今日のプロフェッショナル
さて、件の電脳体ハッカー連続襲来から数日後。
とり合えず表面上はハッカーによる連続被害を何とか食い止めることには成功していた。
確かにあの日から今まで、連日無数のゴーストやハッカーがこちらの領域へと侵入を試みようとしてきてはいる。
が、幸か不幸か、そいつらは基本数だけ多い雑魚ばかり。
一応はハッキング能力自体は持っているが、それでもその道の一流とは言えない奴らがほとんどであった。
だからこそ私は、ゴーストみたいな完全に人権のないやつらは売り払ったり、中身のあるやつらは身代金やら賠償金、ケジメなどを払ってもらうことにより、最低限の出資で最大限の利益が得れるようなシステムも構築することができた。
災い転じて福となす。
かくして私は無事に、この雑魚ハッカー連続襲来事変を収益へと変換。
コノミの配信と我が家のプライバシーも守りつつ、収益も手に入れる。そんな素晴らしい生活スタイルを確立したのであったとさ。
「でも、このままだと、クソハッカー狩りが忙しくて、まともにギルドの仕事ができないし、何なら配信もできねぇ!!!
どう考えても大損です、本当にありがとうございました!!」
「えぇ……。
それって大丈夫なの?」
場所はチャレンジャーズ・ギルド・カフェ。
そこのとある目立たない席の一角で、私はチアと2人で軽い昼飯を楽しんでいた。
なお、今回は偶然ではなく、呼び出し。私のほうから彼女に食事に誘ったという形である。
「正直あまりよくないな。
ハッカー狩りは、そもそもゴースト加工やゴースト売り、身代金要求だって、仕事とはいえないダーティな儲けだ。
それを恨まれないようにやっているから、証拠隠滅のための費用や時間もかかっている。
単純な時間効率的儲けで言えば……まぁ、いつもの仕事の6分の1くらいの儲けかな?」
「クソじゃない」
「しかも、基本ハッカーがいつ攻めてくるかわかんないから、24時間体制で信頼できる奴に見張りを任せている。
そのせいでお金がさらに溶ける溶ける」
「超クソじゃない」
女の子がクソクソ言うんじゃありません!
しかし、それでも自分の愚痴に付き合ってくれる彼女には感謝しかない。
このこんなしょうもないハッカーや迷惑ゴースト共のせいで、自分の配信できず、ギルドの仕事もまともにできない。
こんな事態に巻き込まれている身としては、どこかしらに愚痴りたかったのだが、残念なことに今このことを話しても理解してくれる相手は、彼女ぐらいしかいないのだ。
チアちゃんが、理解ある彼女でよかったよぉ……。
まぁ別に付き合ってるわけでも、何でも関係だが。
「……このままだと、ギルドの仕事ができなくて、大家さんから家から追い出されちゃうかもな~。
貢献度が足りなくて、十三区から追い出されてな~、他地区で働くことになるかもな~」
「……へぇ、それじゃぁ私の家に住む?」
「え」
「あなたならいいわよ?
大丈夫、私の家に空き部屋は多いし、そもそも私はちゃんと持ち家だし。
ああ、コノミちゃんと一緒でも大丈夫よ。
貴方たち主従共々受け入れるだけの度量も収入も持ち合わせているもの。
ほら、何も問題ないでしょ?」
いかん、どうやら藪蛇だったようだ。
調子に乗った自分の発言の隙をつくかのように、テーブルの下では彼女の足先がこちらの足を絡めとる。
チアは目を細めながら、舌をチロリとこちらに見せ、まるで獲物を見つけた蛇のようにこちらへと笑いかける。
その妖艶な視線により、こちらが固まってしまい、静かに彼女はその指先を伸ばし……。
「そんなくだらない冗談はいいから、さっさと本題に入ってくれる?」
「はい、ごめんなさい」
そして、デコピンされてしまった。
よかった、彼女は自分が思ったよりもだいぶ理性的なようだ。
ここは変に話がこじれる前に、さっさと本題に入らせてもらうことにしよう。
「……ふ~ん、で、これがあなた達を狙う無数の侵入者ハッカーから手に入れた。
その資料や口座データ、というわけね」
「そうだ。流石にうちのアンドロイドがいくら新人の中でもことさらに有名な配信者になったとはいえ、あそこまで連日狙われるのはおかしいと思ってな。
調べてみたら、どうやら黒幕がいるみたいなんだ」
チアがパラパラとその資料を確認しているうちに、説明を続ける。
つまりはここ数日に続く謎のハッカー集団の連続攻撃は、そのほとんどが、誰かに依頼された、いわゆる雇われハッカー集団によるものであったのだ。
だからこそ、彼らはほとんどが一定実力は持っていながら、同時に二流以上の力を持たない、その程度の奴らばかりであったわけだ。
「見たところ報酬も相場のちょっと下…。
いえ、電脳生命がかかってるにしては、激安といっていい値段ね。
こんな値段で、あなたの城に突撃させられるなんて、ご愁傷様。
それで?あなたはこの情報を私に渡して何がしたいの?」
「この黒幕の居場所を、特定してほしい」
そして、私は彼女に依頼を出した。
「……まぁ、これだけ情報があればできなくはないけど。
それでも、安心安全正確さを考慮すれば、2日くらいは欲しいわね。
それに、この程度ならあなた一人でもなんとかなるでしょ?」
「データの抜き取りや収集はそうだが、集めたデータの分析や解析は、専門家に任せるに限るだろ。
それに今回はできるだけ早く、終わらせたいからな。
下手したら、家から追い出されて……ごめんなさい、なんでもないです。
だからその眼はやめて」
チアが一瞬細目でこちらを見てきたため、急いで言葉尻を訂正する。
あぶねぇ、以前はこの手の冗談はもう少し軽くスルーしてくれていた気がするが……。
なんかこう、今日の彼女は強いな。
迂闊に間合いに入らないようにしなければ。
「……ま、そこまで頼られたら、こちらとしてもやぶさかではないわ。
でも、わかっていると思うけど、私の仕事は安くはないわよ?」
チアはそういいながら、席を立ち、その衣服を整える。
その手はテーブルに、足先は外に、しかし意識は事らに向けてくる。
「わかってる。
報酬に関しては、相場以上のを用意した。
もちろん、素早く終わらせてくれれば、報酬の倍額も……」
「そんなものいらないわよ。
それより、このあといつもの格好で、私の家に来なさい。
……今夜は寝かせるつもりはないから」
「しっかり、報酬分搾り取ってあげる♪」
そうして彼女に手を引かれながら、私達はカフェから外に行き、そして、しかるべき準備を整えるのであった。
◆◇◆◇
「というわけで、戦闘用から偵察用、作業用まで!
きっちり全部修理と改造をしてもらうわよ~♪」
かくして場所はいどうして、チャレンジャー・チアの個人事務所。
そこの作業場にて、無数のドローンに囲まれることになった。
そのドローンは、偵察用の飛行ドローンから、拠点防衛用ドローン、マイナーな潜水仕様のものから、電脳戦サポート用ドローンまで。
ありとあらゆる種類のドローンがそこには陳列していた。
「いやいやいや、言いたいことはわかるが、流石に全17種は多すぎではないか?
それに、明らかに修理じゃなくて、改修が必要なのも多いし」
「あ、なら、改修後の仕様書や領収書もお願いね。
でも、それに関しては適当でいいわよ、私の方で勝手に計算や解析しておくから。
そのかわり、整備の方で手を抜いたら……ま、あなたに関してはその心配は無用か」
う~ん、なかなかの無茶ぶり。
というわけで、今回の依頼は自分が彼女にデータの解析をしてもらう代わりに、彼女の手持ちのドローンを修理するという結果に収まった。
この業界では助け合いや、仕事の報酬を別の仕事で返すことは多い。
実際今まで彼女と自分は度々このような取引を行ってきた関係だ。
が、それでもこの量のドローン一斉修理は久々の大仕事である。
でも言わせてくれ、この量は、さすがに業者に任せた方がいいのではないか?
「こんな命を預ける大事な仕事道具の整備を、信頼できる相手以外に任せられると思う?」
う~ん、うれしいことを言ってくれる。
「それに、ここにあるドローンの半分はあなたがくれたオリジナルドローンじゃない。
それを一般の機械修理業者ごときが直せるわけないでしょ」
ですよね。
「あ、それと私の方の仕事は、多分明日の朝には終わるからね。
できればそれまでに終わらせといてくれると嬉しいんだけど。
できる?」
「まぁ、ちょっと量は多いが、この程度なら問題ないな」
「そ、流石ね。
それじゃぁお互い、やるべきことをやりましょう!」
かくして、私と彼女の共同のようで分業の作業が始まったのであった。
「ご、ご主人様、チアさん。
このドローン君すごいです!!
まるで、鳥になったみたいに動かせます!」
「へぇ!その子に目を付けるとは、なかなかにお目が高いわね!
その子は、あの人がくれた2番目のドローンなの!」
さて、作業を始めてから早数時間。
こちらは相変わらずのドローン修理中だが、チアのほうは現在は、作業がひと段落しており、機械の方で演算任せ作業中。
その間に、ドローンを挟んでコノミと仲良く談笑中というわけだ。
あ、コノミは当然こちらの方で連れてきました。
今は謎の黒幕に狙われているんだ、それくらい当然である。
「このドローンはねぇ。
私みたいな電脳改造が最低限の人でも、楽々操作できるようになってるのよ。
オートジャイロやオートエイムが、市販品や何なら軍用にも負けないレベル!
センサーの種類も多いし燃費もいい。
チャフや光学銃の妨害にも強いと、これに慣れちゃうと、やっぱり他のは無理なのよね~」
「ほわぁぁぁ……!!」
しかしながら、安全のためにコノミを連れてきたはいいものの、当然彼女は機械修理なんてできないし、データ解析も無理だ。
初めのほうはお茶くみや掃除の手伝いなどをしてもらったが、それでも1時間もすれば大体やることがなくなり、ならば修理が終了したドローンの動作チェックを彼女に任せたというわけだ。
「外に飛ばしてみていいですか?」
「もちろんよ!その子にも、私以外からの操作感を検証してほしかったもの。
折角だから、それでこのサイサカ一周旅行してみる?
その子のステルス機能なら、鳥や乞食程度では発見することすらできないでしょうしね」
にしても意外なのは、あのいろいろとポンコツなコノミではあるが、ドローン操作だけは、まぁそれなり以上にはできるという点だ。
どうやら、このポンコツアンドロイドは自分の体を動かすことは、びっくりするほどへたくそだが、ドローン操作についてはその限りではないようだ。
「あぁ~!これ、撮影機能までついてるんですね!
えへへ、これで撮った写真を配信で使ってもいいですか?」
「私が言うべきことじゃないけど、流石にそれは、身バレが怖いからやめておきなさい。
厄介ファンに絡まれたら、めんどくさいことになるわよ」
「は~い……」
それにしても、この2人は普通に仲良く話せている事である。
私個人の予想としては、、チアは軽くアンドロイドやサイボーグを警戒しやすい気質であるため、いろいろと不安であったが…どうやら、こちらの杞憂であったようだ。
「お手!」
「…?はい」
「おかわり!」
「……はい!」
「よし!いい子いい子」
いや、あれはアンドロイドやサイボーグという分野ではなく、ペットとか子供とか、そういうのに分類しているからか。
正直、真の友情かどうかと聞かれると微妙だが、それでも心を開いてくれたのは、まぁこちらとしてもいろいろとありがたい。
「うぅ~、私も自分専用のドローン欲しいなぁ…」
「あら、コノミちゃんまだ持ってないの。
意外ねぇ、この人の事だから、結構あっさり上げてると思ったんだけど」
「……そいつには、配信機材渡してるから、それ以上の出資はNGだ」
「へ~、というわけらしいわよ。
残念だったわね」
「え~…そんなぁ」
かくして、仲良く遊んでいるコノミとチアを背後に、黙々と作業を続行。
2人の会話を尻目に、作業を終わらせるのであった。
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