、普通の人間みたいに」


「ご主人様……」


「と、言うわけで今日からよろしくな!角付き改め、ミドリノ・ムシコ!」


「ご、ご主人様!?!?」


いや、ほとんどのテストが最低値だったから仕方ないだろ。

しかしながら、この命名に関しては、流石にチアによっても止められてしまった。

かくして、あらためて、この巻き角擬アンドロイドの名前を名前を考えさせられることになったのでした。



◇◆◇◆


「えっへへ~♪

 コノミ、コっノミ~♪」


「いや、まともな名前が決まってうれしいのが分かるが、

 さすがに道中で歌うのはやめろ。

 ご近所迷惑だろ」


「は~い♪」


名前が手に入れられて明らかにうれしそうな角付き、改めコノミ。

正直その名前は、ミドリノムシコの最初と真ん中、それに最後の文字を逆転させたものであったりするのだが……まぁ、本人が嬉しそうだから、いいか。

そんな考えを抱きながら、十三地区の住宅街へとやってきた。

この辺はもともと治安はかなり良かったが、先日の宝玉の庭との約束のおかげで、遠目にも何体かアンドロイド官兵を視認することができる。

流石仕事がお早い。


「……というわけで、ここが俺の家だ。

 まぁ、残念ながら借家だがな」


「お~、ここがご主人様の住む家ですか!

 というか、ビルやらマンションじゃないんですね!」


「まぁ、仕事柄な。

 ほれ、さっさとついてこい」


そうして、今現在自分が住む拠点へと彼女を招き入れることにした。

本当は、もう少し素性やら安全を確保したうえでがよかったのだが、宝石の庭の仕事がクソ早かったため、自分としても角付き改めコノミの受け入れを焦らすわけにいかなかったというのが本音だ。


「と、いうわけで、まずはこの家にあるものについて、順番に説明していくぞ。

 ……本来なら、電脳電子データにもまとめているが、残念ながらそっちの適性はうんこみたいだからな。

 口頭で説明していくから、ちゃんと忘れずに覚えるように」


「はい!」


かくして、私はコノミにこの家についてある程度の紹介をしていく。

私も荒事有のチャレンジャーゆえ、いくつかの部屋には危険な爆発物やら銃器が保管されていたりもするのだ。

そういう危険回避のためにも、この家の雰囲気を覚えるためにもこれは必要なことなのだ。


「こっちがまず第1機械室。

 現電脳ネットやオールドネットに接続やそれに関する機械が置かれているな」

「はい!」


「こっちがまず第2機械室。

 正規のドローンやサイボーグのパーツが置かれているぞ」

「はい」


「こっちがまず第3機械室。

 こっちはその他ジャンク機械や普段使いの機械が……」

「……はい」


「こっちが、第2作業室で……」

「いや、こっちが第4倉庫で……」

「こっちが……」


「……いや、これ、全部一緒では?」


「違うのだ!!!」

『これだから、素人はダメなんだ!』

「えっ!今の声誰!?」


おもわず、自動機械と一緒に声を大にしながらそれを否定する。

まぁ、でもそう言いたくなる気持ちはわかる。

本当にはたから見たら、無数のスクラップや機械が山積みになっている部屋が連立しているだけだからな。

きっちり場所や区分を分けているが、適当に集めてきたものをため込んでいる事実自体は否定しないし。


「でもまぁ、俺は自分でドローンやら作業機械を作る系のチャレンジャーだからな。

 これらの道具は全部俺にとって必要な仕事道具で、大事な資源であるわけなんだ」


「は、はえ~!そ、そうなんですか!」


そうだ、だからこそ自分は、一人暮らしなのにわざわざこんなクソでかい物件を借りているし、それを有効活用しているのだ。


「お~!これは、ホラー映画で使うゾンビ風アニマトロニクス!

 こちらは、ジュースサーバー、100種類の味から選べる!?すごいです!!

 こちらは……勲章?ワッペン?本当にいろいろありますね~。

 本当にこんなにいろいろ使うなんて、チャレンジャーの仕事って本当に大変なんですね」


「……ソウデスネ」


「なんで、片言なんですか?」


いや、本当に使うときは使うんだよ。

こういう一見デスストックとも思える道具の中でも、いざというとき必要だったりするからなぁ。

時々変な探し物依頼とかで役立つ場合が多いし。


「……わかりました!つまり、私のこれからのお仕事は、これらの倉庫の整理やアイテムの点検!

 そういうわけですね!」


「え、やだ」

「やだ!?」


おっと、言い間違えた。


「あ~ん~、これらの倉庫のアイテムは基本、俺が作った自動機械やドローンが整頓しているからな。

 しかも、素人に扱うには危険なものが多いから、あんまりむやみに触れてくれるなよ。

 掃除や整頓もそれ用のドローンがいるし」


「あ、はい」


コイツも納得してくれたようだな。よし!

その後もコノミを連れつつ、この家の間取りやいくつかの注意点について解説していく。

一通り家の紹介が終わり、晩御飯を取り、食事をとる。

そして、そんな晩御飯の最中、コノミはこんなことを言ってきたのであった。


「この家については、大体どのようなものかはわかりました!

 でも、結局のところ、私のお仕事って何ですか?」


「……なんだろうね?」


「えええぇぇ…」


コノミはそうやって大げさに叫ぶが、残念ながらこれは事実だ。

なぜなら基本今の自分の家の環境は、大体は自分と自分の作った自動機械やドローンで完結しているからだ。

もちろん、もし彼女が何らかのスペシャリストや正規の高性能アンドロイドなら、何らかの仕事を任せてみるのもいいのだが……。

電脳関係が、あまりにもお粗末すぎるからそれも望み薄だ。

そもそも彼女を受け入れたこと自体が、あの宝石の庭からの支援を受けるための方便みたいなところもあるし。


「まぁ、今は特にはないが……。

 その仕事自体を探すのが君の仕事といえるかな」


「こ、これはつまり、私の有用性を証明しろとか、そういう流れ、そういう試験ですね!」


なんか勝手にいい風に解釈してくれているが、まぁ基本は問題ないだろう。

こちらとしても、彼女が元気にしていればいているほど、宝石の庭から継続的な支援を受けられるし、彼女自身が満足しているのならそれこそ二重丸であろう。


かくして、この新しい入居人コノミと自分の共同生活が始まるのであった。



◆◇◆◇



なお、後日。


「あれ?何をしてるんですか?ご主人様?

 趣味?Live配信?マイナーチャンネル?はえ~、そんなのがあるんですねぇ」


「おお~!何か面白いもの作ってるじゃないですか!!

 これはこれは!……はぇ~、そんなのが!」


「えぇ!うるさいから、私用の配信機材を作ってくれる!?

 いいんですか!!ぜひ!!」


「おお~!これが電脳チャンネル!

 これで配信が……ふぁっ!ああ!人が来ています!どうすれば、どうすればいい感じですか!ご主人様!」


「えっと、確かこういう時はチャンネル登録、ありがとうございます!

 よろしければ、こっちのビリるね!も押して言ってくれると幸いです?……でいいんですよね!」


「おお~!ご主人様ご主人様!

 登録者数がこんなに伸びました!これで、ただ飯ぐらいから脱出できます!!」



◆◇◆◇



かくして、コノミが我が家にやってきてから早2か月。

コノミは、電脳ネット配信者として収入が得れるまでになり、この家における彼女だけの仕事を見つけるのに成功したのでありましたとさ。


「でも、初めて2か月で、主人である俺のチャンネル数の10倍以上行くのは普通にずるなんだよなぁ…。

 不敬すぎるのでは???」


「いふぁい、いふぁい!!」


別にこれは嫉妬ではない、ただの教育である。

やっぱり、男と女じゃ、視聴者数にも影響が出まくるんだなぁ。

そんなことを思いながら、この高性能アンドロイドモドキの高品質もち肌頬を引っ張るのであった。







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