ネット・バトラー!プラグ・イン!!

さて、この世界には電脳空間と呼ばれるものがある。

それは、インターネットが電脳技術により超高度に進化したものであり、また退化したものでもある。

この技術により、人間は簡単な電脳処理さえ行っていれば、電子情報やネット情報をより高度に干渉することができるようになったのだ。


電脳処理による機械やネット操作は、手や眼といった感覚器や運動器を介さない。

そんな電脳機械操作の最終進化系が電脳体と呼ばれる機械操作術である。

この電脳体は、人間やアンドロイドがネット上の情報を電脳空間という疑似的な三次元空間とした認識し、そこに自分の電脳に接続した操作アバターであり、分身でもある電脳体を作ることで、より直感的に、高度にネット電脳活動を行えるというものだ。


わかりにくい?

なら、この世界では、電脳化すれば、ネット空間に体がフルダイブできるようになるんだ。

しかもそれでできるアバターは、大体フィーリングで動けば、おおよそネットでやりたい事が大体できる!すごい便利な時代がきたもんだ!

こういう話である。


かくして、この電脳体によるネット上での情報のやり取りは、人類社会に大きな発達をもたらし、電脳体こそがこの世界の電子情報戦の頂点に君臨するようになった。もっとも、電子体の言う技術自体は、本人の電脳そのものへの負担がでかすぎることや、ゴーストにレギオンの発生原因になっているなど、無数の社会問題を生み出しているわけだが……。まぁ今回はそこまで関係ないので省略させてもらう。

ともかく、以上を踏まえた上で意味私が言いたいのは……。



「要するに、電脳体っていうとっておきまで使って、うちの城に乗り込もうってんだ!!

 それならどういう反撃されても、文句言えねぇよな?

 というわけで死ねぇえええ!!!!!」


「ぎゃああぁぁぁぁ!!」

「ふっ、こんな見え見えの攻撃など…えぼら!!」

「ん?何だこの攻性プログラムは……アバ!アバババババ!!」


場所は、電脳界、我が家のサブパソコン前。

そこには、たった数日のコノミの配信休業宣言後に爆発的に増えた無数のハッカーやゴーストの電脳体がそこに集結していた。

もちろん、ただの遠隔攻撃プログラム程度に我が家のパソコンの防壁がやられるつもりもないし、並の電脳体では何体集まってもここは突破出来ないだろう。


「それでも、連日100近く集まるのは、流石に予想外なのよ、と」


「ぎゃああぁぁぁぁあ!腕が吹っ飛んだぁ!」

「衛生兵~!衛生兵~!!」

「お前が衛生兵になるんだよぉ!」


ガトリングガンに模した攻性プログラムから、ウイルスデータがめちゃくちゃに放たれる。

それを受け、或いは回避し損ねた亡霊どもが破損し、機能を停止していく。

勿論向こうも素人では無いため、いくつかのデコイデータや簡易のファイアウォールでその攻撃を防ぎ、対処してくる。

しかし、それも時間の問題だ。

このガトリングガン型攻撃プログラムとお手製のデジタルウィルスはその程度の守りなど無理なく削り切ることができるだろう。


「ぎぃぃぃ!

 このままでは全滅するのも時間の問題だ!」


「したかねぇ!

 ここは分散して突破するぞ!

 所詮相手は一人だ!」


「コノノン…コノノン…」


最も、それは向こうも十分わかっている様で。

ジリ貧だと判断したゴーストハッカー達が突如一斉にその守りを捨てて、まるでレミングスかの如くこちらのパソコンというなの籠城へ向かって飛び込んできた。

確かにそれは悪く無い判断だ。

何せこちらは一人で、向こうは複数だ。

こちらのガトリングガン型攻撃プログラムは多数に向けて効率よく攻撃できる武器ではあるものの、砲手である私はただ一人だ。

これがもし、なんの仕掛けもない状態であるのなら、ここが見知らぬ場所なら、簡単に彼らの侵入し、この先のデータをハッキングや奪取されてしまったかもしれない。


「……まあ、無駄なんですけどね」


「アビバッ!!」

「こ、こんなところにウイルスが……ぎゃあぁぁ!」

「げぇっ!このルート自体が罠で電源が……、かひゅっ」


しかし、この辺は私の庭で、今回はこちらが守る側なのだ。

なればこそ、こいつらがどの様に来るかわかるの上、その侵入経路に合わせて罠を設置することなど、楽勝なのだ。

それこそ、高性能パソコンをデコイや檻として用意して、生捕りを狙う程度には。


「まあ、逆説的にパソコンやらの現物をデコイにしないと、捕らえられないんだけどなぁ。

 あ〜あ、ほんと電脳戦用キャラで転生したかった」


「だせー!!

ここから出せ〜!!」


無数に喚き立てる電脳体を一つ一つ縛り上げながら、思わずため息をはく。

今回は基本雑魚ばかりだからせいぜい安物のパソコンを1つ2つ犠牲にした程度ですんだ。が、もう少しランクが上の相手だとこれ以上の犠牲と出費が出てしまうことが予想される。

その上、今回の出費はこれだけでは済まないのだ。


「くっくっく!しかしぬかったな!そこの謎の人間よ!

 俺たちの策は、2正面作戦!今頃別動隊が、お前たちのパソコンを……」


「ふぅん、その別動隊っていうのは……こいつらのことか?」


「ひょ?」


そのセリフとともに、自分の背後から現れたのは一人の電脳体。

まるでサンドバックや大根に手足を付けただけのような簡素な見た目。

しかし、その眼光は鋭く、その声は太く重い。


「突然背後からやってこないでくれるか?

 色々心臓に悪い」


「いまさら、俺とお前の仲で、この程度で驚くか。

 周辺の目と耳もつぶし終わった。

 これで今回の仕事は終わりだな」


「ひ、ひえっ!そ、そいつは、別動隊のリーダーで、あっちは救助用予備部隊まで!?

 そんな、ハッカー電脳体100人以上が、全、全全、滅、滅滅滅つつつつつ」


自分たちが完敗したことに気が付いたハッカーや亡霊共が一気にわめき始めるがもう遅い。

なにせ、今回は万が一のことが起きないために、わざわざ友人の凄腕ハッカーであるこいつを雇い入れたのだ。

コイツの名前は、【シャバ】。

依頼料は高いし、伝手を使わないと仕事を引き入れてくれない。

その上仕事のえり好みもあるため、個人的には軽々しく仕事を依頼しにくいが本音ではある。

が、それでも今回の仕事はそれをするだけの必要性があるのだ。


「……ところで、あれは?」


「今からやるところだ。

 というわけで、少し【喰わせて】もらうぞ」


「お、おい!貴様やめ……ぎゃああぁぁぁああ!!!」


シャバはその侵入者の電脳体の頭に指を突き刺す。

すると、その相手型の電脳体の体がまるで高圧電流を受けたかのように、輝き、電脳化された炭化臭が周囲に漂う。

私にとっては見慣れたものだが、周囲にいる動けない侵入者電脳体が、驚き、わめきたてる。

中には逃がしてとか助けてとか、いろんなことを叫んでいるが、電脳体でここに侵入し捕われた時点で、殺生与奪件はこちらに移ってしまったのだ。

残念だが、その辺はあきらめてもらうとしよう。


「……っち、はずれだな。

 一度おもしろい動きを見せたから、何か特別な技術でも持っているかと思ったが……。

 どうやら、ただの偶然だったみたいだな。

 メモリの無駄遣いだ」


「相変わらず、その手の技術集めに熱心だな。

 まだあの夢をあきらめてないのか?」


「当然だ。俺はいずれ電脳戦最強アンドロイドになる男だからな。

 日々鍛錬を欠かす気はないし、実となる技術はすべて習得していくつもりだからな。

 それに『中身入り』を喰いはしないさ、中身入りはな」


そのセリフとともに、この白棒電脳アンドロイドは何人かの電脳体へと手をかける。

なお、彼の言う中身入りとは文字通り、この侵入者の電脳体の正体が、生きた人間や体の残っているアンドロイドである者の事である。

そして中身がない、通称亡霊やゴーストと呼ばれる電脳体は、文字通りすでに本体が死んでいる人間の電脳体や本体の電脳を失ったアンドロイドから生まれた電脳体の事である。


「あいつはいいやつだったのに……よくもアンソニーを!!」


「MarkⅡ、Mark99!!くそおおぉぉ!良くも俺の仲間をおぉぉぉ!!

 絶対に、絶対に殺すうぅぅぅl!!」


「くははは!電脳でしか生きられん、羽虫共がよく吠える!!

 死者の分際で、現世に救い求めるからだぁ!

 アンドロイドも人間も、死せば眠るのが道理!せめて我が引導を渡してやったというのに!!」


もっとも、この手のゴースト電脳体は電脳世界やマイナーネットでは全然珍しいものでもない。

彼らは、確かに現実世界で人権こそ持っておらず、一部では存在自体が忌み嫌われているのはたしかだ。

しかし、だからと言って、コイツみたいに雑にゴーストを処理したり、壊したりするのはねぇ?

悪役みたいな笑い方もしているし。


「はいはい、あほな挑発をしてないで、終わったらどいてくれ。

 今からこいつらを修復しなきゃならないだから」


「むぅ……わかった。

 相変わらずだな、貴様は」


「……!!な、直してくれるのか!!

 す、すまねぇ!恩に着る」


「侵入してきたのは俺達なのに……それなのに、ゴーストに過ぎない俺たちの修理までしてくれるなんて!!」


何を勘違いしたのか、侵入者共が勝手に再びわめき始める。

いや、そりゃそうだろ。

そもそも治療云々を抜きにして、そもそも中身入りの電脳体は下手に壊すとこっちが殺人やら殺アンドロイド、場合によっては器物存在などになってしまう。

いくら正当防衛とはいえ中身入り電脳体の処刑はいろいろリスクがでかい。

そして、それは中身のないゴーストでもそうだ。


「ここにいる何人かは、あいつの配信の視聴者だからな。

 ……いくら厄介ファンとはいえ、ただ切り捨てるだけでは、あいつも悲しむだろ…」


「に、兄さん、まさか、そこまで優しくて……!!」


そうだ、電脳ゴーストは確かに現実に体を持たないが彼らという存在は確かに存在するのだ。

電子の海のデータとして、あるいは配信サイトの視聴者として、だからこそ私は彼らの命は大切にしていきたいと思うのだ。

一、アンダーネットの配信者として、だ。




「それに、高性能ゴーストは、場所によっては高く買い取ってくれるからな!

 ハッキング能力持ちで、捕獲&首輪装着済み。

 これなら、後ろ暗い組織ならどこでも雇ってくれるぞ!鉄砲玉として。

 よかったな!」


「え」


「今回はただでさえ、雇用費や準備費で金を喰ってるんだ。

 意地でも、ただでは死なせんぞ?

 なんなら、普通に売れなくても、性処理のドールでも、ペットロボのAIとしてぶち込んででも、売り上げを出してやる」


「ええ」


「あ、その前にここに関するデータと、そもそもなんでここにたどり着けたか。

 その他もろもろ全部ぶっこ抜かせてもらうからな。

 覚悟しやがれ、ド三下共」


「ええええぇぇぇぇ!!」


かくして、器用に電脳体のまま溜息を吐くシャバを尻目に、こちらは侵入者共の電脳体を思う存分改造&出荷していくのでした。

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