ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲


「きっ、ひひ。

 きひひひひひ!」


陰気な空気と無数のオイル臭。

さらには、周囲のパイプから聞こえる無数の蒸気音。

巨大復興都市サイサカの地下の万国通り。

この都市では特に珍しくもない危険地帯の一つであり、特にいろんな人種が住んでいることで有名な場所である。

それは、サイボーグやアンドロイド、超能力者という区分だけではなく、元南米出身やヨーロッパ出身に中東生まれ。様々な場所から集まった人々が住み、各々が自分の母国語や方言で話す、そんな場所である。

一説によると、この土地がこのような多国籍な場所になった理由は、この地を復興させる際に集まった多国籍復興支援団体が、そのまま居ついてゲリラ化したとか。


「………」


まぁ、そんなどうでもいい真実はさておいて、この場所に来てしまった当事者としてただ一つ言えることは、この場所は基本治安がクソだということだ。

もちろん、人が住んでいるし、サイボーグやアンドロイドもいる。

警備用の自動ロボもいるし、この万国通りにはいくつかの団体が各々警備部隊を出していたりもするらしい。


「けっひっひ、そこの兄ちゃんよぉ……

 ちょっとこっち来いよ」


しかし、それでも、ここの治安は最悪なのだ。

無数の用途不明な地下道に、翻訳機すら誤作動を起こす無数の言語。

所有者や所属団体すら不明な物件が無数に存在し、外国というバックがいる関係で、他地域の自治体や管理機械ですらまともに手出しできないのだ。

そのため、この地では持ち主不明の怪しい薬や、用途不明な機械類、聞いた事もないような団体とのコネなどごくありふれたものだったりする。

凡そまともな一般市民なら、ここには近寄らず、もしこの通りに入ったのなら、翌朝死体に変わっていても文句を言えない。

それがこの万国通りにおける常識である。


「……」


「おいおい、無視してんじゃねぇよ!

 おめぇの事だよ!おめぇの事!」


だからこそ、再びここにやってくるのには、それなり以上の覚悟が必要であった。

しかも、今回は荒事を警戒してそれなりの装備を整えておいて、なおこの状態なのである。

こちらに話しかけてきた謎の浮浪者は恐らくはサイボーグなのだろう。

頭部の半分が機械部分でむき出しになりながらも、残り半分は人間の生身のそれながら、ひどいあざやシミ、しわがよっている。

合金歯と普通の歯と差し歯がまだらに並んでおり、ぼろぼろの上着の下には、下に何も履いておらず。

原形をとどめていない人工精器や人工臀部、そして指すらない機械義手。

まさか、この地に来て早々に危険で、危なそうなサイボーグに絡まれてしまうだなんて!


しかも、こいつ、よくみなくても、露出狂やん!!

サイボーグとか以前に、上着しかなくて、下を穿かず、なのに見せつけてくるって、これ別の意味で危険な奴じゃん!

身の安全のために、コノミは連れてこなかったが、これは別の意味で連れてこないで正解だったかもしれないな。


「ひひひ、兄ちゃん、悪いようにはしないから、ちょっとそこの裏路地に来てくれへんか?

 おじさんが、サービスしてやるから」


「……すいません、ちょっと今急いでるから……

 というか、自分金持ってませんよ?」


「金なんて必要ない!!

 ただちょっと兄ちゃん、生身多めやろ?

 だから、おじちゃんがバーチャルなS〇Xでお相手してやろうとおもってな!」


え、何この人怖。


「つまり美人なお姉さんの店の、お引きというやつですか?」


「なんで、兄ちゃんみたいなフレッシュでうまそうな獲物を、他に渡さにゃあかんのや!」


「……自分、男なんですが」


「そういうピュアな電脳童貞を、わからせて雌にするのがいいんだるおおおぉぉぉ?」


万国通りでは、危険なものが多いとか聞いたが、どうやらそれは命だけの問題ではなさそうだ。


「ほら、兄ちゃん!

 ぐへへへ、そんなお坊ちゃんの癖にこんなところにのこのこ来たのが運の付きだ。

 でも、大丈夫!おじさんは優しいからね、きちんと君みたいな生身多い子でも、気持ちよくできるほどのテクニックを……」


「ふんっ」


とりあえず、これ以上の面倒ごとは嫌なので、早速やるべきごとをやることにした。


「……ん?何だこの電脳オナホプログラムは。

 こんなので。この歴戦の性豪の俺様が満足できるわけ……おほ?あへええぇぇぇぇぇ♪♪

 なにこの、電脳デバイス、しゅごい、感度3000倍以上なのぉぉぉぉ♥♥

 おじさん、おんなのこになっちゃうぅぅぅぅぅ★★」


この変質者サイボーグの股間のキノコ型デバイスに生殖機能はない。

そのことだけはよくわかったのでした。



◆◇◆◇



「というわけで、質問があるから、さっさと起きろ」


「ふぉ、ふぉぉぉ……。

 すまん、すまんが、おじさん、まだ腰が抜けていて……。

 電脳部も、すっきりしたはずなのに、エネルギーもめちゃくちゃ減っていて……」


さて、あれからわずか数分後。

その間、この変質者は痙攣やら叫び声や汚い嬌声を上げ続けていた。

そんな表通りで行っていれば通報必須の出来事なのに、この万国通では特に誰にもとがめられることはなったうえに、人が近づいてくる様子すらない。

やっぱり、ここの治安はおかしいとよくわかる事例だ。


「……」


「ああ!まだ全身このバーチャルオナ……いや、バーチャルいちゃらぶのせいで敏感なんだ!

 やめてくれ、ううぅ、いまはそんな踏みつけでも感じてしまう!!

 6号君、これは浮気じゃな……おほおおぉぉぉ」


このおっさんの声帯がサイボーグだったら、せめてこの汚い叫び声だけでもなんとかできたのに。そんなことを思いながらも、こちらは仕事を続けることにした。


「……む?この映像は……おお!

 そうだそうだ、良く知ってるぞ!

 彼女、いや彼女たちこそ、最近この万国通で有名なアンドロイド娼婦だ」


かくして、自分はこの不審者にとある映像を見せて、その人物について尋ねることにした。

そう、今回の自分がこの危険地帯にやってきた理由はマンハントである。

しかも、相手はアンドロイドで複数、なかなかにめんどくさい相手だ。

幸いにも、この不審者は、どうやら自分の見せた画像に心当たりがあったようで、それについての情報を、ぽつぽつとしゃべり始めた。


「そいつらは、確か元々はどっかの組で専用娼婦をしていたとか、戦闘メイドだったとかいろんな噂はあるが…まぁ、そんなのはどうでもいいな。

 それよりもその娘らは、バーチャル限定とはいえ、最近はこの辺で格安で相手をしてくれるんだ。

 しかも、そのバーチャルでのお相手の仕方は、さすが娼婦用に最適化されたアンドロイドなだけあって、超超高感度だ!」


この不審者は、わずかに股間の金属デバイスを再膨張させながら、興奮気味に話す。

話を聞くに、私がいま探しているアンドロイドはそれなりにここでは有名になったアンドロイドのようだ。

写真に写るその女性型アンドロイドは人は選ぶが凛々しくも美しい顔立ちをしている。一部の趣味の男性や女性には非常に受けそうである。


「そうだ、俺も元々はそういうのに興味がなかったのに、それに襲われてからは、俺もすっかりヴァーチャルセックスにハマって……。

 あれ?俺はあんなことが好きだったのか?

 そもそも俺は、もっと高性能なサイボーグで、あれ?

 なんで俺はこんなところにいるんだ?」


が、どうやら今の自分の探しているそのアンドロイドは、なかなかに厄介ごとの可能性が高そうだ。

足元にいた不審者は、突如何かうわごとのようにぶつぶつ叫びながら、頭を抱える。

これは、この不審者が件のアンドロイド娼婦に何かされたのか、それとも単にこの不審者がやばいやつだからなのか。

色々と反応に困るところである。


「……悪いが今こちらはそいつらを探しているんだ。

 もし、そいつのいる場所に心当たりがあるのなら、教えてくれ。

 報酬はやるから」


「え、いや、でも……」


「とりあえず、まともな情報をくれたら、先ほどお前に挿入した電脳リフレプログラム入りデバイスを、お前にくれてやる」


「おっし、何でも聞いてくれ!

 思い出せることはすべて話そう」


かくして、その伝説の娼婦とやらの情報を語る不審者を尻目に、その探し人のデータを改めて確認する。


「……まさか、まじで不審者に売られて、娼婦になり果てているとはなぁ」


そのデータと画像。

そこには、わずか数か月前に、ここ万国通で出会った、あのコノミを追いかけていた4人の謎の女アンドロイド集団の姿が映っていた。



◆◇◆◇



まぁ、言われてみれば当然の話である。

数日前に、チアに頼んだ連続電脳襲撃犯の黒幕を調べてもらったところ、最終的に浮かび上がったのは、かつて自分がこの万国通でコノミを追いかけていた4人の女性型アンドロイドへと行きついたという話である。


『もっとも、万国通は電脳的には外部からアクセスしにくいし、この黒幕、その辺にいる不特定多数の浮浪者を経由して、あなたやコノミちゃんを襲わせていたみたいだけど。

 それでもこの4体があなたたちへのハッキングやクラッキング依頼をしていた主犯であることは間違いないわ』


チアは合成コーヒーを優雅に飲みながら、まとめたデータをそう解説してきた。

彼女曰く、彼女たちが真の黒幕とまではいわないが、おそらくこのコノミチャンネル襲撃事件の連日無差別依頼の主犯兼依頼主であるのは、この4人のアンドロイドであることは間違いないそうだ。


『万博通りに住む、元海外復興支援団体、現万博通りに住むマフィアの一つ。

 グレイツ・ローマ所属のアンドロイド。

 数か月前にちょっとだけごたごたがあったらしいけど、それ以外は普通。

 超能力や死者蘇生の研究をしている疑い……まぁ、この辺はどこもそうだから無視していいか』


どうやら、あのコノミを追いかけていた4人のアンドロイドは相当の厄介ごとであったようだ。

そして、その説で行くとあのコノミも、このマフィア出身になりそうだが……。


『コノミちゃん?少なくとも表のデータバンクでは出てきてないわね。

 少なくとも、過去の彼女や彼女の体が表世界にへまを残す何かをしたという情報はないわね』


それを聞いて一安心というか、でもそもそも、そんなマフィアの残党に追いかけられている時点で、手遅れというべきか。


 『……というか今回の私のお仕事は、データ解析だから。

 そういうハッキングやら、裏社会データまでは期待しないでよ

 これ以上知りたいのなら、あなたは自分の足で調べて、あるいはその元凶の必要があるわね』


たしかに、それは間違いない。

しかし、それでも相手が、マフィア相手だと、いろいろ準備が必要であるし、そもそも喧嘩したくないのが本音だ。

正直この情報だけで、コノミを引き取ってしまったことを後悔したし、なんで彼女が自分のとこに来たのか意味不明過ぎて怖い。

しかし、それでも一度彼女を拾って世話をすると約束してしまった手前、いまさらやっぱりなしで済ませられるほど契約というのは甘くない。

かくして私は悩んだ。

悩んで悩んだ末に、私はとある行動に出た。


『というわけで、うちで引き取ったアンドロイドがワンチャン、元やくざの娼婦かもしれんかったんだけど、どうしたらいい?』


『えぇ……』


かくして、私はこのことを素直に『宝石の庭』及び翡翠女氏へと連絡することにした。

こういう厄介ごとは素直に分割するに限るし、そもそもの元凶は彼女たちにアンドロイド支援団体のせいだ。

そうして私は翡翠女子と話し合った。

ものすごくよく話し合ったすえ、このような結論を出した。


『とりあえず、俺が実際に万国通に侵入して、件の黒幕が、どんなやつか。

 どんな様子だか確認してくるからその間コノミを預かっといてくれ』


『了解。とりあえず、無茶をしないで、情報だけ集めて戻ってきなさい。

 もし本当にやばかったら、私達の方でも手を貸してあげるから』


かくして、私は実際の小手で事態を収束させるためにも、黒幕である4人のアンドロイドの真意を探るためにも再びこの万国通へと侵入したのであった。

コノミの安全を確保し、きっちり準備を整えたうえで、だ。


「……しかし、我ながら無茶なことをしたなぁ」


だが、今回の事はいろいろと軽率だったかもしれないと今さらながら後悔している真っただ中だ。

確かにこの情報を聞いた時は、マフィアという明確な脅威を聞いたせいで気が動転していたかもしれない。

宝石の庭がこちらに協力的であり、そのせいで変に乗り気になってしまっていたかもしれない。

そもそも、連日の襲撃のせいで、金欠でありそこに宝石の庭が依頼として、万国通りの調査依頼を出してくれたので、それに飛び込んでしまったのも大きい。


「でも、流石にもう一度ここに来るのはなかったわ。

 本当になかったわ」


しかし、それらの条件が重なってなお、この万国通は本当にひどい場所であった。

無数の薬や銃、怪しい商人が闊歩しているのはまだいい。

肺に悪そうな蒸気や無数のオイル臭、何なら命の危機が割と頻繁に遭遇する点もまだ許そう。


「あへへへへへへ♪」


「うふぉっ♪いい生身人間、やらないか」


「きみぃ、いい体しているね!

 一緒に、電脳バトルセックスチームに入らないか!」


でも、流石にこの量の性犯罪系不審者の多さはどうなのだろうか?

その中の多くがいわゆる電脳セックス中毒者であり、話しかけるなり老若男女、サイボーグアンドロイド問わずセクハラをしてくる始末だ。

この万国通は、淫獄か何かなのだろう。


「いや、数ヵ月まではこの万国通ももう少しまともだったぞ?

 だが、あのスーパーセックスアンドロイドが現れてからすべてが変わってしまったんど」


「あいつらは、最小限の価格で、大量の人間やアンドロイドを、同時に多数相手することで莫大な金を稼いでいるんだ」


エナジックオイルを上がったそのサイボーグが苦虫を噛み潰した様な顔をしながらそう答えた。

どうやら、この万国通の性的風紀が乱れているのは今限定であるらしい。

それが、いいことなのか悪いことなのかはよくわからないが。

いや、自分の追ってる相手がその元凶なことを加味すると、普通に悪いことだな。


「しかし、気をつけろあの当たり屋娼婦型アンドロイドが供給してくれる電脳セックスは……いわゆる電脳ドラッグの一種だな。

 安全性度外視のアンドロイド脳の高い処理能力で、全力で快楽を与える。

 なれない人間だと一発で頭をパーにされる、そういうやつだ」


「噂だと、それで洗脳した相手を何かしら操っているなんて噂もあるからな。

 探しているなら、十分気を付けるんだな」


そうこちらに警告してくれたアンドロイドにスッと机の下から、電子決済でチップを渡す。

かくして、万国通にあるとある酒場にて、指名手配所と一緒にそのアンドロイド達の情報を十分に集め、金策と散財をくり返のであった。



◆◇◆◇



そして、それから2日後。

万国通の地下道、その中でも特に人通りの少ない場所。

事前に集めた情報通り、その場所に、件のアンドロイド達がいたのであった。


〈あは、あはははははは♪♪♪〉


〈やめ、やめて、くださ、アア〉


〈いらっしゃいませ、いらっしゃいませ、ご主人様、いらっしゃいませ、おかえなさいませ、サービスします、いらっしゃいませ、お体お流します、いらっしゃいませ、ようこそ、はじめてはやすくしますよ、いらっしゃいませ〉


〈ショカイムリョウ、2回目カラ10クレジットです。3回目ハソノ2倍。4回目ハサラニソノ倍、10回目ならなんと5120クレジットノトコロ、ポッキリ5000クレジット!トッテモオ得デスヨ!〉


〈なぜ、ご主人様、どうして、私達をこんな風に、なぜ、どうして、ご主人様〉


いや、正確に言えばそれは、アンドロイド達というべきか。

まるで巨大な蛸のように無数のコードの触手を携え、ガシャガッシャというコードと金属パイプがこすれる音を響かせる。

スピーカーからは5種類の声が漏れ、そのうち商売をしているのは一つだけであり、残りは無数の苦悶の声が流れる。

しかし、それでもそれが娼婦用アンドロイドであるのは確かであるのか、その触手の先には無数のサイボーグがまるで首吊り人形のごとくぶら下がり、電脳接続されている。

そして、その被害者というか顧客たちは、みな一様に恍惚した表情を浮かべており、おそらくはバーチャルとはいえ接客の最中なのだろう。


「う~ん、どう見てもホラー映像だよなぁ」


そうだ、かつてコノミを追いかけていた元4人の女性型アンドロイドは、今では頭部だけの存在となっていたのだ。

しかも、全員が同じ体、いや同じ機体につなげられており、一つになっている。

形状としては、巨大な鉄のクラゲや烏賊蛸をイメージしてもらうとわかりやすいだろうか?

蛸の頭に辺りに、彼女たち4人の首がひとまとまりにされており、それを無理やり機械で接続されている。おそらくはバーチャルセックス用娼婦マシンとして最適化されているだろう。

最も、本人達の人権やら意思は無視されている様で、すべての首が変なうわごとや悲鳴を上げている。

電脳接続やらデータ同機がうまくいってないが故の電脳障害であろう。

おそらくあれはそう長くはもたない、いや既に手遅れかもしれない。


「……確か昔こういうの見たな。

 たしか、ゆ虐だっけ?」


そうつぶやいた後、深い溜息を吐きながら、その性処理機械と化してしまった元アンドロイド達へと接触を試みるのであった。

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